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●ポール・フレールの「Me and Honda」
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鈴鹿の第1コーナーでペン片手に生徒の走りっぷりを鋭く観察するポール・フレール講師。
 

鈴鹿のSベンドにて。ポール・フレール講師がこれからS800で模範走行するところ。ポール・フレール氏はサスペンションをかため、レーシングタイヤをはいただけのS800で、このSベンドを115km/hくらいで走り抜けた。
 

1969年、初めての日本。その最初の目的地が鈴鹿サーキットだった。ドアに名前を大書したスクールカーのS800とともに。
 

最終日には待望のブラバム・ホンダに乗り、鈴鹿を数ラップした。コクピットにおさまっているのは日本の「シルバーフォックス」と称された山口良夫氏。
午前中に説明したことをサーキット上で実際にデモンストレーションしてみせるための教習車として私に与えられたのは、新車でハードトップ付きの美しい黄色のHonda S800で、左右両ドアの上には英語と日本語で私の名前が大書されていた。
私はこのS800が大いに気に入った。この小さなクルマが鈴鹿サーキット上で私に与えてくれた喜びは、今も鮮明に私の記憶の中に生きている。鈴鹿という世界トップレベルのサーキット(35年前も現在も)で、S800のラック・アンド・ピニオン・ステアリングの正確さやスポーツカーらしく短くシャープなギア・レバーのストロークを楽しみつつ、8000回転まで滑らかに噴け上がる素晴らしいエンジンを駆使する一方、ブレーキング・ポイントを見極めグリップの限界まで責めながらコーナーを駆け抜ける。それは、えもいわれぬほどエキサイティングだった。

エンジンに関して付け加えるなら、当時でもロードカーでレッドゾーンが8000回転というのは聞いたことがなかったが、30数年経った現在でも稀で、現行S2000の9000回転というのは世界一の高回転エンジンで、フェラーリに8500回転エンジン搭載のモデルがあるのが唯一近い例と言える。ともかく、小ぶりなスポーツカー、S800はとても楽しいクルマだった。あの時お土産に買って帰ってればよかったと、今でも悔やんでいる。

カーグラフィック主催のレーシング・スクールの参加者はとてもバラエティに富んでいて、その中には二玄社からもカーグラフィック編集部数名や渡邊社長自身が含まれていた。ドライビング・テクニックもピンからキリまで様々だったが、幸いなことにコースを無事終了した人たちが明確な進歩を遂げていたことは、今でも私の誇りとなっている。3〜4名レース経験のある、飛び抜けてドライビングが優秀な参加者がいて、その中の一人が、レーシング用にチューンの施されたS800のエンジンを積み、ブリヂストンのレーシングタイアを履いたF3ブラバムを持ち込んで来ていた。レーシング・コース終了間際、彼が私にF3ブラバムを乗るよう勧めてくれた。乗ってみてそのクルマの性能がヨーロッパで使われているプッシュロッド・バルブ付き1000ccエンジン搭載のFIA公認F3レースカーに優るとも劣らないものだと感じたのを覚えている。もう一つのうれしい収穫は、その時代のヨーロッパにおける日本製タイアの評判のひどさに反して、ブリヂストン製レーシングタイアがとても良かったことだった。

数ヶ月後、残念ながら名前は憶えてないが、そのクルマを運転させてくれた才能ある若いドライバーはブリュッセルに私を訪ねてくれたので、夕食を共にし、市内を案内した。しかしその次に日本に行った時に、彼がレース中の事故で亡くなったことを聞かされ、哀しい想いをしたのを憶えている。 (第4回に続く)
(写真提供 カーグラフィック)
 
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