八木 健介 氏
月刊『FlyFisher』編集長
八木 健介 氏
編集アルバイトとして2001年から月刊『FlyFisher』の製作に参加。 その後、副編集長を経て2010年10月から編集長を務める。休日の釣りは専らフライフィッシング。近所のコイ釣りから、渓流のヤマメ・イワナ釣り、本流のニジマス釣りと、フィールドに合わせた旬の対象魚を追う。

賑やかな川の中

全国の渓流で釣りが解禁となる3月。 多くのフィールドでは、まだダウンジャケットやフリースが欠かせない肌寒い気温が続くが、開けた平野部の川では、いち早くこの季節ならではのフライフィッシングが始まる。

その代表が、いわゆる「マッチング・ザ・ハッチ」の釣りだ。
この季節、川ではガガンボ、トビケラ、カゲロウといった水生昆虫が、しだいに高くなってくる水温の影響で、活発に羽化(ハッチ)を行なうようになる。
すると、ヤマメアマゴといった魚もそれらの虫を盛んに捕食するようになるため、それぞれの虫に合わせたフライで、繊細な渓流魚とのやり取りが楽しめるようになる。

マッチング・ザ・ハッチの釣りを楽しむには、川に生息する水生昆虫の種類の多さや量が安定していること、さらに棲息する魚の数も安定していることが欠かせない。
そのような川は、九州の川辺川や中部地方の長良川などいくつかあるが、北関東を代表するフィールドとして、近年特に注目されているのが、栃木県を流れる鬼怒川になる。
鬼怒川のヤマメはコンディションのよさで釣り人に人気がある。繊細なフライでぜひ春の一尾を手にしてほしい
鬼怒川のヤマメはコンディションのよさで釣り人に人気がある。繊細なフライでぜひ春の一尾を手にしてほしい

散策気分でのんびりと

那須の火山帯から流れ出す鬼怒川は、江戸時代以前は「衣川」もしくは「絹川」と表記されていたと言われるように、特に平野部は全体にフラットな地形が続き、流れも穏やかだ。
そして、日当たりのよいでは多くの水生昆虫が育つ。

魚たちからすれば、この季節は長い冬をようやく終えて、いよいよ体力を回復するために、エサを盛んに食べようとする時期。
そこで、水面を流れてくるエサに対して敏感になり、エサだと思ったものが流れてくると、浮上しながらの捕食行動、つまり「ライズ」をするようになる。
その時に水面にポツーンと広がる輪が「ライズリング」。
水面に現われるこのサインを見つけ、実際に流れている虫にフライをマッチさせ、正確にフライを送り込んで魚をねらう。
春の川はまだ風が冷たいので、天気のよい日でもフリースやソフトシェルといった上着は必要。上流には雄大な那須の火山帯が望め、散策気分も味わえる
春の川はまだ風が冷たいので、天気のよい日でもフリースやソフトシェルといった上着は必要。上流には雄大な那須の火山帯が望め、散策気分も味わえる
春の一日、広い川原を散策気分で歩きながら、このライズを捜してみよう。
鬼怒川は川の近くまで車でアプローチできる場所も比較的多いので、初めての人でも川歩きをしやすいという特徴がある。
フライはCDCを使ったパターンを多用する。右最下段にあるのがガガンボを模したフライ。右最上段はトビケラ(カディス)、左側の真ん中および下段にあるのはカゲロウ(メイフライ)系のパターン
フライはCDCを使ったパターンを多用する。右最下段にあるのがガガンボを模したフライ。右最上段はトビケラ(カディス)、左側の真ん中および下段にあるのはカゲロウ(メイフライ)系のパターン
広い釣り場で目を使う(ライズリングを捜す)ため偏光グラスは必需品。また、バードウオッチングに使うような8倍程度の双眼鏡もあると重宝する
広い釣り場で目を使う(ライズリングを捜す)ため偏光グラスは必需品。また、バードウオッチングに使うような8倍程度の双眼鏡もあると重宝する
この時、タックル面で必要になることがいくつかある。
まずは、ハッチする虫をある程度カバーできるフライを持っていること。具体的にはCDCパターンが必須で、サイズは#16~18くらいがおすすめだ。
また、ロッドは風が吹くことも多い開けた平野部のフィールドでも、ある程度離れた場所で起きるライズに正確にフライを届けやすい、少しパワーのある4~5番を用意しておきたい。それに組み合わせるラインは、ウエイトフォワードタイプのフローティングライン(ロッドの番手に合わせ4~5番のライン)と、14~18フィート・6~7Xのリーダーシステムを用意しよう。
最後に欠かせなのが、水面の乱反射をカットし紫外線から目を守る機能もある偏光グラス。あとは、離れた場所のライズも見つけやすい、双眼鏡があるとさらに役に立つ。

