天野 三三雄 氏
『ルアーパラダイス九州』編集長
天野 三三雄 氏
2009年から2014年まで月刊『Basser』の編集長を務め、現在は隔月刊誌『ルアーパラダイス九州』編集長。『アオリイカ地獄』、『ロックフィッシュ地獄』などソルト系ムックの編集長も兼務。2015年春より九州営業所に勤務。

冬の博多湾の人気者

ここ数年、博多湾の手軽なオカッパリターゲットとして人気が高まっているのがヒイカである。正式和名はジンドウイカ。ツツイカ目ヤリイカ科ジンドウイカ属の軟体動物で、胴長10cmほどの小型のイカである。ケンサキイカヤリイカの稚イカに似ているが、性質はヒイカのほうが貪欲かつ獰猛で餌木スッテといった擬似餌によく反応する。
この釣りが盛んな博多湾では例年11~12月の2ヵ月がピーク。11月上旬のスタート時は胴長5~6 cmが中心だが、ひと潮ごとに成長し、12月に入ると胴長10cm前後まで成長することからも旺盛な食欲の持ち主であることがわかるだろう。とはいえ、最大でも胴長は12cmほどまで。その後もさらに大型に成長するケンサキイカやヤリイカとは違い、胴長8 cm以上あれば立派な大人のイカである。
そんな小さなイカがなぜ人気を集めているのかといえば釣趣の高さにある。まず、釣り場がとにかく身近である。アオリイカやケンサキイカを岸からねらおうとすれば、それなりに潮通しのよい塩分濃度も高い外海に面した漁港などへ足を運ばなければ釣れないが、このヒイカはむしろ湾奥の中でも最奥のワンドなどに溜まることから、河口付近の汽水域に多い整備されたベイエリアのテラスや船溜まりなどがステージになる。こうしたエリアの多くは高層のビルなどに囲まれているため季節風の影響も受けにくい。釣り場選びの目安になるのはアオリイカではなくシリヤケイカのような汽水域を好むイカがいるところならヒイカもいる可能性が高い。
ただし、餌木で釣れるからといって通常のエギングタックルで挑むと、途端にこの釣りは釣趣を失う。せいぜい胴長10cmのイカのアタリを察知して引きを楽しむには、ちょっとタックルが強すぎるのだ。これはワカサギ釣りなどの小もの釣りと同じである。繊細な穂先のワカサギザオだからわずか全長数cmの小魚のアタリに一喜一憂できるわけで、バスロッドなどを使っても釣れないことはないがワカサギの魅力を充分に引き出すことは難しい。ヒイカの場合もエギングタックルではなく、ウルトラライトタックルで臨むと途端に面白さが倍増する。
餌木は1.5号前後、釣れるイカのサイズは胴長8cm前後というミニマムな世界だが、やっていることは船からのケンサキイカ釣りとなんら変わらない。それをオカッパリで楽しめるのだ
餌木は1.5号前後、釣れるイカのサイズは胴長8cm前後というミニマムな世界だが、やっていることは船からのケンサキイカ釣りとなんら変わらない。それをオカッパリで楽しめるのだ
回転ビーズ、枝ス、スナップなどがセットされた完成仕掛けを使うと便利。下にセットした餌木がナチュラルにフォールすると、それに引っ張られてスッテも沈んでいく。餌木とスッテのカラーは、最初はナチュラル系とアピール系を組み合わせ、どちらによく反応するか確かめたのち、統一していく方法が一般的
回転ビーズ、枝ス、スナップなどがセットされた完成仕掛けを使うと便利。下にセットした餌木がナチュラルにフォールすると、それに引っ張られてスッテも沈んでいく。餌木とスッテのカラーは、最初はナチュラル系とアピール系を組み合わせ、どちらによく反応するか確かめたのち、統一していく方法が一般的
中央卸売市場や長浜屋台で有名な博多漁港。港内の西側は有料駐車場、ベンチ、トイレ、常夜灯もある人気のヒイカ釣り場。収容人数も多く、周囲に高い建物が多いことから多少の風なら影響も少ない。写真は沖へキャストしたのち着底したリグを誘い上げて落とし込むフリーフォールの釣り。ティップが軟らかなアジングロッドやメバルロッドがマッチする
中央卸売市場や長浜屋台で有名な博多漁港。港内の西側は有料駐車場、ベンチ、トイレ、常夜灯もある人気のヒイカ釣り場。収容人数も多く、周囲に高い建物が多いことから多少の風なら影響も少ない。写真は沖へキャストしたのち着底したリグを誘い上げて落とし込むフリーフォールの釣り。ティップが軟らかなアジングロッドやメバルロッドがマッチする
都市高速や博多ポートタワーの街明かりを眺めながらのヒイカ釣りはここ数年で博多湾の冬の風物詩になっている。九州では歴史の浅い釣りゆえ、釣り場は今後ますます増えるだろう。1月以降は福岡市内に替わって北九州市内で好機を迎える
都市高速や博多ポートタワーの街明かりを眺めながらのヒイカ釣りはここ数年で博多湾の冬の風物詩になっている。九州では歴史の浅い釣りゆえ、釣り場は今後ますます増えるだろう。1月以降は福岡市内に替わって北九州市内で好機を迎える
群れが回ればダブルヒットや2点掛けも珍しくない!
