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AM 9:53
海から池へ。見切りの早さで大フィーバー!?

海から池へ。見切りの早さで大フィーバー!?

作戦変更! エビで○○を釣る

「ダメだと分かった時点でサッと身を引く。これが大ケガしないコツだよオチアイ君。釣りでも、ギャンブルでも、レンアイでも」
知ったようなことを言いながらササキがやってきたのは、浜辺のすぐそばにある汽水湖。湖といってもちょっとした池くらいの大きさで、細い水路を介して天竜川の河口部に繋がっている。
「作戦変更です。こういう場所にはセイゴ(スズキの幼魚)が入り込んでいるはず。釣り人もいないし、きっと入れ食いだ!」
――1時間後、ササキはルアーロッドを投げ出していた。ボラの子どもはあちこちで飛び跳ねていたが、ルアーにはアタリのアの字もない。
「作戦修正です。こういうこともあろうかと"Honda釣り倶楽部"で旬の釣りを予習してきたのだ!」
この時期、汽水域ではテナガエビが盛んに釣れる。それを見越してこっそりアカムシを購入していたらしい。2mほどのノベザオに小さな玉ウキをつけ、小指の爪より小さなハリにアカムシをセット。「テナガエビのポイントは物陰、そして日陰……」
ゴロタ石のすき間へ仕掛けを送り込むと、スーっとウキが横滑りした。だが、ここでアワセても掛からない。少しガマンして、ウキの動きが止まったところで静かにサオを持ち上げる。
「やったーッ! エビです、テナガエビです、今からボクのフィーバータイムです」
ライフジャケットを脱ぐのも忘れ、ひたすらテナガエビを釣りまくるササキ。
「テナガエビは素揚げにするだけでイケますからね。カンタンで美味しい、これぞ男の料理。エビでギャルを釣る作戦、大成功の予感です! オチアイ君は見切るタイミングを間違ったね」

テナガエビ
竜洋海洋公園にある汽水の「しおさい湖」。テナガエビのほかにヘラブナやコイ、ナマズも釣れるらしい。土日ならレンタルの手漕ぎボートが利用できる
竜洋海洋公園にある汽水の「しおさい湖」。テナガエビのほかにヘラブナコイナマズも釣れるらしい。土日ならレンタルの手漕ぎボートが利用できる
「おおっ、淡水でキスが釣れた!」……いいえ、これはニゴイです。ササキ君、そろそろライフジャケットを脱いでもいいのではないか
「おおっ、淡水でキスが釣れた!」……いいえ、これはニゴイです。ササキ君、そろそろライフジャケットを脱いでもいいのではないか
小さくても意外に激しい引きを見せるのがテナガエビの面白さ。もちろん食べても美味しい
小さくても意外に激しい引きを見せるのがテナガエビの面白さ。もちろん食べても美味しい

魚が走る、オチアイも走る!

5時間でシロギスたった1匹

そのころ、オチアイは浜辺に立つ1本のクイと化していた。
海釣りの経験がそれほどあるわけではないが、投げ釣りのイロハくらいは知っている。フグなどのエサ取りばかり釣れてしまう時は、投げ込んだ仕掛けを放置せず、ゆっくりとサビいてやるといい。4mの投げザオを構え、縦方向にさばいていく。
と同時に、ずっと動かし続けるだけでなく、サオ先に海底の変化を感じたら少し止めてアタリを待つ。
一面まっ平に思える砂浜でも、潮流や地形の影響で海底には大小の凸凹が生じていて、シロギスはそういう場所に溜まりやすいのだ。
「プルプルッ」とサオ先が震えた。フグとは違う、シロギス特有の小気味よいアタリだ。慌てずゆっくりとリールを巻くと、波打ち際に白い魚影が踊った。18cmくらいだろうか、悪くないサイズである。

「4色(約100m)くらい沖で掛かりましたね。シロギスは群れで行動しているので、同じあたりをねらえば数匹は釣れると思いますよ」
予告どおり、すぐにアタリが出た。今度はすぐに巻き上げず、追い食いをねらってその場でゆっくりとズル引く。うまくいけば仕掛けのハリ全部にキスを掛けることもできるはず。ところが、巻き上げの途中でフッと抵抗が軽くなった。3本のハリがすべて食いちぎられている。またもやフグの仕業だ。
仕掛けを100m近く遠投して海底に沈め、ゆっくりと手前に引いてくる。イトから伝わってくる感触だけが頼りだ
仕掛けを100m近く遠投して海底に沈め、ゆっくりと手前に引いてくる。イトから伝わってくる感触だけが頼りだ
ようやく釣れた嬉しい1匹。状況がよければ数釣りが楽しめるシロギスだが、この日は濁りのせいか食いが渋かった
ようやく釣れた嬉しい1匹。状況がよければ数釣りが楽しめるシロギスだが、この日は濁りのせいか食いが渋かった

まさかの大物、あらわる

「テナガエビ爆釣だよん\(^O^)/」
携帯にササキのメッセージが届く。「だよん」という腑抜けた語尾、そして無神経な絵文字。これがオチアイの闘争心に火をつけた。オレの受信箱をつまらんメールで汚すな……!
一瞬でメールを消去して、新しい仕掛けを結び直す。エサのアオイソメは、食いがいいと言われる尻尾の部分だけを切ってハリにつけた。そして再びフルキャスト。
「無心、とでもいうんでしょうか。あの時、ボクの頭のなかにはササキさんのことも、女の子のこともなく、カラッポになっていた気がします」
のちに、オチアイは当時の心境をこう語った。まもなく10時を迎えようとしていた頃、重く激しいアタリがサオをひったくったのである。

「ゴン、ゴゴゴッ!」
もちろんシロギスではないし、フグでもない。正体不明の獲物は横へ、横へと走った。ハリスは1号、無理はできない。オチアイは引きずられるように移動しながら、少しずつ距離を縮めていく。最後は寄せる波に乗せて一気に浜へとズリ上げた。
砂地に溶け込む灰褐色のボディ、扁平な頭部に大きなアゴ。ハゼのオバケみたいなこの魚こそ、ササキがアタリもカスリもしなかった高級魚・マゴチであった。
急にヒットした魚が走る、走る! 姿が見えないので、とにかく慎重にやりとりを続けた
急にヒットした魚が走る、走る! 姿が見えないので、とにかく慎重にやりとりを続けた
生まれて初めて釣ったマゴチ。あまりの嬉しさに顔がこわばってしまい、あんまり嬉しそうに見えないオチアイ君
生まれて初めて釣ったマゴチ。あまりの嬉しさに顔がこわばってしまい、あんまり嬉しそうに見えないオチアイ君
※撮影:浦壮一郎/文:水藤友基
※このコンテンツは、2010年7月の情報をもとに作成しております。最新の情報とは異なる場合がございますのでご了承ください。