このNRの販売価格目標は300万円。過去にすでに148万円のRC30があるし、NRの特殊性と高額パーツ群を考えれば妥当な価格ともいえた。ところが既存の設備で加工できたRC30と違い、楕円ピストンとシリンダーの専用加工機械の開発から始めなければならなかったNRだけに、その目標にはおさまらなかったのである。
シリンダーの高精度加工のためにホンダエンジニアリングは新型のマスタカム倣い加工機を開発し、ピストンの高速加工はNC制御で可能にはなったが、その投資額は相当なものになってしまった。さらに組みあわされる各気筒に2本ずつ計8本のコンロッドはチタン製、この時点ですでに300万にはおさまらない。
さらに専用の塗料も高価だし、スクリーンのチタンコートの処理装置も専用のものを作らなければならなかった。とにかくこのNRというバイクはことごとく新技術と新素材で構成されているのだ。そしてそれを成立させるためには、新しく加工設備や処理装置を作るところからはじめなければならなかったのである。
その結果、これまでのバイクの常識を打ち破り、高級乗用車に匹敵する520万円という高価格のバイクが誕生。技術の発想が常識破りなら価格までも桁外れである。
この価格についてはずっと開発チームを悩ませた。初期の段階ではここまで高額ではなかったし、'90年のバブル崩壊も重くのしかかり、営業部門からは「利益にまったく寄与しない開発は中止すべき」ともいわれていた。この時開発を継続したのは本田技術研究所の福井専務(現本田技研工業専務)の強い意志だが、どうしてホンダはそのような壮大な無駄に挑もうとするのか? それはきっとホンダが『夢を追い求める企業』だからだ。いつも「いつかレースで勝利する」「いつか夢の車を作りたい」と夢を追いつづけ、そして多くの人と“夢を共有”してきた。未知なるものに挑戦し、技術でそれを獲得したいという情熱がこれを支えているのだろう。
ようやく開発が終了し、まだ市販直前のNRをレーサーNRでルマン24時間耐久に出場した日本人ライダーの根本健さんに試乗していただいた。バイクから降りた根本さんから「コングラチュレーション!」と握手を求められた瞬間、市販車NRとして認知されたことを実感した。 |
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| ある日のこと、朝霞研究所に『ラストオブモヒカン』や『アリ』で知られる映画監督のマイケル・マン氏が来訪。「愛車RC30の開発者に会いたい」ということだったが、できたばかりのNRを見せたところいたくお気に入り。帰国後購入されたそうだ |
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| 市販前のNRを鈴鹿8耐のマーシャルバイクとして使うことが決定。乗るのは'82鈴鹿8耐優勝経験を持つ萩原紳治(右)と飯島茂男(左) |
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