今回のテーマは「餌木(えぎ)」。アオリイカをねらうための和製擬似餌(ルアー)である。面白いのは、アオリイカをねらうためのルアーは餌木の一種類だということだ。
たとえばスズキやヒラメなどの魚をルアーでねらう際は、さまざまな種類のタイプを場所や水深によって使い分けるのだが、アオリイカの場合は餌木以外のルアーが使われることはほぼない。それほど完成されたルアーということだ。
そもそも餌木は江戸時代に漁具として作られたといわれる。薩摩が発祥ともいわれていて、「西郷どん」こと西郷隆盛も餌木でアオリイカを釣っていたという逸話がある。
頭部にイトを結ぶための円、沈めるためのオモリ、バランスをとるための鳥毛が付けられているのが一般的。投げて沈めたらサオをシャクり、餌木を左右に泳がせてアオリイカを誘う。
アオリイカは水中で泳ぐ餌木を見つけると小魚やエビと錯覚し、近づいて長い左右の蝕腕で抱きかかえる。そのときに後部のハリ(カンナ)が身体に刺さる仕組みだ。
この疑問は多くの釣り人がこれまで抱いてきた。アオリイカ釣りの名手とこの話題になったことも一度や二度ではない。ほかのルアーを試した釣り人も多いが、結論は共通していて「餌木のほうが釣れる」のだという。
アオリイカの食べるエサのサイズやフォルムに餌木がマッチしていて、また後部のカンナでアオリイカを掛ける仕組みが捕食方法に合っていることが理由だろう。
ルアーといえば、まずは叩き台があり、多くの釣り人に投げられながら徐々に進化していくのが通常だが、餌木に関しては登場から完成形だった。唯一無二の存在なのだ。
では、餌木はどのように生まれたのか。諸説あるが、夜、漁師がいさり火で海面を照らしていたところ、海面を漂っていた焦げた木片にアオリイカが抱きつき、そこから餌木が考案されたという話が有力だ。
10年後、20年後、アオリイカねらいのルアーは相変わらず餌木の独壇場なのか、それともほかのルアーがデビューしているのか……。楽しみである。