OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2016.04.26
名匠一族の新たなる挑戦 5

桜花爛漫。
サノ24ランナバウトで、
華やぐ大横川を行く。

江戸期に開削された運河と、昭和生まれの桜。

微速で大横川を行くサノ24ランナバウト。
ホンジュラス・マホガニーの艶やかさが、薄紅色の桜花によく合う。
昨年の船人紀行でもご紹介したが、東京・江東区の門前仲町付近を流れる大横川は、桜の名所である。
花の重みに耐えるように川面すれすれに伸びた枝数は他所他川の比ではなく、都内屈指の観桜スポットとして人気が高い。船からも川沿いの遊歩道からも、桜を堪能することができる。
大横川は、1659年(万治2年)に市域の治水と舟運を目的に本所奉行所によって開削がはじめられた運河だが、その堤に桜が景観整備の一環として植樹されていったのは1986年(昭和61年)以降のことだ。言ってみれば、われわれは掘られて357年の運河で、樹齢30年の桜を楽しんでいるということになる。
桜の向こうにお洒落なボートが現れると、大横川沿いの遊歩道を歩く人が驚く。
このフォルムを橋上から見れば、だれでも「素敵ですね!」と声をかけたくなる。
花蕊(かずい)を啄ばむメジロを眺めながら、今年も春の大横川をクルージングする機会を得た。
船はHondaの225馬力の船外機が搭載されたサノ24ランナバウト。
ドライバーズシートには佐野造船所の9代目社長の佐野龍太郎氏が収まり、ナビシートには奥様の美穂さんが座られた。
このサノ24ランナバウトは、ホンジュラス・マホガニーで造られた至極の工芸品とも評されるウッドボートである。色合いもマホガニー独特の柔らかな赤味を帯び、桜田に実によく似合う。大横川を行けば、低い橋上からそのフォルムと色味を指して、「素敵なボートですね!」と声が掛けられる。それも一度や二度ではない。そんな声にちょっと照れてしまうのは、わたしだけか。

ところで、佐野造船所が造り出すヨットやボートなどの船は、5~6年に一度ニス塗りを繰り返し、的確なメンテナンスをしてやることで、艇体のコンディションは新艇のような状態を永く維持することができる。これこそがマホガニーやチークを利用して作る船の魅力でもあるのだが、加えてよく耳にするのが「佐野造船所が造る船は、一生かかっても乗りきれない」という言葉だ。要するに船の寿命が圧倒的に長く、親から子に受け継いで代々乗り続けることができるという意味だ。これも素敵な話ではないか。
大横川に架かる橋は低い。薄暗い橋脚を抜けると、堤に華やかな桜。
サノ24ランナバウトのバウデッキを見る。ため息がでるような美しい仕上がりだ。2連の電子マリンホーンの手前にプリズムガラス。すべての艤装品の配置が計算されている。
こんなコックピットでステアリングを握るのは、船好きなら誰でも憧れるものだ。ドリンクホルダーもマホガニー製というこだわり。
トランサムには、Hondaの225馬力の船外機が搭載される。航海灯は低い橋梁通過を踏まえ、倒している。
ランナバウトという性格の船は、湾内や湖水などを自在に滑走することを得意とする。
サノ24ランナバウトも、河口を抜ければ剛性度の高い艇体特性を活かして、38ノットで疾走する。一方で微速の水路クルーズでも舵利きがよく、扱いやすさが際立つ。加えてユーティリティの高さも評価が高い。全長7.40m、全幅2.45m、吃水0.85m、艇体重量2000kgというのがサノ24ランナバウトの基本スペックだが、コックピット周りはひとクラス上の広さを感じる。特にスターン寄りに配置されたU字シェイプのソファには大人4〜5人が楽に座れ、豪華なマホガニー製のテーブルを囲むことができるのだから嬉しくなる。家族や友人と過ごすアフタークルージングが楽しいものになるはずだ。
U字シェイプのソファは使い勝手が良い。テーブルもマホガニー製という豪華さ。それにしても、お洒落だ。
佐野造船所9代目の佐野龍太郎社長と、奥様の美穂さん。現在、美穂さんは東京海洋大学大学院に社会人入学され、鯨類学を専攻されている。
取材協力:(有)佐野造船所
文・写真:大野晴一郎