SCOOTER - 1981.07

SCOOTER
SCOOTER
 
スクーターの歴史

スクーターの誕生
 現在スクーターを生産している国は、イタリア、インド、スペイン、東独、西独、台湾、そして昨年から生産を再開した日本など十数ヶ国である。
 スクーターといえばその生産量、歴史などからイタリアのベスパが代名詞のように思われているが、古くは米国で1910年に"AUTOPED"(155cc)という世界で最初?と思われるものが誕生している。このスクーターにはシートがなく、立ったまま走るようになっており、子供用の乗り物でいわゆる"スケーター"にエンジンを積んだような形であったが、時速25km/hで走ることができた。
 このAUTOPEDは1917年、ヨーロッパに運ばれ、フランスのパリで発表されるや大きな反響を呼び、ドイツのKRUPP、チェコスロバキアのCAS、イギリスのIMPERIALMOTORにもライセンス供与されたといわれる。

AUTOPED155cc
(1910.アメリカ)
AUTOPED155cc
AUTOPED155cc
AUTOPED155cc
(1916.アメリカ)
(英国National Automobile Museum蔵)
KRUPP
(1919.ドイツ)
KRUPP

ヨーロッパでの誕生
 ヨーロッパにおけるスクーターの誕生は1919年イギリスでGILBERT COUPLINGが発表した"SKOOTAMOTA"が最初かと思われる。125cc4サイクルOHVのエンジンを搭載し、時速40km/hで走れたこのスクーターはフランスやイタリアでも発表し大好評を博したといわれる。"AUTOPED"と"SKOOTAMOTA"の共通点はどちらもエンジンを前輪か後輪の上に置いて、いずれも2つの車輪の間を広く確保しようとしている点である。後述する"VESPA"と同様に前後の車輪間からエンジンを追い出している点が大変興味深く、この点がモーターサイクルと違うところである。
 "AUTOPED"や"SKOOTAMOTA"の影響を受け、スクーターはヨーロッパ中で流行し始め、1920年代には各国で作られるようになった。
 スクーター史上「第一次スクーターブーム」と位置づけられるこの時代も、1918年第一次世界大戦終了後のヨーロッパ全土に広がった不況の波を受けたため大衆の足には成り得ず、1925年にはこの手の二輪車は消滅してしまった。
 第一次世界大戦後20年間の技術の進歩は著しく、その結果、機械道具をより大衆的に親しみ易いものにすることに貢献した。
 第二次大戦中に誕生したMOTOR VEHICLEの中で注目したいのは、パラシュート隊用に開発されたイギリス製小型ポータブルモーターサイクル"CORGI"である。これは戦闘用車輌として開発されたもので2サイクル、100ccのエンジンを搭載し、リジットにタイヤを取りつけたハンドルとシートを折りたたむ機構以外はフートボードこそ無かったが"SKOOTAMOTA"と同様のコンセプトであった。これはアメリカのINDIANMOTORでも造られて連合軍に使用され、日本にも進駐軍によって持ちこまれた。

SKOOTAMOTA162cc
SKOOTAMOTA162cc
(1923.イギリス)
(英国National Automobile Museum蔵)
CORGI 100cc
CORGI 100cc
(1945.イギリス)

ベスパの誕生

VESPA98cc
VESPA98cc
(1946.イタリア)
(英国National Automobile Museum蔵)

 第二次大戦で敗戦国となったイタリアの航空機メーカーであったPIAGGIOは工場はじめ全てのものを戦火で失ってしまった。Dr.ENRICO PIAGGIOは再建の手段としてモーターサイクル製造を計画した。モーターサイクルは平和が戻った日には必ず交通手段として必要になると考えたからである。しかし自動車より手軽でモーターサイクルより実用的な大衆の足に成り得るものでなければならないと考え、同社の技師長であったAGOSTINO D’ASCANIOと、彼の優れたスタッフに全く新しい大衆車開発のプロジェクトを命じた。D’ASCANIOは開発にあたり次の要件を考えた。
  (1) 大量生産が可能でなければならない
(2) 出来るだけ維持費がかからない
(3) モーターサイクル同様スピードが出るもの
(4) 航空機技術を生かしたスケールモノコック
(5) タイヤ交換は自動車同様に容易であること
(6) 乗り心地がよく、スポーティな性格

 1946年4月、以上の基本コンセプトを満たした"VESPA"が誕生した。2サイクル98cc、3.2PS/4,500rpmのエンジンに3速ギアミッションを組合せ3.50‐8のタイヤを履いて最高速70km/hのスピードが出せるモノコックボディの"VESPA98"を発表。
 当時、自動車でさえ一般的でなかったモノコックボディを採用したこと、チェーンもベルトも使わないギアドライブ、タイヤ交換が容易な片持ちサスペンションなど何もかも当時の人びとのイメージにはなかったもので、世界中の技術者を驚かせたレイアウトであった。
 モノコックボディのスクーターは"VESPA"以外にはその後も見出せないことからも、プロトタイプからいかに優れたものであったかがうかがえる。
 1947年には同じイタリアのINNOCENTIから"LAMBRETTA"が発表された。同車はパイプフレーム付ではあったがシャフトドライブという特徴を持っていた。

LAMBRETTA
LAMBRETTA(1948.イタリア)
(英国National Automobile Museum蔵)




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