OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2017.08.09
名匠一族の新たなる挑戦 12

ホンジュラス・マホガニーを使った
チャインは2層構造。
その1層目の取り付けが行われた。

RIGBYの船体完成が近づいてきた。
今回は、7月に行われたチャイン1層目の建造工程をご紹介する。
ボトム(船底)と船側(せんそく)の境目を舳(みよし=ステム)からトランサムまで続くRIGBYのチャインは、滑走型ハルに見られるハードチャインと呼ばれるものだ。不要なローリングを抑え込んでスタビリティを確保し、艇体の滑走を助けるためにある。さらに船首付近ではステムから湧き上るスプレーを、海面に叩き落すスプレーノッカーの役目も果たす。わずか10cm前後の幅の艇体構造物だが、「走り」に大きく影響するとあって、設計者である龍也氏のこだわりが見られる箇所である。
ホンジュラス・マホガニーによるチャイン1層目の取り付け作業がはじまった。曲線で構成された船側(せんそく)に合わせるため、差し金が欠かせない。
こだわりのひとつが構造だ。
船側と同じホンジュラス・マホガニーを2層で使う。
1層目は4分厚(約1.2cm)で、2層目は6分厚(約1.8cm)となる。つまり船側とまったく同じ構造をチャインに持たせるわけだ。工程としては1層目のチャインを張り終えたところでボトムの1層目の建造を行い、その後にチャインの2層目、続いてボトムの2層目を張って、トランサムを除く船殻(せんこく)が完成する。
佐野社長(左)のサポートを受け、チャインのための部材を4分厚に伐る龍也氏。
チャインを張る前の状態(写真手前下がトランサム方向)。右側大外に赤身を帯びたホンジュラス・マホガニーの船側が見える。2層構造で1寸(約3cm)の厚みがある。その船側には薄茶色の縦通材(チーク材)が密着している。その左側の隙間をはさんで、もう一本左側の縦通材までがチャインを張る部位だ。
大きめに伐ったチャインとなる部材を置く。先にボトム側の曲線を縦通材のラインに合わせて決めていく。載せられた板の左側がボトム側だ。
今回行われたチャイン1層目の建造は、秘蔵の全長16.5尺(約5m)のホンジュラス・マホガニーを、佐野社長と龍也氏が二人がかりで4分厚に製材するところから始まった。
厚みに関しては設計通りに製材するだけなので、難しいことではない。
問題は幅だ。
すでに完成している船側は、曲線で構成されている。加えて縦通材とフレームがむき出しになっているボトム部分も一見直線的に見えるが、実はチャインとの合わせの部分は曲線で構成されている。4分厚に製材されたマホガニーは、内側となるボトム側と、外側となる船側とでは、まったく違う曲線で伐らなくてはいけないわけだ。
船側の曲線を部材にトレース。
龍也氏は、ボトム側の曲線を4分厚の板にトレースして、鋸(のこ)と鉋(かんな)で正確に削り、まずはボトム側を決めた。次に船側の曲線をトレースし、やはり鋸と鉋を使ってピタリと合わせていった。舳(みよし=ステム)との合わせの部分は、鑿(のみ)を巧みに使って船側との面(つら)を合わせる技を見せた。
全長31フィートともなると、チャインは分割して取り付けられる。1層目は4分割となった。いずれも繋ぎの箇所はフレーム合わせ、エポキシ樹脂系接着剤と木ねじで固定された。ちなみにトランサム寄りのチャイン幅は、最大で4寸5分(約14cm)と、かなり幅広に設計されている。
トレースした曲線に合わせて、部材をカットする。
トランサムからミジップ(船体中央)までのチャインが完成。
全長31フィートの艇体なので、チャインは数本に分けてフレームのところでつぎ足すように張られていく。最終的にはトランサムから舳(みよし=ステム)まで4分割してチャインが張られた。写真はトランサムからミジップ付近までチャインを張り終えたところで、残すところは船首方向だけとなった。縦通材と船側が造る曲線は美しいのだが、そのラインに合わせてチャインを張る作業は、かなり繊細な作業だ。
エポキシ樹脂系接着剤を使うため、船側にはマスキングテープを貼る。接着したあとは木ねじで固定する。
左舷側(写真に向かって左側)の舳(みよし=ステム)までチャイン1層目を張り終えた。このあと鉋(かんな)とノミで、船側の面に合わせてチャインを削っていく。右舷は、まだチャインは張られていない。
舳(みよし=ステム)まで張られたチャインを、ノミを巧みに使って船側と面を合わせていく。
左舷側のチヤインが完成。
最終的にはチャインは2層となる。張り終えた1層目の上に、6分厚の板を仮置きしてもらった。最終的にはかなり厚みのあるチャインとなる。幅はトランサム付近で4寸5分(約14cm)ある。
取材協力:(有)佐野造船所(http://www.sano-shipyard.co.jp/index2.htm)
文・写真:大野晴一郎
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