(財)本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:川島廣守)は2008年の本田賞を、世界で初めて収差補正技術を用いて原子レベルを可視化する電子顕微鏡を開発したドイツのプロジェクトチーム=マキシミリアン・ハイダー(Maximilian Haider)博士、ハラルド・ローズ(Harald Rose)博士、クヌート・ウルバン(Knut Urban)博士=に授与することを決定した。同チームは29回目の本田賞受賞者となる。
受賞チームが電子顕微鏡の分解能を上げるために用いた収差補正理論は、1940年代、ドイツ人科学者オットー・シェルツァー(Otto Scherzer)博士によって提案されたが、世界各国の開発チームが挑むも成功しなかったため、同理論に基づく電子顕微鏡の実用化は不可能であるというのが定説になりつつあった。1989年、受賞チームは、同技術を用いた電子顕微鏡の開発に着手し、理論を精査するとともに、光工学と素材科学の融合によって機械的動作の安定性を高め、1995年、当時の同クラス最新鋭電子顕微鏡をはるかに上回る原子レベルの分解能を持つ透過型電子顕微鏡※1の実用化に成功した。
現在、この収差補正技術を用いたシステムは、ドイツのCEOS社(社長:ハイダー博士)から日本やドイツなどのメーカーに供給され、それらメーカーによって電子顕微鏡に組み込まれ、世界中で販売されている。これらの電子顕微鏡は、ナノレベルのバイオ研究や、半導体デバイスの超微細化と高集積化、金属材料の研究における原子の配置、構造、原子同士の結合状況の検証や解析にまで広く活用され、これらの研究活動には欠かせないものとなっている。また、これらの研究が将来の新素材発見などにつながることも期待されている。
同チームでは、ローズ博士が理論の再構築、分析と基本設計を、ウルバン博士が素材科学を基にアプリケーションを、ハイダー博士が光工学と機械設計を中心にプロジェクトを推進した。これら3名の物理学者が示したチャレンジ精神、そして、多くの人々の生活に寄与する基本技術の具現化はエコテクノロジー※2の実例の一つであり、本田賞にふさわしいものと考える。
第29回本田賞授与式は、2008年11月17日に東京の帝国ホテルで開催され、副賞として1,000万円がチームに贈呈される。
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2008年本田賞受賞者略歴
(58歳)オーストリア・フライシュタット
キール大学物理学科入学
ダルムシュタット工科大学H.ローズ物理学研究室卒業
ダルムシュタット工科大学応用物理研究所H.ローズ・グループ 科学者
欧州分子生物学研究所A.V.ジョーンズ・グループ 科学者
ダルムシュタット工科大学H.ローズ研究室 博士
走査型透過電子顕微鏡開発・応用グループ長
200キロボルト級透過型電子顕微鏡収差補正研究プロジェクト長
CEOS社 社長(ハイデルベルグ)
(73歳)ドイツ・ブレーメン
ダルムシュタット工科大学数理物理学科入学
ダルムシュタット工科大学物理学科修士/博士課程卒業
ダルムシュタット工科大学物理理論研究所 研究員
ダルムシュタット工科大学応用物理研究所 準教授
ニューヨーク州厚生部 主席研究科学者
レンセラー総合技術研究所物理学 教授(ニューヨーク州)
ダルムシュタット工科大学応用物理研究所 教授
西安交通大学物理学 客員教授(中国)
ローレンス・バークレイ国立研究所 特別研究員(カリフォルニア州)
ドイツ・シュツットガルト
シュツットガルト工科大学物理学科卒業
シュツットガルト工科大学自然科学科博士課程修了
マックス・プランク金属研究所(シュツットガルト)研究員
バーバー原子力研究所(インド・ムンバイ)
東北大学多元物質科学研究所
エアランゲン大学素材科学部 教授(ドイツ)
アーヘン大学実験物理部長(ドイツ)
ユーリッヒセンター微細構造研究所設立(ドイツ)
アーネスト・ルスカ(超高分解能電子顕微鏡)センター設立(ドイツ)