天野 三三雄 氏
月刊『Basser』編集長
天野 三三雄 氏
大学在学中に季刊『Basser』の編集アルバイトとして参加。その後、スポーツ紙釣り欄担当を経てつり人社入社。月刊『つり人』副編集長を経て、2009年より月刊『Basser』編集長を務める。『アオリイカ地獄』、『ロックフィッシュ地獄』、『シーバス地獄』などソルト系ムックの編集長も兼務。釣りはルアー全般のほかハゼ、カワハギ、カレイなど江戸前の釣りを好む。

大都会の食物連鎖

春のうららの隅田川。このコラムがお目見えするころは、まさに風薫る清々しさでしょう。大川とも呼ばれる隅田川下流域は淡水と海水が混ざり合う汽水域。水温の上昇とともに生命感にあふれます。

夏から秋はハゼ釣りで賑わう隅田川ですが、春の主役は江戸前の代表魚であるスズキ。大きさによって、コッパ、セイゴ、フッコ、スズキと呼び名が変わる出世魚ですが、この界隈の主役は40~60㎝のフッコです。釣り人の間では総称してシーバスと呼ばれています。

このシーバス。冬の間は沖の深場に落ちて産卵を行ないます。そして産卵を終えると、再び隅田川をはじめとする運河に姿を現わします。それは産卵で疲れた身体を回復するため。つまりエサをたくさん食べるためです。
春の運河内のシーバスが活発に捕食行動をするのは夜ですが、日中でもヘチやカケアガリの際で休んでいるシーバスの口元にルアーを送り届けることができればこのように釣れます
春の運河内のシーバスが活発に捕食行動をするのは夜ですが、日中でもヘチやカケアガリの際で休んでいるシーバスの口元にルアーを送り届けることができればこのように釣れます
両岸に高層マンションやオフィスビルが立ち並ぶ隅田川にエサ? そう疑問に思われる方もいるでしょう。でも、これがいるんです。代表的なものとしてはカタクチイワシ。稚魚から成魚まで港湾部や運河内にも群れをなします。また、意外なところとしては稚アユもいます。勾配のある天然河川では、春まで海で育ち、海と河口の水温がほぼ同じになる春以降に川を遡上する稚アユですが、ここ隅田川は汽水域とあって冬から春までその姿を見かけます。さらに、アミやボサエビ、カレイボラやサッパの稚魚など、産卵で体力を使い果たしたシーバスたちのご馳走がたくさん用意されているのです。

目でも耳でもわかる

シーバスたちにとってたくさんの種類のエサがある隅田川。そのシーバスをルアーでねらう場合、当然、捕食対象を模した釣りが効果的です。なかでもとりわけ最近注目を集めている釣りが「バチ抜けパターン」と呼ばれるもの。バチとはゴカイの仲間のことで、バチ抜けとは、普段の生息場である泥底から抜け出し、水面を群泳する行動を指します。これはゴカイの仲間の生殖活動で、隅田川ではおもに4~5月に多いようです。
バチ抜けパターンが楽しめるのは日没後から。よく釣れるのは、潮の流れが速い本流筋か、流れが緩い支流筋かはその日によって異なります
バチ抜けパターンが楽しめるのは日没後から。よく釣れるのは、潮の流れが速い本流筋か、流れが緩い支流筋かはその日によって異なります
もちろんシーバスはゴカイ以外にもいろいろなエサを食べています。でも、イワシなのかサッパなのか稚アユなのかは、フィールドに通い詰めている人以外はなかなか判別できません。ところが、このバチ抜けパターンは比較的わかりやすいのが特徴。というのもバチが泳ぐのは水面。これをねらうシーバスがいれば口を開けて吸い込む際の波紋や水音が目でも耳でも確認できることが多いのです。
バチ=ゴカイ類を模すため細身のシンキングペンシルが多用されますが、川幅や流れの速さ、水深やねらっている魚のサイズによって使うルアーはかなり幅広い
バチ=ゴカイ類を模すため細身のシンキングペンシルが多用されますが、川幅や流れの速さ、水深やねらっている魚のサイズによって使うルアーはかなり幅広い
シーズン中はどの潮回りでもチャンスはありますが、有望なのは夕方以降に潮位が高く、下げ潮が利いている時間帯。大潮やその後の中潮で、夕マヅメと満潮が重なるような日は絶好で、風もなく水面が穏やかならば、バチ抜けやシーバスのライズを確認できる可能性が大です。また、そのときにバチが出ていなくても、シーバスはバチを意識して待ち構えていることが多く、ヘチや物陰に潜んでバチが流れて来るのを心待ちにしています。そこへバチを模したルアーを通せば、ヒットにつながることも多いのです。
バチを食べるシーバスの吸い込みは弱いため、ティップ(サオ先)の硬すぎるロッドはあまりよくありません。ソフトティップのロッドを使ったほうがアタリを弾かずに数が伸びます。その際は高い足場から抜き上げる力はありませんので玉網は必要です。ルアーは6~12㎝のシンキングペンシルを中心に、ミノージグヘッドワームなども用意しましょう。いずれも、元気な小魚のようなキビキビとした動きよりも、控えめな動きのものがよいでしょう。ラインはPE0.8号前後、リーダーはフロロカーボン3号を60㎝ほど取ります。

注意点としては、いずれも人の往来のある街中の釣りですので、常に後方を確認して、振りかぶった際にルアーを通行人に引っ掛けるなどのトラブルがないようにしてください。
今回ご紹介したエリア
東京都/隅田川のシーバスMAP
アクセス
首都高速をご利用の場合
浜町IC、箱崎IC、京橋IC、新富町IC、銀座IC、福住ICから隅田川本流へ約10~20分