フレーム(3)


●世界初の新製造技術、ウェルダブルダイキャスト製法の中空構造フレーム
 現在のスーパーバイクやスーパースポーツに使われているフレームは、アルミの押し出し成形技術と鋳造技術、プレスまたは鍛造技術を、フレーム構造の中で選択されて組み合わせ溶接することで生産されています。Hondaのスーパースポーツ・マシンやCBR600Fも、この先進技術を享受していました。
 そしていま、冶金学とフレーム製造技術を研究した結果、Hondaは、アルミ鋳造の革命的な新技法を、バイクのフレームへと導入することに成功したのです。これまでのHondaの主要スーパースポーツ・マシンに採用されてきた、GDC(重力鋳造)とはまったく異なり、CBR600RRでは、中空構造をもったアルミダイキャスト(高圧鋳造)製メインチューブが、同じくアルミダイキャスト製のステアリングヘッドとピボットプレートに溶接されています。
 オープンチャネル精密アルミダイキャスト技術を世界で初めて採用したのは、現行のCBR600FとCBR600F4iに搭載されたピボットプレートのフレーム部でしたが、CBR600RRではこの技術をさらに大きく飛躍させ、最新の中空精密ダイキャスト技術「ウェルダブルダイキャスト製法」によるアルミ部品の大量生産に成功しました。バイクの構造にとって中枢となる部分の製造に採用されたこの技術の利点は、従来のGDC(重力鋳造)に対し、ダイキャスト化(高圧鋳造)することで肉薄化が可能となり、アルミという素材が持つ軽さと強度、そして構造的な柔軟性を活かして、より有機的な構造形状を自由に創造できることです。
 中空ダイキャスト技術を成立させるのは、金型の中にアルミを注入するという伝統的な技法であり、この技法は、多種多様な形状・大きさのソリッドな物体の鋳造に使われるのが一般的です。バイクのフレームのように大型で複雑な形状の製品の鋳造も可能だったのですが、CBR600RRのフレームのように均一に肉薄でソリッドでない中空構造を作ることはできませんでした。溶解したアルミを注入する際に、中空の空間を形成するために金型内部に組み込む砂中子が、高温高圧のアルミによって崩落してしまうからです。
 Hondaはこのダイキャスト工程に改善を加え、アルミ注入工程での高温高圧でも強度を保てるよう、砂中子をセラミックでコーティングしました。アルミが冷えて硬化した後に、中空フレームの内部に残った砂とセラミックを取り出すことで完成します。この製法はGDCと異なり、鋳造後の熱処理を必要としません。その結果、精密な精度が得られ機械加工を削減することも可能となり、鋳肌も滑らかで優れた工業製品であるばかりか、従来のGDCでは3.5mmまでしか到達できなかった肉厚が、わずか2.5mmまでの肉薄化を可能にします。肉薄化はフレームの軽量化に大きく貢献しただけでなく、独創的なフレーム構成にも寄与しています。


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