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メカニカルエモーションの表現を越えたオブジェのようなモデルとしてまとめ上げられた、V4コンセプト。
私は、長年モーターサイクルのデザインに携わる中で、スポーツバイクのデザインがどうあるべきかというポリシーも、走るための機能部品の集合体であるモーターサイクルの機能そのものを、スタイリングへと結実させるノウハウも持っているつもりでいます。
--もし、モーターサイクルのデザインに際し、長い時間をかけて構築してきた自分なりの「デザインの物差し」を捨てて、新たな境地で乗る人の心を動かすということを試みたら、どのようなデザインができるのだろう? Hondaの歴史の中で、エンジニアたちが常に「不可能」とされてきたことに挑む中で新たな技術を生み出してきたのなら、我々デザイナーにも同じことができるのではないだろうか?
走る為の機能を美しく見せるだけでなく、工業デザインとしての機能表現を超えた“何か”で、人の心を強く揺り動かすような、もっと大きな可能性に挑んでみたい。
ずっと抱き続けてきたこの想いを、これからを担う各国の若いデザイナーたちから刺激を受けつつ、昨年、今までにないメカニカルエモーションの表現を超えたオブジェのようなコンセプトモデルとしてまとめ上げたのが2008年のケルンショーに出展した「V4コンセプト」。
そして、「V4コンセプト」というひとつの答えに、走る為の機能を重ね合わせたのがこのVFR1200Fのスタイリングなのです。
VFR1200Fのスタイリングから、スーパースポーツに匹敵する走行性能や、ツーリングバイクにも劣らない快適性といった、スポーツツアラーとしての卓越したパフォーマンスを一瞬にして感じ取るというのは、多くのモーターサイクルを乗り継いできたベテランライダーにとっても、簡単なことではないかもしれません。
しかし、そんな方にこそじっくりと眺め、見つめ、そして触れていただくことで、「このモーターサイクルに乗ることによって得られる新しい喜びや発見」を予感していただきたい。そして実際に走らせていただいた時に、デザインの奥に隠された走りの魅力を実感する事で、その予感を確信に変えていただきたい--。VFR1200Fのデザインには、そんな大人の為のスポーツバイクとしての新しい機能表現を込めました。

モーターサイクルはクルマと違い、「エクステリア」「インテリア」といった区別がありませんし、「外観をかたちづくるためだけのパーツ」も稀です。エンジンやタンク、カウル、ハンドル……全てが「走るために必要な機能部品」であり、それらを組み合わせて、スーパースポーツには速く走る機能とアグレッシブなデザインが、ツアラーには長距離を楽に走れる機能と安心なたたずまいが求められます。性能の特徴とスタイリングを分かり易くシンクロさせるのが常套手段です。
しかし、VFR1200Fのデザインでは、あえてその高い性能や革新技術の表現を内に秘めたものにする事によって、本当の大人の“余裕”とは何かを表現しました。
スーパースポーツにも匹敵する優れた運動性能を持ちながら、あくまでも落ち着いた雰囲気を持ち、最新技術を洗練されたデザインに換えることで、その持てる能力を表現してきた歴代「VFR」にも通じる考え方ですが、その名を継ぐVFR1200Fにとって、スタイリングとして目に見えているものだけが、モーターサイクルとしてのパフォーマンスを表す全てではなく、誇示しないからこそ感じられる、深化した「力」の表現が我々の新たな目標でした。


※写真は全て欧州仕様車