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ゴルフの雑学・マメ知識ゴルフ偉人伝「モー・ノーマン」
〜最高のボールストライカー

2010.04.22

「頼むからボールよまっすぐ飛んでくれ!」ショットするたびに神頼みしているゴルファーのみなさんに朗報。今日はあるカナダ人ゴルファーのお話をしようと思います。その名はモー・ノーマン。まっすぐ打つことにかけては並ぶものがいないと、歴代の名手たちが口を揃えていう伝説のゴルファーです。リー・トレビノは「彼こそ最高のボールストライカー、生きる伝説さ」と絶賛。ケン・ベンチュリはパイプラインのように正確にボールを運ぶモー・ノーマンに「パイプライン・モー」というニックネームを贈りました。

どれぐらい曲がらなかったかというと、こんなエピソードがあります。1969年に行われたあるエキシビジョンマッチでのこと。グランドスラマー、サム・スニードと回ったモー・ノーマンは、240ヤード先に池が横切っているパー4にやってきました。オナーのスニードは安全に池の手前に刻みます。ところがモー・ノーマンは迷わずドライバーをチョイス。躊躇なく振り抜くとボールはまっすぐ飛び出し、池の真ん中にかかっている細い橋を渡って川の向こうのフェアウェイをとらえたのです。もちろん狙い澄ました一発でした。

どうですか、凄いですね。何?そんなの信じられないって?では別のエピソードを紹介しましょう。卓越したボールストライクが評判となったモー・ノーマンは数多くのエキシビジョンイベントを行ったのですが、あるイベントでドライバーで7時間に渡って1540球打ったのですが、そのすべてが30ヤード幅に収まっていたそうです。

7時間も打ち続けるのも凄いですが、30ヤードの幅に収まるのも凄いですね。実はモー・ノーマンは極端にシャイな性格で、他人の目を見て話せないような性格だったのです。いわゆるゴルフオタクってやつですね。コーラが大好物で、1日中飲み続けているものですからお腹がぶよぶよ、歯は虫歯だらけ。ファッションなどにはまったく興味がなく、いつもよれよれのウェアを身に纏い、一心不乱にボールを打つのがモー・ノーマンという人でした。そんな特異なキャラのせいもあって、日に日に見物人は増えていったようです。

さて、ではどうしてモー・ノーマンはまっすぐボールを打てたのでしょうか?

スタンスは極端に広く、両手でグリップを鷲掴みするように握り、両腕とボールが一直線になるようにハンドアップするのがモー・ノーマンのアドレス。クラブヘッドはボールから30cm以上離れた場所にセットします。そこからクラブを平行移動させるように上げ、コンパクトなトップから再び平行移動させて下ろしてボールをヒット。つまりフェース面を変えずにクラブを上げて下ろすことがまっすぐ打てる秘密だったのです。

ただしこれだけではボールは飛びません。そこでモー・ノーマンはトップでの沈み込みと体のスライドを使いました。このあたりは本人に説明してもらいましょう。

「ボ、ボクがスイングで意識してるのは4つ。『バックル(bucle)』『シット(sit)』『スライド(slide)』『バンプ(bump!)』なんだな。まずバックスイングはベルトのバックルをやや右に回しながら行う。こ、これは手ではなく体でクラブを上げるためのものさ。トップでは椅子に座るように軽くヒザを曲げるんだけど、飛ばすにはここが重要で、右腰を回さずに重心を落とすことで下半身にパワーを蓄えることができるんだ。そ、そしてダウンスイングでは体を目標方向にスライドさせて右足から左足への体重移動を行うのさ。その途中に思いっ切りボールをバンプ!すればボールはまっすぐ飛んでいくよ」

勝手に山下清画伯チックにお届けしましたが、この指摘はかなり鋭いですね。昔のクラブはつかまりが悪かったのでこの打法を習得するのは大変だったかもしれませんが、イマドキのクラブは自分でフェースローテーションする必要がありませんから、このノウハウはそのまま使えるといっても過言ではありません。手でクラブを上げてしまう人にはバックルを右に回すイメージは即効性がありますし、距離が出ない人はトップで座るようにすると下半身でパワーを出しやすくなります。そしてボールの手前をダフリがちな人はスライドを意識してしっかり体重移動を行ってください。

モー・ノーマンがボールを打つ姿は重たいハンマーで壁を叩くような動きだったことから「ハンマー打法」と呼ばれましたが、ここにもヒントが隠されています。つまりクラブの重さを利用するということです。つい力ずくでクラブを振り回してしまいますが、クラブの重さを利用すれば軌道が狂いにくく、ボールに効率的に力を伝えることができます。

というわけで、伝説のゴルファーがいたという事実と、そのメカニズム、ぜひとも記憶にとどめておいて欲しいものですね。


Honda GOLF編集部 小林一人

Honda GOLF編集長のほか、ゴルフジャーナリスト、ゴルフプロデューサー、劇画原作者など、幅広く活動中だが、実はただの器用貧乏という噂。都内の新しいゴルフスタジオをオープンし、片手シングルを目指して黙々と練習中。

Illustration by Takashi Nemoto

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