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2018.03.27 update

ホンダエンジニアリング株式会社

技術の先進性と高い省エネ効果で省エネ大賞を受賞。水素使用量を99%以上低減する燃料電池スタックの新エージング法。

燃料電池自動車の心臓部“燃料電池スタック(FCスタック)”は、製造直後の状態では本来の7割程度の出力しか発揮できません。ホンダエンジニアリング株式会社では、その性能を100%引き出すために製造工程の最後に“エージング”と呼ばれる“慣らし運転”の様な工程を行っていましたが、「クラリティ FUEL CELL」のFCスタック製造において“CVエージング”という画期的エージング法を開発。生産の劇的な効率化と共に水素使用量やエネルギー使用量の大幅低減に成功。燃料電池自動車普及拡大に向けて大きな一歩となる技術革新を果たしました。

ホンダエンジニアリング株式会社 ホンダエンジニアリング株式会社

燃料電池自動車の心臓部“燃料電池スタック(FCスタック)”は、製造直後の状態では本来の7割程度の出力しか発揮できません。ホンダエンジニアリング株式会社では、その性能を100%引き出すために製造工程の最後に“エージング”と呼ばれる“慣らし運転”の様な工程を行っていましたが、「クラリティ FUEL CELL」のFCスタック製造において“CVエージング”という画期的エージング法を開発。生産の劇的な効率化と共に水素使用量やエネルギー使用量の大幅低減に成功。燃料電池自動車普及拡大に向けて大きな一歩となる技術革新を果たしました。

平成29年度 省エネ大賞 省エネ事例部門の審査委員会特別賞を受賞。

「平成29年度 省エネ大賞」表彰式。
「平成29年度 省エネ大賞」表彰式。
  • ホンダエンジニアリング(株)が省エネ事例部門審査委員会特別賞を受賞。

    ホンダエンジニアリング(株)が省エネ事例部門審査委員会特別賞を受賞。

  • 同時開催の“ENEX2018 第42回地球環境とエネルギーの調和展” に技術概要も展示された。

    同時開催の“ENEX2018 第42回地球環境とエネルギーの調和展” に技術概要も展示された。

 2018年2月14日、東京ビッグサイトで行われた「平成29年度 省エネ大賞」表彰式。そこにはホンダエンジニアリング株式会社の技術開発スタッフの姿がありました。彼らが行った「新エージング法による燃料電池スタック製造時の水素使用量大幅削減 」の取り組みが、省エネ事例部門の審査委員会特別賞を受賞したのです。
 省エネ大賞とは、一般財団法人省エネルギーセンターが主催し、経済産業省の後援で毎年開催されているもので、わが国の産業、業務、運輸各部門における優れた省エネ取り組みや、先進的で高効率な省エネ型製品などを表彰する制度です。今回の受賞により、ホンダエンジニアリングが開発した新しい生産技術が極めて先進的な技術であり、高い省エネ効果を有することが認められました。

 ホンダエンジニアリング(EG)が開発したのは、燃料電池自動車(FCV)の心臓部とも言うべき燃料電池スタック(FCスタック)を製造する際に使われる新しい技術です。FCVは、FCスタックが水素と空気中の酸素を化学反応させて発電し、その電気でモーターを回して走行します。しかしFCスタックには、製造したばかりの状態では本来の7割程度しか出力を発揮できないという特性があり、100%の性能を引き出すためには、FCVに搭載する前に「エージング」と呼ばれる処理を施す必要があります。従来エージングには、実際に水素と酸素を供給してFCスタックを大出力で長時間発電させる方法が用いられていました。全力発電を続けるうちにFCスタックの出力が徐々に上がっていき、最終的に本来の性能に達するのです。しかしEGは今回、全く異なる方法を開発。従来、大量に使用していた水素やエネルギーを劇的に低減しました。

Honda「クラリティ FUEL CELL」生産に採用された新エージング技術。

2016年3月に登場した「クラリティ FUEL CELL」。
2016年3月に登場した「クラリティ FUEL CELL」。
  • パワートレインを小型化し、すべてボンネット内に収納。

    パワートレインを小型化し、すべてボンネット内に収納。

  • 「クラリティ FUEL CELL」のFCスタック。

    「クラリティ FUEL CELL」のFCスタック。

 ホンダエンジニアリング(EG)は、Honda製品を生産するための生産技術や設備の開発を担っています。クルマやバイクなどの生産技術を開発し、その設備をHondaの工場に納入していますが、一部、EGが直接生産を行っている部品もあります。その一つがFCスタックです。FCスタックの製造には従来の自動車生産とは全く異なる技術を必要とするうえに、その製造技術はまだ発展途上でもあるため、現在EGが自ら生産を行っています。
 今回開発した新しいエージング技術も、Hondaの最新FCV「クラリティ FUEL CELL」の生産工程の一部として開発されたもので、EGは自社で生産したFCスタックをこの技術でエージングした後、FCV完成車組み立て工場に納入しています。

