OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2017.04.26

世界から釣り客が集まる、
ノルウェー北部のフィッシングリゾート

SALTSTRAUMEN BRYGGE
サルトストラウメン・ブリッジ

6時間ごとに、ここまで荒れる。
沸き立つ海峡。
世界最速の海流と、大渦潮
潮が動き始めた。大渦潮を見るために海峡に急ぐ。
ノルウェーの西岸は、氷河の浸食によって造られたフィヨルドが延々と続く。
サルトストラウメン周辺も、氷塊が塑性流動して見事なフィヨルドが造られている。
地図Bでわかるように、フィッシングリゾートであるサルトストラウメン・ブリッジのある場所は、言ってみれば内海。そして幅が約150mのサルトストラウメン海峡を経て、外海であるノルウェージャン・シーへと続く。
この海峡を6時間ごとに潮が動く。
クルトさんとウッドデッキで話しているときは、ちょうど潮止まりの時間帯だった。そしていよいよ潮が流れ始めるというとき、彼は「時間だ」と言って、われわれを船に促したのである。

桟橋から走ること5分。目の前に世界最速の潮流を誇る海峡が迫ってきた。
しかしながら、そこに潮の動きはなかった。ベタ凪だ。海鳥がのんびりと海に浮き、羽を休めている。われわれも鏡面のような海に漂い、「これって、世界最速?」と戸惑っていると、アイドリング状態の船がスーッと外海に向かって流され始めた。すかさずクルトさんがエンジンを回して船を内海側へと戻す。そしてまたスーッと流される。そんな動きを数回繰り返しているうちに、幾重もの強い流れが海峡を走りはじめ、気が付いてみれば穏やかな海峡は激変。沸き返るように荒れ狂い、眼前に巨大な渦潮が現れた。
クルトさんの操船で大渦潮の縁を走り抜ける。
静かだった海峡が激変。岸寄りに大渦が巻き始めた。
話しによると内海と外海とでは水位差があるために、海峡を走る潮の流れがより強くなるのだそうだ。時速にして35kmから40kmにも達するというその流れは、海峡両端の突先に行く手を邪魔され、渦が生まれる。それが直径にして10mを越える大渦潮となるわけだ。これは渦潮としては世界で二番目の大きさということだ。(世界最大の渦潮は直径20mを越える鳴門の渦潮)
「今日の潮の速さは時速35㎞くらい。ストロンゲスト・メイルストロームだ」
クルトさんが大渦潮の真横を走り抜けながら説明してくれた。
※メイルストローム=ノルウェー語: malstrøm /英語: maelstrom ノルウェーの大渦潮。ほかに激動などの意。
サルトストラウメンでは、パワフルで信頼のおけるエンジンが必要だ。
かつて大時化の海で真っ白に泡立つ表層流を経験したことがあるが、巨大な舵板を持つヨットの進路が定まらなかった。泡の中で舵が利かなくなったのだ。機帆走だったが、あからさまに推力も落ちていった。
サルトストラウメンもひどく泡立ち、フィヨルドの深海に向けて大渦が口を開けている。ひと昔前、風と手漕ぎが動力源だった時代の船乗りたちから、「(渦に)巻かれて沈む魔の海」と嫌われた、まさに同じ海だ。
そしてこの激流は、ボードー市の北に位置するロフォーテン諸島のモスケン島の周辺海域に発生する渦潮と合わせて、小説家たちに閃きを与え名作を生んだ。
エドガー・アラン・ポーによる「A Descent into the Maelström(メエルシュトレエムにのまれて)」には、大渦潮がどのように船をのみ込んでいくか主人公の眼を通して描かれているし、ネモ船長が操る潜水艦ノーチラス号が登場するジュール・ヴェルヌの「Vingt mille lieues sous les mers(海底二万里)」も、最終章の舞台にメイルストロームを選んでいる。

クルトさんの操船はさすがで、舵利きが悪くなることを避けるように大渦潮の縁ギリギリのところを走り抜けていく。このときわかったのだが、海峡で大渦潮のできる個所は両岸に寄ったところで、中央部で渦は巻かない。6時間ごとの潮の流れにぶつかった釣り客たちは、大渦潮を避けて海峡中央部を通過すればよい。ただし、そこにも強い潮の流れがある。必要なのはパワフルにして信頼のおけるエンジンだ。
一驚を喫するような激流を眺めながら、「だからHondaを選んだ」というクルトさんの言葉が頭に浮かんだ。
取材協力:サルトストラウメン・ブリッジ
SALTSTRAUMEN BRYGGE :Laukengveien 4 8056 Saltstraumen
文・写真:大野晴一郎
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