滝 大輔 氏
月刊『FlyFisher』 編集長
滝 大輔 氏
1995年つり人社入社。2006年より『FlyFisher』編集長を務める。川、湖、海、国内、海外問わず、フライフィッシングが楽しめる場所なら、どこへでも足を運ぶ。現在はDVD付録『FlyFisher in Action』の制作も担当。文章と写真だけでなく、ムービーでもフライフィッシングの魅力を伝えている。別冊『Salt Flyfisher』編集長を兼務。

真夏の新しい楽しみ

毎日暑いですね。こう気温が高くては、さすがの渓流も水が少なくなり、水温も上昇するのでヤマメイワナの活性も低空飛行、日中の楽しい釣りはおあずけといった感が強くなってきます。そこで、今回はまさに今が旬の、海のフライフィッシングをご紹介したいと思います。ライフサイクルを実感できる時でもあるのです。
ふらふらと泳ぐ影を見つけたら、ねらいを定めてキャスト。少し失敗すれば即アウト! ドキドキの瞬間
ふらふらと泳ぐ影を見つけたら、ねらいを定めてキャスト。少し失敗すれば即アウト! ドキドキの瞬間
フライフィッシングの対象魚といえば、サケマスが主役。この釣りが発展した英国では、大西洋サケやブラウントラウト、ブラウントラウトが降海し川へ戻ってくるシートラウトなど、アメリカやニュージーランドなどではニジマス、ブラウントラウト、そしてわが国ではヤマメ、アマゴ、イワナ、ニジマスなどが主なターゲット。この魚たちを見てお気づきのように、フライフィッシングは淡水に棲む魚たちを釣りあげるためのものだったともいえます。しかしここ20年ほど、とくにアメリカでは、フライフィッシャーたちの目は海にも向き始め、現在ではここで紹介しきれないほどの魚種がフライで釣られるようになりました。そして、そのムーブメントは日本にも上陸。冒険心あふれる釣り人たちが、国内でフライフィッシングにマッチした魚種や釣り場の探索を始めました。それが10年ほど前のことです。
これは世界的に有名なサイトフィッシングのターゲット、ボーンフィッシュ。ハワイはオアフ島で釣りました。
これは世界的に有名なサイトフィッシングのターゲット、ボーンフィッシュ。ハワイはオアフ島で釣りました。
日本の海のフライフィッシングは、カツオ、シイラ、マグロの幼魚、シーバスなどから始まり、今ではカスミアジやオニヒラアジなどのヒラアジ系の魚にまで広がっています。釣り方もポッパーや小魚を模したストリーマーと呼ばれるタイプのフライをできるだけ速くリトリーブして魚を誘うものや、エサを捜しに浅場をうろつく魚に向かって、エビやカニをイメージしたフライを投げて釣る方法など、バリエーションもどんどん広がっています。
フライフィッシングとしては後者の釣り方がとてもエキサイティング。この釣りはサイトフィッシングと呼ばれていて、魚を捜して1尾をねらい定めて釣るのです。この場合、魚は釣り人から見えるくらいですから、相手もこちらに気づきやすい状況です。魚は、危険を承知でエサを捜しにきている状態なのです。そこで釣り人は、魚を見つけたら気づかれないように、そっと、抜き足差し足で近づき、相手の目の前に静かにフライを落とすのです。文章にすると簡単なようですが、実際には魚は予想外の動きをしますし、波の状態や太陽光線の角度によっては、見つけにくい場合もあります。フライを落とす場所が魚に近すぎれば驚いて逃げられますし、遠すぎると今度はフライに気づいてくれません。しかも、風が吹いていることが多いので思いどおりにキャストすることが難しい場合もありますが、その分、魚がフライを見つけて食いついてくれた時の、驚きと感激はひとしお、という釣りなのです。

浜名湖はゆりかご

今回ご紹介する浜名湖はご存じのとおり、静岡県南部に位置する湖で、ウナギの養殖などで有名ですね。南側は遠州灘に通じており、厳密にいえば海ではなく淡水と海水が混じりあう汽水湖。ここには海の魚も多く生息しており、クロダイもそのひとつです。このフィールドが特徴的でフライフィッシングに適しているのは、魚の数が豊富なことだけでなく、全体が浅いことです。最深部で約16m、平均の水深はなんと4.8m。釣り場として有名な淡水湖のいつくかにくらべてもずっと浅いのです。フィールドが浅いことは、フライフィッシングにとってとても有利で、なおかつエキサイティングになります。太いフライラインは、水の抵抗を受けやすい構造なので、深い場所にフライを届けるのには不向き。したがって浅い場所のほうが釣りやすい、ということになります。そして、エキサイティングなのは、先ほど述べたサイトフィッシングができるからなのです。
浜名湖は広いのでレンタルボートで移動するのも手。ただし潮の干満があるので立ち込む時には充分ご注意を
浜名湖は広いのでレンタルボートで移動するのも手。ただし潮の干満があるので立ち込む時には充分ご注意を
サイトフィッシングができるフィールドが日本に少ないこともあり、この釣りを浜名湖で楽しんでいる人はまだそれほど多くはありません。今現在、浜名湖でのこのスタイルの釣りは黎明期といってよく、どんなフライが釣れるのか、また釣りやすいのかなど試行錯誤の段階です。つまり、浜名湖は日本の海のサイトフィッシングのゆりかご、もしくは大いなるフロンティアといったフィールドなのです。

クロダイという好敵手

これが新しいターゲット、クロダイ。ちょっとサイズは小さいです。こう見えてなかなか神経質な魚です
これが新しいターゲット、クロダイ。ちょっとサイズは小さいです。こう見えてなかなか神経質な魚です
ここでねらうのはクロダイとキビレ。クロダイといえば、今までエサ釣りの対象魚として広く知られてきました。しかし、この魚の浅場でエビやカニ、小魚を捕食するという性格は、サイトフィッシングにもとてもマッチしているということがわかってきました。海外ではサイトフィッシングの対象魚としてボーンフィッシュが有名ですが、私の経験では、クロダイのほうがずっと難しいと思います。まず、魚の警戒心。ボーンフィッシュは結構アグレッシブで大胆、意外と釣り人の近くまで寄ってきてくれます。しかし、クロダイは使うイトの太さやラインの色、果てはフライの着水した時の音まで気にして、驚くと一目散に逃げていってしまいます。まあ、これがウデマエや道具でカバーできることではあります。問題はもうひとつ、泳いでいるクロダイがとても見つけにくいということです。泳いでいるクロダイにまったく気付かずに、足もとから逃げられるということは日常茶飯事。ボーンフィッシュなどに比べても、数倍見つけにくいといえるでしょう。経験のある人に言わせれば、慣れれば見えるようになる、とのことなのですが、私にはまだまだ……。
今回ご紹介したエリア
静岡県/浜名湖のクロダイMAP
アクセス
東名高速浜松西ICから約20分
※環境省レッドリスト等の掲載種については、法令・条例等で捕獲等が規制されている場合があります。必ず各自治体等の定めるルールに従ってください。