群れが回ればダブルヒットや2点掛けも珍しくない!
刺身、煮つけ、揚げ物などあらゆる料理法が楽しめるが、おすすめは漬け。内臓や墨袋を取り除いた胴体と、目と口を取り除いた足に分け、軽く水洗いしたのち麺つゆ、酒、みりんを2:1:1で割った漬けダレに半日ほど浸せば最高の肴になる。砂糖を加えて大根などと煮込んでも美味!
刺身、煮つけ、揚げ物などあらゆる料理法が楽しめるが、おすすめは漬け。内臓や墨袋を取り除いた胴体と、目と口を取り除いた足に分け、軽く水洗いしたのち麺つゆ、酒、みりんを2:1:1で割った漬けダレに半日ほど浸せば最高の肴になる。砂糖を加えて大根などと煮込んでも美味!
一発大型ねらいの釣りではなく、始めたその日から数釣りを堪能できることも受けている理由のひとつ。群れの回遊に当たれば短時間でふた桁、数時間もやれば数10パイを釣ることも珍しくなく、しかも食べれば小型のケンサキイカと区別がつかないほど美味。手堅くお土産を確保できるアフアーファイブの釣りとして老若男女を問わず受けている。
そして人気の理由の最後は仕掛け作りが簡単なこと。基本は上にスッテ、下に餌木をセットするのだが、回転ビーズを介して枝スがセットされたヒイカ専用の完成仕掛けを使う人が多く、完成仕掛けの上にあるヨリモドリにラインを結んだら、スッテと餌木をセットするだけなので釣り場に着いたら数分以内に釣りが可能。
博多湾内では1月に入るとさらにサイズアップするものの数はなかなか伸びなくなる。しかし、博多湾よりもひと足遅れでヒイカ釣りシーズンが開幕する北九州方面で1月はまだまだ盛期。関門海峡を渡った山口県側では2月でも釣れるとあって、このヒイカ前線を追うように博多、北九州、下関と釣り場を移して行くヒイカマニアもいるという。

向こうアワセの釣りと掛けアワセの釣り

釣り場は外海に面した港内よりも、さらに湾奥の規模の大きな湾の方が期待できる。というのも、このヒイカは湾内に入ってしまえばひとシーズンをその湾内で過ごすようで、湾の規模が大きいほどストックしているヒイカの数が多いからだ。
夜行性であり、常夜灯などの周辺がベストだが、ビルなどの街明かりがあれば充分で、基本的にはエサを求めて回遊しているため、とくに明かりの付近だけが釣れるということではない。多少は群れの移動が足止めされる程度と考えてよい。
近年はヒイカ専用の餌木が各社から登場している。1.5号と2号を水深やイカのサイズに応じて使い分ける。なお、同じサイズでもシンカー形状に違いがあり、上ふたつのベーシックタイプはフリーフォールで誘う向こうアワセの釣りに最適。下ふたつはテンションフォールでアタリを察知する掛けアワセの釣りに最適
近年はヒイカ専用の餌木が各社から登場している。1.5号と2号を水深やイカのサイズに応じて使い分ける。なお、同じサイズでもシンカー形状に違いがあり、上ふたつのベーシックタイプはフリーフォールで誘う向こうアワセの釣りに最適。下ふたつはテンションフォールでアタリを察知する掛けアワセの釣りに最適
右はラインテンションを抜くと理想的な沈下姿勢でナチュラルにイカを誘うシンカー形状。左は潮受けがよいシンカー形状のためラインが張った状態でフォールさせることでアタリが明確に伝わりやすい
右はラインテンションを抜くと理想的な沈下姿勢でナチュラルにイカを誘うシンカー形状。左は潮受けがよいシンカー形状のためラインが張った状態でフォールさせることでアタリが明確に伝わりやすい
リグの下にはシンカーを兼ねた餌木をセットするが、上には浮力があって水平姿勢でフワフワと漂うスッテをセットする。こちらはマルイカ用に比べて小さな1.2号が基本サイズ
リグの下にはシンカーを兼ねた餌木をセットするが、上には浮力があって水平姿勢でフワフワと漂うスッテをセットする。こちらはマルイカ用に比べて小さな1.2号が基本サイズ
エステルラインと潮受けのよいシンカーの餌木を組み合わせてテンションフォール中のアタリを取っていく釣りは勝負が早い。とくにイカの活性が高いときは圧倒的に有利だが、活性が低いときはベーシックタイプの餌木のナチュラルなフォールに反応が集中することも多い
