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Honda Face Top > Case66:本田技研工業(株) トランスミッション製造部 鈴鹿工場 EPISODE-1

Face 本田技研工業(株) トランスミッション製造部 鈴鹿工場 Face Top Face Top

本田技研工業(株) トランスミッション製造部 鈴鹿工場 ギア加工の工程に採用されたのは誰もが「まさか」と驚いた予想外のアイデア。

生産効率の向上を目指した工程の集約。生産量は増加したものの、環境面で問題が発生。

 トイレでよく目にするハンドドライヤー。 Hondaの鈴鹿製作所では、そのハンドドライヤーに手ではなく、なんとロボットがつかむギアを通しています。見た目も機能もトイレにあるものと同一で、製造ラインの中で異質な存在感を放っています。
 これが実施されているのは、トランスミッション機械モジュールのギアの仕上げと洗浄が行われている工程です。このハンドドライヤーの役割は研磨加工後のギアに付着した切削油を落とすこと。油のついたギアを機器の開口部に差し入れ、風でその油を吹き飛ばすのです。

 こうしたユニークな油切り方法が生まれたのは、生産の効率化を図るための工程集約が発端でした。鈴鹿製作所では2016年11月に累計販売台数150万台を突破し※1、現在も好調に販売台数を伸ばしている「Nシリーズ」を生産しています。その需要にお応えするために工場全体が生産効率を高めながらフル稼働。ギアも例外ではなく、一日当たりの生産数を増やす必要があったのです。
 ギア加工の工程の中には、ギアの歯を研磨する仕上げ工程と研磨加工で付着した油を洗い落とす洗浄工程があります。工程集約以前は、この2つの工程ラインは別々で、研磨を終えたギアは一定の数がまとめられると、大型の洗浄装置が備わったラインへ運ばれていました。今回の工程集約ではそれらをひとつのラインに集約。研磨後のギアをそのまま洗浄することで、作業効率を高め生産数を増加させました。しかしその一方で、現場ではある困りごとが発生したといいます。

 プロジェクトリーダーとして工程集約を推進した竹崎雄一郎(たけざきゆういちろう=生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場 トランスミッション機械モジュール 指導員)は、その困りごとについてこう話します。
「工程の集約以降、仕上げ工程では研磨を行う加工機に補給する切削油の量が増加しました。また、洗浄工程では洗浄液の交換作業の頻度が高くなり、それに伴い洗浄液の廃液量も増えていました。実は、その原因は仕上げ工程でギアに付着した切削油が十分に油切りされないまま、洗浄工程に持ち込まれているからだったんです」

 従来は、仕上げ工程から洗浄工程へとギアを運ぶ間に油切りの時間が確保できていました。一定数のギアをまとめ、運搬する間に、油を自重で落としていたのです。さらにその油を回収し、再利用するという仕組みも備わっていました。しかし、2つの工程が同じラインへと集約されると、油切りの時間は工程で許される10秒間のみ。この時間では以前ほど油を切れなくなりました。そのため、ギアとともに大量の油が洗浄装置へ運ばれていたのです。

集約されたギアの仕上げ工程。研磨から洗浄までのすべての作業を1台のロボットがこなす

集約されたギアの仕上げ工程。研磨から洗浄までのすべての作業を1台のロボットがこなす

生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場 トランスミッション機械モジュール 竹崎雄一郎指導員

生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場
トランスミッション機械モジュール 竹崎雄一郎指導員

工程の集約前後による作業の変化

工程の集約前後による作業の変化

 油が切れなければ回収もできません。再利用できる油の量が減った分、加工機に新しい油を補給することになり、切削油の使用量が増加。また、洗浄装置に持ち込まれる大量の油は、当然のように洗浄液を早期に劣化させます。結果、洗浄液の交換頻度は高まり、多くの洗浄液を使用することとなりました。
「工程集約は工場全体に大きなメリットを与えてくれました。だからこそ、今回の困りごとを早期に解決する必要性を強く感じました。その解決に向け、まず私たちはスタッフの負荷になる洗浄液の交換頻度の改善に目を向けました」(竹崎)
 数日に1回だった交換頻度を月1回程度まで改善する。そのためには洗浄前に、研磨後のギアに残る油の量を現状から8割低減させることが必要でした。この高い目標を達成するために新たな油切り手法の検討がスタートしました。

