NSX開発者・RC213V-S開発者が語る Vol.2いま「スーパー」な
スポーツモデルが必要な理由

和田
「そうですね(笑)。悪く言っているというよりは、Hondaのバイクづくりへのこだわりを多くの人が理解しているからこその言葉なのだろうという気がしますが、バイク談義の定番の話題ではありますね」

宇貫
「『乗りやすい』のは私たちのバイクづくりのポリシーで、これはなんと言われようと変わることはないのですが、それもとことんまで突き詰めると、これほどまでに他と違う、周囲の空気を変えてしまうほどのバイクになる……というのは、Hondaとして世の中に面白いものを示すことができたと思っています」

宮城
「興味深いことに、一転して街中だとみんな寄ってくるんですよ。信号待ちをしているときに、横断歩道を渡っていた人から『これニュースで見ました!』と話しかけられたこともありましたし、声を掛けられたのは二度や三度ではありません。バイクに乗っていて一般の方から声を掛けられる機会というのは、そんなに多くありませんが、RC213V-Sは例外です。こういった『突き抜けた』工業製品が脚光を浴びて世の中でニュースになるというのは、やはり程度の差こそあれ、みんなこういうものを求めていたということなのでしょうね」

「アグレッシブに生きたい」人の想いにHondaが応え続けるために

宮城
「多くの方がこういうものを待ち望んでいた……とはいえ、やはり四輪・二輪の最高峰モデルとして、デビューまでには『どんなものをつくるか』という苦労が絶えなかったのではないかと想像しているのですが」

和田
「ご存知の方も多いかもしれませんが、NSXという言葉の語源は『New Sports』。つまり、乗り手がスポーツを楽しむ上での新しいアプローチがあれば、別に駆動方式がFFでも、パワープラントがバッテリーでも、何でも構わないんです。逆にそういった何らかの『新しさ』が無ければ首脳陣も決して首を縦には振らないですね。エンジンをパワーアップしたり、車体を軽くするだけなら、Hondaでなくてもできる、と」

宇貫
「なるほど。やっぱり新しいものが無いとダメなんですね」

和田
「そうですね。私もイタリアやドイツのスーパースポーツは好きですが、たしかに同じようなものを作っても面白くはありません。視界の良さや毎日でも乗りたくなるドライバビリティといった、初代NSXの美点は守り切った上で、私たちだけのまったく新しい価値を提案したい……というときに目を付けたのがSH-AWDハイブリッドシステムだったんです」

宇貫
「乗る人に喜んでいただこうということを考えたとき、ひとつの方法に粘り強く取り組み続けるというのはもちろん大切なのですが、そこで『誰もやったことのない方法はないのか?』『こっちの方が喜んでもらえるんじゃないのか?』と考えてしまうのは、二輪、四輪を問わずHondaの『習い性』と言えるものなのかもしれませんね。
MotoGPマシン『RC213V』のルーツとなる『RC211V』は、独創的なV型5気筒エンジンを搭載していましたが、これを選んだ理由もレギュレーション的な優位点があったことだけではなく、『誰もやったことがないから』だったと聞いていますし」

宮城
「公道を走れるMotoGPマシンを作ります、なんて企画は、それこそ誰もやったことのないものです。よくそんな企画が通りましたね」

宇貫
「前例が無いことだけに、正式にゴーサインが出るまでにはやはり時間がかかりますが、それを待っていては機を逸してしまいます。すると開発のトップが『いいから構わず開発を進めろ』と。バイク作りに携わる者なら、おそらく誰もがやってみたかったことですからね(笑)。実際にゴーサインが出た頃には、ほとんど開発は完了していました」

宮城
「それはなんともドラマチックな話ですね……」

和田
「二輪開発のトップの方は相当に肝が据わっていますね(笑)」

宇貫
「最初の話に戻ることになるかもしれませんが、誰しも若く、アグレッシブに生きていきたいんですよね。世の中には面倒なことや考えなくてはならないことも多いですが、そこで周りと横並びになって小さくまとまるのではなく、我が道を行きたいという気持ちを誰もが秘めているんだと思います。
そういった方の想いや期待に応えるためには、私たちがまず型破りな発想を持って、突き抜けたものづくりをする必要がある──。NSXやRC213V-Sは、そんなHondaとしての意思表明でもあるんですよね」

宮城
「Hondaが人の気持ちに応え、それによって時代の空気を変えてきたという事例はいくつもあります。古くはスーパーカブもそうだし、シビックなどもそうでした。時代が進んで乗り物が多くの人に行き渡ったいま、Hondaが繰り出した『NSX』『RC213V-S』という存在が時間をかけて、どのように人の気持ちと時代の空気を変えていくのか、見守っていきたいと思います」
第3回へ続く

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