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Vol.3 -Front Wheel Drive- 「人間中心」のクルマづくりが果たした「FF量産車最速」

Vol.3 -Front Wheel Drive- 「人間中心」のクルマづくりが果たした「FF量産車最速」

なぜ、レーシングドライバーはハイスピードでクルマをコントロールすることができるのか。
彼らが、スピードに対する恐怖心が少ない特別な人間だからなのか。
それとも、恐怖に打ち勝つことを美徳としているからなのか。
否、かつてF1™のマシンもドライブしていた、あるレーシングドライバーは語る。
「私たちはスピードを追求しているが、ただの『命知らず』ではない。
心から『このクルマなら身を任せられる』と思えるクルマに乗れていなければ、それは勇気ではなく、
ただの蛮勇になってしまう。速さなど追求することはできないよ」
超ハイスピードの領域において、FF車を彼らの言う「身を任せられるクルマ」に仕上げることは簡単ではない。
これをあの手、この手で証明しにかかってくるのが、
世界で最も厳しいコースであるニュルブルクリンク・北コースなのである。

「トラクション」こそ
生命線

操舵と駆動の双方をフロントタイヤが担うFF車を使ってスポーツドライビングを行う上で、「トラクション」は生命線である。
操舵輪で方向を定め、駆動輪からエンジンのパワーを路面へと伝えて、車両をコース上のあるべき場所へと、しかるべきタイミングで的確に移動させていく──そのスポーツドライビングの大前提を成立させるためには、常にフロントタイヤを路面に接地させておかなくてはならないからだ。
しかし、ニュルブルクリンク・北コースは車から「トラクション」を奪おうと、他では考えられないほどの厳しさで攻め立ててくるのである。
路面は継ぎ接ぎだらけで、前輪左右の摩擦係数がしばしば異なるために、コーナー出口に向かってアクセルを全開にした時点で、ステアリングを切った方向とは無関係にクルマが暴れ出すトルクステアが発生しやすい。ドライバーが力任せに押さえ込める体力を残していれば冷や汗をかくだけで済むかもしれないが、一歩間違えば、エスケープゾーンがほとんど存在しないコース外へと飛び出してしまうことになる。
そして、波打ち、うねる路面は、接地しようとするタイヤに対して「離れろ、離れろ」と激しく突き上げ、ただでさえ加速にともなってフロント荷重の減少したFF車のトラクションを、いとも簡単に失わせてしまう。

FF車は、
必ず速くなる

トラクションとはつまるところ「前に進もうとする力」であるから、解決策とは単純なものだ。すなわち「加速させない」ことに尽きる。
四輪のいずれかにブレーキをかければトルクステアは低減できるし、出力を絞ってしまえばフロントの接地も失われない。
……しかし、だとするならば何のためにこだわった高出力なのだろうか?前輪を駆動させるFF車とは、高出力を御することの叶わない駆動形式なのだろうか?
しかし、開発陣には確信があった。
FF車は必ず速くなる。ドライバーに深い安心感を与え、圧倒的ハイスピードを安定して扱うことによるドライビングプレジャーを感じてもらうことができる──。
カギは、いかにしてタイヤを接地させ続けるか。そして、適切にトラクションをかけ続けることができるかどうかだ。
ナックルとストラットを分離させてキングピン軸の傾きを抑え、センターオフセットを縮小させることでトルクステアを低減するデュアル・アクシス・ストラットサスペンション。リアルタイムかつ連続的に4輪のダンパーの減衰力を電子制御することで常にフロントから路面へとトラクションをかけ続けることを可能にするアダプティブ・ダンパー・システム。

持てるシャシーテクノロジーは惜しみなく注ぎ込んだ。
その足回りが取り付けられるボディに求められるのは「剛性」ばかりではない。
他のサーキットでは考えられないほどの「上下」のGがかかり続けるため、タイヤを接地させ続けるためには、「靱性」もまた求められるのだ。
ボディの接合に構造用接着剤を用いて効果的にボディ剛性を高めることで、ジャンピングスポットを経て手荒く「落下」させられたとしても音を上げず、それでいて、適度にしなって挙動を穏やかなものにする、懐も深いボディを現実のものとした。
ひとつとして同じ路面が存在しないといっても過言ではない全長20kmあまりのコースでシャシー、ボディは鍛え上げられ、常にタイヤを接地させ続けられる、優れた「トラクション性能」を獲得。SUPER GTドライバーの武藤英紀選手が「保舵の必要がないほどに安定している。これはFF車の動きじゃない」と舌を巻くほどの安定した挙動を実現することが可能となったのだ。

Hondaが初代CIVICを送り出してから40年以上。「FF車」は世にあふれ、当たり前のものとなった。
しかし、「フロントエンジン・フロントドライブ」という駆動方式にどれだけの可能性が眠っているのかを探り当て、それを誰もが最大限にまで引き出して楽しめるようにするのは、FF車を進化させ続けてきたHondaと、CIVICに課せられた使命でもある。
ニュルブルクリンクの北コースにおける「FF量産車最速」記録への挑戦は、単にラップタイムだけを追求したものではない。FF車に秘められたポテンシャルを世界に向けて、スポーツドライビングを愛するファンに向けて証明し続けていくという決意表明なのだ。

※ 開発車のテスト走行による。 Honda調べ(2015年10月)

 

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