  • ※1
    2011年12月発売から2016年12月までのNシリーズ(N-BOX、N-BOX +、N-ONE、N-WGN、N-BOX SLASH) 国内累計販売台数(全軽自協調べ)
生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場 トランスミッション機械モジュール 吉原潤技術主任

生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場
トランスミッション機械モジュール 吉原潤技術主任

風と遠心力による油切りを狙い、加工機内にエアノズルを取り付けた

風と遠心力による油切りを狙い、加工機内にエアノズルを取り付けた

実際にギアをトイレに持ち込み、水で濡らしてハンドドライヤーでテストを実施

実際にギアをトイレに持ち込み、水で濡らしてハンドドライヤーでテストを実施

生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場 トランスミッション機械モジュール 大井康生技術主任

生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場
トランスミッション機械モジュール 大井康生技術主任

ハンドドライヤーで切削油を吹き飛ばす。誰もが驚いたアイデアが課題解決の糸口に。

 油を切るために竹崎は対策を練ります。
「私が思いついたのは加工機を利用する方法です。ギアは加工機で回転させながら研磨しますから、研磨後そのまま加工機内で回転させることで、遠心力で油を切ろうとしました」(竹崎)

 しかし、実験してみると落ちる油の量はわずか。目標の8割には遠く及びませんでした。そこで竹崎は設備の保全を担当する吉原潤(よしはらじゅん=生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場 トランスミッション機械モジュール 技術主任)に相談を持ちかけました。
「ライン内で油切りを完結させることが必須ですが、スペースは限られていますから、大規模な装置は置けません。しかも10秒間のうちに油を切らなければならない。困難な条件が揃っていると思いましたね」(吉原)
 吉原が最初に取り組んだのは、加工機内にエアノズルを取り付けることでした。回転するギアにエアを吹きつけることで、油を落とそうと考えたのです。
「一定の効果はあったものの、それでも落ちる油は半分程度。もっと油を落とせる方法がないか思案する日々がはじまりました」(吉原)

 なかなか解決策が浮かばず悩む吉原の前で、ロボットが次々とギアを研磨するためにアームを働かせています。何かに似ているな。ふと思いを巡らせた瞬間、決定的なアイデアが吉原に訪れました。
「ロボットの様子はまるで人が手で皿を運んでいるように見えました。濡れた皿ならどんな風に水滴を落とすのか。濡れた手ならどう乾かすのか。タオルで拭く。紙で拭く。連想ゲームのように次々と考え、風で水を吹き飛ばすハンドドライヤーに辿り着いたのです」(吉原)

「まさか、そんな方法で? それが正直な感想でした。しかも市販品のハンドドライヤーをそのままラインに設置してはどうかという提案。半信半疑ながらもすぐに近くのトイレにあるハンドドライヤーでテストを行ったのです」(竹崎)
 トイレのハンドドライヤーはあつらえたようにギアのサイズにぴったりでした。ものは試しと、ギアを水で濡らし、ハンドドライヤーの中に差し入れます。10秒かけて引き上げると驚くほどギアは乾いていました。
 これはいける。そう判断した竹崎は仕上げ工程のユニットリーダーを務める大井康生(おおいやすなお=生産本部 トランスミッション製造部 鈴鹿工場 トランスミッション機械モジュール 技術主任)に、解決の糸口を見つけたと話しました。

「輝きと自信に満ちた顔で竹崎がやってきた(笑)。聞いてみると想像を超えたアイデアでしたが理にかなっている。もともと製作所は、積極的に自分で考えたり、モノをつくったりという風土ですが、そうしたアイデアを持ちながら仕事に取り組んでくれることは素晴らしい。私はユニットリーダーとして、環境改善のためにこのアイデアをカタチにするよう進言しました」(大井)

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