ライズはプールで待つ

この季節、ライズが起きるポイントとなるのは、まず大きなプールや瀬の後半部分。
時間は早朝からライズが起きる場合もあるが、基本的には日中に入って気温が上がる、午前10時頃から午後2時頃の間が、最もライズに出会える確率が高くなる。
開けたプールでライズする魚をねらうのがこの時期の鬼怒川の釣り。多少の遠投もしやすい#4~5ロッドがおすすめ
開けたプールでライズする魚をねらうのがこの時期の鬼怒川の釣り。多少の遠投もしやすい#4~5ロッドがおすすめ
川に到着したら、まず広さのあるプール(流れの緩い淵など)を見つけ、その中にある流れの筋をよく観察してみよう。具体的には上流からの流れ込みの延長線上にある、水面に白く小さな泡が常に流れているような場所が有望だ。
気温が上がるお昼前後は水生昆虫の羽化が活発になる時間。釣りにも適したタイミングなので、昼食は川で食べられるようにしておくほうがよい。背中に充分な容量があるフィッシング用パックはおにぎりや飲み物の携帯にも便利
気温が上がるお昼前後は水生昆虫の羽化が活発になる時間。釣りにも適したタイミングなので、昼食は川で食べられるようにしておくほうがよい。背中に充分な容量があるフィッシング用パックはおにぎりや飲み物の携帯にも便利
ハッチは、水温がまだ低い朝の時間帯はガガンボがメイン。その後、正午が近づくにつれてカゲロウ類のハッチが起こるようになり、トビケラ類は一日中ランダムに羽化する。水面をよく見ていると、流れているそれらの虫も視認できるはずだ。

ライズを見つけたら、自分が見たライズリングよりも上流1~2mのところにフライをキャストする。ライズした魚が一度潜ってから、ふたたび水面を向く時間を待つ意味で、意識的に2~3秒待ってからキャストするほうがよく、やや上流に落としたフライは、着水からしばらくして、魚の実際にいるところに流れていくことになる。
ライズをねらうマッチング・ザ・ハッチの釣りは、最適なフライを選ぶ作業や、正確なキャスティングなど、実際には難しい要素も入ってくる。とはいえ、「ライズリングが自分の目の前で起きる」「それをねらって釣る」という体験を一度でもしてしまうと、その面白さに誰もが夢中になってしまうので、一年でもこの時期にしか味わえない釣りをぜひ楽しんでほしい。
今回ご紹介したエリア
栃木県/鬼怒川のマッチング・ザ・ハッチMAP
アクセス
東北道の上河内スマートICから、県道63号線を経由して鬼怒川の上平(うわだいら)橋方面へ。上平橋の手前に右に入る側道があり、そこに入ると橋の下をくぐって右岸にある緑地公園に出られる。その緑地公園の突きあたりに広い駐車スペースがあり、目の前が鬼怒川。そのほか、上流の小林橋の付近なども、川原に降りられるので、どこでもプールを見つければ釣りが可能。遊漁券は塩谷町内のコンビニなどで販売している(日釣券1400円)。解禁:3/1~9/19
お問い合わせ
鬼怒川漁協
TEL 028-662-6211
※このコンテンツは2013年2月の情報をもとに作成しております。
※環境省レッドリスト等の掲載種については、法令・条例等で捕獲等が規制されている場合があります。必ず各自治体等の定めるルールに従ってください。