エステルラインと潮受けのよいシンカーの餌木を組み合わせてテンションフォール中のアタリを取っていく釣りは勝負が早い。とくにイカの活性が高いときは圧倒的に有利だが、活性が低いときはベーシックタイプの餌木のナチュラルなフォールに反応が集中することも多い
大きな湾ほど一度群れが入れば抜けにくい。つまり日中でも湾内に群れがいるので釣りが成立する。ラインや穂先の変化が見やすいため、むしろ夜よりも釣りやすい
大きな湾ほど一度群れが入れば抜けにくい。つまり日中でも湾内に群れがいるので釣りが成立する。ラインや穂先の変化が見やすいため、むしろ夜よりも釣りやすい
また、多くのイカが夜行性でありながら日中でも釣れるのと同様、ヒイカも明るい時間帯からねらうことができる。しかもアオリイカなどのように日中は沖の深場にいて暗くなると浅場に差してくるわけではなく、日中も同じ湾内にいるのだから、むしろ日中にねらいやすいイカと言える。ただし、常夜灯などの影響がない日中は、夜間に比べると岸寄りではなく沖を回遊していることが多いため、キャストして広範囲を探る。
下にセットした餌木の重さを利用して着底させ、チョンチョンとロッドで誘いをかけながら手前に探ってくる。良型になれば手もとに明確なアタリが出ることもあるが、むしろ繊細なティップの曲がり、モタレ、戻りなどで察知できる程度の微妙なアタリを察知することが面白い釣りであり、手感度よりも目感度が重要なことからビギナーこそ日中から釣り場に入って千差万別のアタリのバリエーションを知っておくと夜になっても困ることがないだろう。
夜も釣り方は同じだが、とくに遠投は必要なく、群れが近ければ足もとを、少し遠ければチョイ投げをすればよい。悩むべきはラインでPE、フロロ、エステルの3種類を状況やタックルに合わせて使い分けたい。
もっとも無難なのは風の影響を受けにくく、ライントラブルも少ないフロロカーボン。2~4Lbの範囲で完成仕掛けに直結すればよい。PEは軽いリグを沈ませるためにも太くするのはNG。水面に浮かんでしまうフローティングタイプはリグを沈ませにくく、冬は強風にはらみやすいのでナギ限定と考えたほうがいい。PEラインを使うなら、沈みのよいフロロカーボン素材を取り入れた複合PEタイプの0.1号以下の細イトを選びたい。
比重がナイロンとフロロの中間的ポジションで、近年アジングなどで愛用者が増えているのがポリエステル素材の通称エステルラインだ。PEラインよりも風の影響が少なく、伸びが少ないことから感度がよいのだが、伸びが少ないことからドラグを締め気味にしたままアワセを入れるなど乱雑に扱うとラインブレイクなどのトラブルも起こりえる。上手に使いこなすとこの小さなイカの触れただけの微細なアタリも察知しやすい。ヒイカでは0.3号前後を使う。
ラインは使用するロッドや釣り方とも関係してくる。誘いを入れたのちラインスラックを出してフリーフォールさせ、再びラインスラックを巻いて次の誘いを入れたときにティップに重みが乗っているというのが向こうアワセの釣り。これが一般的なヒイカ釣りと言ってよく、こうした釣りにはフロロカーボンラインと柔軟なティップの組み合わせが向く。この釣りにはノーマルタイプの餌木がマッチする。
逆に、誘いを入れると同時にラインスラックを巻いてラインを張った状態でリグをテンションフォールさせ、イカが餌木やスッテを触ると同時にアワセを入れていく感度重視の掛けアワセの釣りにはエステルラインと穂先に張りがある高感度ロッドの組み合わせが向く。この釣りにはシンカーが大きく潮受けのよいタイプの餌木が向く。まずはお手持ちのロッドの特徴に合わせてラインと餌木をチョイスしてみるとよいだろう。
今回ご紹介したエリア
福岡県/博多湾のヒイカMAP
アクセス
福岡都市高速環状線・西公園ICまたは天神北ICを降りてすぐに博多漁港。中央卸売市場のある東面は立入禁止エリアが多いが、かもめ広場の有料駐車場がある西面はどこも足場がよくトイレやコンビニもある整備された環境。地下鉄空港線・大濠公園駅からも徒歩圏内。
※このコンテンツは2016年1月の情報をもとに作成しております。