VT250 - 1982.05

VT250F
VT250F
 
ホンダのV型エンジンへの挑戦

 1959年よりロードレースGPを引退する67年までに、ホンダは50ccから14PS以上/21,500rpm、実に1L当り280PS以上を発揮した空冷並列2気筒8バルブDOHCエンジンを持つRC116、並列5気筒の125ccRC149、並列6気筒250ccのRC166、同じく300ccのRC173など、常識を塗り変えた小型超高回転高出力エンジンを作り出し、数多くの優勝とタイトルを獲得してきた。
 それらの技術は一足早く市販モーターサイクルCBおよびCBXなどに生かされてきたが、ホンダのもう一つのレーシング・エンジンの系譜として、4輪レースの最高峰フォーミュラI、フォーミュラII、そしてモーターサイクル・ロードレースGPへの復帰を担うNR500などの水冷V型エンジンに関する技術的背景を語らねばならない。
 初のF-IカーレーサーRA271が登場したのは1964年8月のドイツGPであった。デビュー戦はコースアウト・リタイヤと不本意な成績ではあったが、メカニズムとパワーが注目を浴びた。
 60度V12気筒のエンジンは、モーターサイクルのように横置きにされていた。これは車体の中心廻りに重量を集め、垂直軸廻りの慣性モーメントを小さくして操縦性を向上する狙いからである。
 また、後輪までのドライブ機構を全て平ギアを使って伝達損失を小さくする目的もあった。
ホンダのV型エンジンへの挑戦  当時の4輪GPマシンがプレイン・ベアリングを使っていたのに対し、ホンダはモーターサイクルと同様に組み立てクランクとニードル・ベアリングを使い、メイン・ベアリングのジャーナルは上下左右から締め付けられていて高い剛性を確保していた。こうして、潤滑や発熱の問題に対してホンダは全くトラブルなく、抜群の信頼性を誇った。
 バルブ系は各シリンダー4バルブのDOHCという当時のF-1では唯一の方式を完成させ、12連フラット・バルブ式ダウン・ドラフト・キャブレターを装着し、4組の3into1マフラーと組み合わせて最高出力220PS/11,000rpmを発揮した。
 第2戦からはホンダ独自の低圧吸入管燃料噴射装置を取り付け、さらに過渡特性を向上し、65年型RA272では実に230PS/12,000rpmを発揮して圧倒的な速さを示した。
 1.5LフォーミュラI最後のレースとなった65年メキシコGPでは、リッチー・ギンサーがスタートから独走で優勝を逐げた。
 66年からフォーミュラIは排気量3Lに変更され、途中から登場したのがRA273であった。
 エンジンは一般的な縦置き配置となり、90度V12気筒DOHC48バルブの構成であった。クランクは組み立て式で、メイン・ベアリングとビッグ・エンドにはニードル・ローラー・ベアリングを使うモーターサイクルの経験が注ぎ込まれた。パワー取り出しもクランク中央の1次減速ギアから乾式多板クラッチ、5速トランスミッション、ファイナル・ドライブの構成となっていた。

ホンダのV型エンジンへの挑戦





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