 2016年3月に登場した「クラリティ FUEL CELL」は、HondaがFCVの本格普及を目指すために開発したクルマです。そのため先代「FCXクラリティ」と比較して規模の大きな生産計画が立てられました。しかし先代「FCXクラリティ」は1台1台をほとんど手づくりに近い方法で生産していたため、従来の方法ではこの生産台数を実現することはできません。そこで「クラリティ FUEL CELL」の開発に際しては、車両開発と同時に量産技術の開発も行われました。そこで生まれた新しい技術の一つが、今回省エネ大賞を受賞した「新エージング技術」なのです。

FCV量産化のボトルネックとなったFCスタックのエージング工程。

ホンダエンジニアリング株式会社 研究開発部 量確ブロック 技師 野々垣昭浩
ホンダエンジニアリング株式会社 研究開発部 量確ブロック 技師 野々垣昭浩
  • 2008年に発表された先代「FCXクラリティ」。

    2008年に発表された先代「FCXクラリティ」。

  • 「FCXクラリティ」のFCスタック。

    「FCXクラリティ」のFCスタック。

  • 「FCXクラリティ」のFCスタック製造工程(セパレーター打ち抜き)。

    「FCXクラリティ」のFCスタック製造工程(セパレーター打ち抜き)。

  • 「FCXクラリティ」のFCスタック製造工程(FCセル積層)。

    「FCXクラリティ」のFCスタック製造工程(FCセル積層)。

 きっかけは、先代「FCXクラリティ」が発表された2008年に遡ります。1998年からHondaのFCV開発に参画していたEGは、この「FCXクラリティ」でFCスタックの生産を担当し、生産技術の開発も行いました。しかし2008年にクルマが発表されると、Hondaは息つく間も無く次モデルの開発に着手。同時にEGも、次モデルを想定した生産技術の開発をスタートすることになります。

「HondaはFCVを究極のエコカーと位置付けて、次モデルからその次、さらにその次のモデルへ休みなく進化させていく絵を描いていました。それでFCXクラリティの開発が一段落したと思ったらすぐに次モデルの開発が始まりましたので、私は未来に向けてどんな生産技術がいつまでに必要になるかというロードマップを描き、それに沿って次モデルではどんな技術開発を行う必要があるかを洗い出していったんです」
 野々垣昭浩(ののがきあきひろ=ホンダエンジニアリング株式会社 研究開発部 量確ブロック 技師)は当時をこのように振り返ります。
 当時発表された「FCXクラリティ」は、FCスタックを劇的に小型化してFCVとして世界初のセダンタイプのパッケージを実現。ガソリン車と遜色無い居住性や走行距離を手に入れ、FCVが実用段階に入ったことを世界に示しました。
「このクルマの次のモデルでは、いよいよ『量産』が重要なテーマになることは分かっていました。量産化の観点で特に課題となったのが『エージング』です。FCスタックはエージングという言わば“慣らし運転”の様な工程を行わないと本来の性能を発揮しないので、組み立て直後に必ずエージングを行ってから出荷していました。しかしその慣らし運転のためには巨大な設備が必要で、大量の水素とエネルギーを消費していたんです」(野々垣)

 当時「FCXクラリティ」のFCスタックのエージングには、走行距離に換算して2万km以上に相当する水素が使われていました。それだけ大出力発電しないとFCスタックの本来の性能を引き出すことができなかったのです。しかしFCスタック1基1基にこのエージングを施すとなると、とても大量生産はできません。もっと簡易で効率のいいエージング方法を見つけないと、FCスタック量産化は永遠に不可能。そもそも究極のエコカーを名乗るクルマがそれだけ大量の水素製造エネルギーを消費する状況を、このままにしておくわけにはいきません。新エージング法の開発は次モデルの必須項目となりました。

「しかしそれは途方も無く高い壁に思えましたね。と言うのも、なぜ組み立てたばかりのFCスタックは100%の出力を発揮できないのか、なぜエージングすると出力が向上するのか、当時はその原理すら分かっていなかった。これはHondaだけではありません。世界中のFCV開発者たちにとって、エージングすれば出力が上がるという事実だけしか分かっていなかったんです」(野々垣)