ニュースリリース

2008年09月30日ニュースリリース

2008年本田賞 収差補正技術を用いて原子レベルを可視化する電子顕微鏡を開発 素材等の研究分野に貢献したドイツの開発チームに -本田財団が授与-

 (財)本田財団(設立者:本田宗一郎・弁二郎兄弟、理事長:川島廣守)は2008年の本田賞を、世界で初めて収差補正技術を用いて原子レベルを可視化する電子顕微鏡を開発したドイツのプロジェクトチーム=マキシミリアン・ハイダー(Maximilian Haider)博士、ハラルド・ローズ(Harald Rose)博士、クヌート・ウルバン(Knut Urban)博士=に授与することを決定した。同チームは29回目の本田賞受賞者となる。

 受賞チームが電子顕微鏡の分解能を上げるために用いた収差補正理論は、1940年代、ドイツ人科学者オットー・シェルツァー(Otto Scherzer)博士によって提案されたが、世界各国の開発チームが挑むも成功しなかったため、同理論に基づく電子顕微鏡の実用化は不可能であるというのが定説になりつつあった。1989年、受賞チームは、同技術を用いた電子顕微鏡の開発に着手し、理論を精査するとともに、光工学と素材科学の融合によって機械的動作の安定性を高め、1995年、当時の同クラス最新鋭電子顕微鏡をはるかに上回る原子レベルの分解能を持つ透過型電子顕微鏡※1の実用化に成功した。

 現在、この収差補正技術を用いたシステムは、ドイツのCEOS社(社長:ハイダー博士)から日本やドイツなどのメーカーに供給され、それらメーカーによって電子顕微鏡に組み込まれ、世界中で販売されている。これらの電子顕微鏡は、ナノレベルのバイオ研究や、半導体デバイスの超微細化と高集積化、金属材料の研究における原子の配置、構造、原子同士の結合状況の検証や解析にまで広く活用され、これらの研究活動には欠かせないものとなっている。また、これらの研究が将来の新素材発見などにつながることも期待されている。

 同チームでは、ローズ博士が理論の再構築、分析と基本設計を、ウルバン博士が素材科学を基にアプリケーションを、ハイダー博士が光工学と機械設計を中心にプロジェクトを推進した。これら3名の物理学者が示したチャレンジ精神、そして、多くの人々の生活に寄与する基本技術の具現化はエコテクノロジー※2の実例の一つであり、本田賞にふさわしいものと考える。

 第29回本田賞授与式は、2008年11月17日に東京の帝国ホテルで開催され、副賞として1,000万円がチームに贈呈される。

  • ※1透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope)
    薄い試料に電子線をあて、透過してきた電子による干渉像を拡大し観察する顕微鏡。
  • ※2エコテクノロジー(Ecotechnology)
    文明全体をも含む自然界をイメージしたEcology(生態学)とTechnology(科学技術)を組み合わせた造語。人と技術の共存を意味し、人類社会に求められる新たな技術概念として1979年に本田財団が提唱。

問い合わせ先:
(財)本田財団 〒104-0028 東京都中央区八重洲2-6-20 ホンダ八重洲ビル
TEL:03-3274-5125 FAX:03-3274-5103 http://www.hondafoundation.jp

2008年本田賞受賞者略歴

H.ローズ博士、M.ハイダー博士、K.ウルバン博士

マキシミリアン・ハイダー博士

出身

1950年1月23日

(58歳)オーストリア・フライシュタット

学歴

キール大学物理学科入学
ダルムシュタット工科大学H.ローズ物理学研究室卒業

職歴

1982年

ダルムシュタット工科大学応用物理研究所H.ローズ・グループ 科学者

1983年

欧州分子生物学研究所A.V.ジョーンズ・グループ 科学者

1987年

ダルムシュタット工科大学H.ローズ研究室 博士

1989年

走査型透過電子顕微鏡開発・応用グループ長

1996年

200キロボルト級透過型電子顕微鏡収差補正研究プロジェクト長

1996年

CEOS社 社長(ハイデルベルグ)

ハラルド H. ローズ博士

出身

1935年2月14日

(73歳)ドイツ・ブレーメン

学歴

ダルムシュタット工科大学数理物理学科入学
ダルムシュタット工科大学物理学科修士/博士課程卒業

職歴

1965年

ダルムシュタット工科大学物理理論研究所 研究員

1971年

ダルムシュタット工科大学応用物理研究所 準教授

1976年

ニューヨーク州厚生部 主席研究科学者

1977年

レンセラー総合技術研究所物理学 教授(ニューヨーク州)

1980年

ダルムシュタット工科大学応用物理研究所 教授

1987年

西安交通大学物理学 客員教授(中国)

2003年

ローレンス・バークレイ国立研究所 特別研究員(カリフォルニア州)

クヌート W. ウルバン博士

出身

1941年

ドイツ・シュツットガルト

学歴

シュツットガルト工科大学物理学科卒業
シュツットガルト工科大学自然科学科博士課程修了

職歴

マックス・プランク金属研究所(シュツットガルト)研究員
バーバー原子力研究所(インド・ムンバイ)
東北大学多元物質科学研究所

1984年

エアランゲン大学素材科学部 教授(ドイツ)

1987年

アーヘン大学実験物理部長(ドイツ)

1987年

ユーリッヒセンター微細構造研究所設立(ドイツ)

2003年

アーネスト・ルスカ(超高分解能電子顕微鏡)センター設立(ドイツ)