NSX - 1990.09

NSX

NSX
 
ENGINE


自然吸気エンジンのレスポンスのよさを、
全域にわたって実現した、独創のホンダVTEC
(可変バルブタイミング・リフト機構)。
NSXの優れた動力性能は、レーシングドライバーなどの限られた人びとだけによって発揮されるものではなく、オーナーとなったすべての人びとが、享受できるものでなければならない。それが、ホンダの考え方です。
これを無視してパワーだけを求めるなら、過給機を使用する方法や高速域の性能を重視してレーシングエンジン的な特性とする方法がありますが、エンジン性能をフルに生かして走行するためには、人間がマシーンの特性に合わせていくテクニックが要求されがちでした。
しかし、次世代のスポーツカーにふさわしいものは、乗る人に特別な緊張を強いることなく、あくまで人の感性に合った特性をもったエンジンであり、そのためにはアクセルワークに素直に、高回転までストレスなく吹き上がる自然吸気エンジンが不可欠だったといえます。ところで一般に、レーシングエンジンのように高回転・高出力を追求すると、逆に低速域での性能が不安定になりやすく、また実用エンジンのように、低・中速域での性能を重視すれば、おのずと高出力化に限界が生じてきます。
ホンダの先進技術が可能にしたVTECは、どちらかの領域を重視するのではなく、低回転域と高回転域とでそれぞれに最適なバルブタイミング(開閉時期)とバルブリフト量(開く高さ)に切り換え、吸排気効率を極限にまで高めることで、自然吸気エンジンのレスポンスはそのままに、全域高性能を実現するもの。レーシングエンジンに迫る高速性能と、実用域での力強い低・中速性能を両立させた、まさに革新のテクノロジーなのです。

DOHC VTEC

■VTECの構造と効果
通常のDOHCエンジンの吸・排気系メカニズムが、2つのロッカーアームと2つのカムで構成されるのに対し、VTECでは新たな3つ目のロッカーアームと3つ目のカムを備えています。この2種類のカムでバルブを駆動し、運転状況によって切り換えることで、低回転時と高回転時にそれぞれ最適なバルブタイミング・リフトをもたらし、かつてない高レベルで、高回転・高出力の特性と低・中速回転・高トルクの特性とを両立させています。
バルブリフトは、低・中速域の吸気側をLow8.3mmHi8.7mmに設定し、スワール効果をもたせています。また、高速域では10.2mmに設定しています。*5速車
 
■VTECの切り換えコントロール
低回転用から高回転用へと切り換えるのは油圧ピストンで、カムシャフトのカムの山がロッカーアームの反対側まで回ったとき、それぞれのロッカーアーム内の穴の位置がそろい、この瞬間に油圧のかかった油圧ピストンがスムーズに挿入されます。また、この制御は、ECU(Electronic Control Unit)が、エンジン負荷、エンジン回転数、車速など、クルマの刻々の変化を検出して解析し、ベストなコントロールを行なうものです。

VTECの切り換えコントロール

低回転域でのトルクアップと
高回転域での出力アップを両立した、
新開発の共鳴チャンバー容量切換えインテークマニホールドシステム。
これは、自然吸気エンジンの〈共鳴効果〉と〈慣性効果〉を利用し、回転域に応じてこれを切り換えることで、シリンダー内に、より多くの混合気を吸入することのできる、画期的なインテークマニホールドシステムです。
共鳴効果とは、たとえば、フラスコのような容器の入口に、スピーカーの音を近づけるとします。すると、内部の空気がふるえ始めるように、ある特定の周波数を与えると音が共鳴し、空気の振幅が最大となります。この共鳴の原理をエンジンの吸入過程に利用し、低・中速域のトルクアップを図ったものが、いわゆる共鳴効果です。
多気筒エンジンの場合、一つ前のシリンダーの吸気行程で発生した圧力波によって、インレットバルブが閉じる直前のポート先端の圧力を正圧にして、充填効果を高めることができます。
この共鳴効果を最も効率的に用いるためには、インレットバルブの開弁状態が重ならず連続するという条件が必要であり、NSXはV6エンジンの前後バンクそれぞれ3気筒ごとの2つの吸気チャンバーに分けることで可能としています。このシステムでは、インテークマニホールドに内蔵するシャッターバルブを閉じることで、各バンク独立したチャンバーとしています。
また、4,800回転あたりからは、チャンバー内部にあるシャッターバルブを開くことによって慣性効果が働きはじめ、高速域での出力アップを生んでくれます。
具体的には、エンジン回転数を検知したECUの指令を受けてシャッターバルブを開き、チャンバー内の容量が変化する構造となっています。
つまり、低・中速域では閉じられたままになっていたバルブが、高速域になって開いて大きな慣性効果を生み、さらにはVTECのバルブタイミングが高速用に切り換わることと相まって、いっそう大きな効果が得られるわけです。
高性能DOHCエンジン、そしてVTEC。さらには新開発の共鳴チャンバー容量切換えインテークマニホールドシステムが、絶妙に連係し、かつてない全域ハイパフォーマンスを実現しました。

共鳴チャンバー構造図(閉)
共鳴チャンバー構造図(閉)
共鳴チャンバー構造図(開)
共鳴チャンバー構造図(開)

「ホンダVTEC」と「共鳴チャンバー容量切換えインテークマニホールドシステム」との絶妙の連係により、すべての回転域において
谷間のないハイ・パフォーマンスをもたらしています。

トルク曲線図
(トルク曲線図)
トルク曲線図





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