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●「Sの系譜」S600旅行記 小林彰太郎 Vol.2
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旅の終わりには、フィレンツェからハンブルクまで、一気に1,500kmを北上した。最終日は途中3回の給油と食事を含め、615kmを5時間半で走破した。スイス、オーストリア・アルプスでは、グロース・グロックナー、グリムゼル、フルカ、ブレンネル等々名だたる峠を10余り越えた。到達した最高地点は2,600mだったがアイドル回転が500に下がった以外エンジンの調子に変わりはなく水温は常にノーマルに保たれた。ヨーロッパでS600を長旅に使って実感したのは、実用的なGTとしての、予想以上に高い実力だった。130-140km/hの高い巡航が可能なのは、なによりも直進安定が抜群だからであり、横風に対する強い抵抗力も強みだった。

居住性についても、コクピットは広くないのに、脚を充分に伸ばして坐れるので、長時間乗り続けても不当に疲れない。チェーンドライブのS600ではデフが前方にあり、アルミ鋳物製チェーンケースが後輪独立懸架のトレーリング・アームを兼ねる。したがってトランクが深く、われわれ2人が2カ月半の外国旅行に必要な
最小限度の荷物を携行できた。S600は到るところで注目の的だった。特に英国ではそうで、まだ1台も輸出されていない64年当時、多くの人が予備知識を持っていたのに驚いた。路上で一瞬すれ違っただけで認識し、“Oh! Honda!” と唇が動くのが読めた。やはり2輪GPを数年で総ナメにした実力と、4輪レースの経験ゼロからいきなりF1に打って出た、無謀ともいえるHondaの積極的なスタンスがモータースポーツのメッカ英国では、特に人々の共感を呼んだのだろう。

そう言えば、辛口をもって鳴る英国の専門誌も、Hondaに対してはごく初期から一目置いており、他の日本メーカーとは明らかに一線を画していたと思う。その後S600は、65年秋にエンジンを791cc 70ps/8,000rpmに強化したS800に発展、最高速度は160km/hに、0-400m加速は16.9秒という駿足になった。翌年には大きな特徴だったチェーンドライブが廃されて、上下2本のトルクロッドとパナールロッドで位置決めされるリジッド・リアアクスルになった。この設計変更は、主な輸出市場だった北米のディーラーからの“外圧”が遠因だという。そのころになるとオープン2座よりもクーペが主流となっていっそう小型GTの性格が前面に出た。Honda“S”は10年間に約2万5,000台を生産したのち70年5月にその生涯を終える。台数としては決して多い方ではないがいまも世界各国にHonda Sだけの愛好家クラブが存在し、盛んに活動しているのは嬉しい限りである。あれから30年が過ぎ去った。
12000kmをノントラブルで走破したS600。
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