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※2009年11月時点の情報です。
TYPE Rのキースケッチは私が描いたのですが、5ドアの開発に携わっていた頃からの熱い想いが強過ぎたのか、誰からもダメだという話もなく、「おまえのイメージするTYPE Rをつくってみろ」という感じでスムーズに進みました。
それに先立ち、今回は欧州のホットハッチとして1番をめざすというのが志ですから、欧州のさまざまなTYPE Rオーナーの方々とディスカッションを行いました。イギリスではわりと派手なリアスポイラーであっても好まれるのですが、ドイツなど大陸側では必要以上に性能を主張しないデザインを支持する声が多いなど、同じ欧州でも様々な好みがあることを知りました。そのうえで、性能とスタイリングのバランスを追求し、速さと迫力を求めながらも大人が乗るにふさわしいデザインに仕上げていきました。たとえば、ホテルのエントランスに乗り付けてもサマになるような雰囲気を醸し出すイメージです。
ベースとなった5ドアの欧州シビックは、後ろのドアハンドルをあえて見せないなど、3ドア風のスタイリングをしているので、当初は5ドアでTYPE Rをつくるという考えもありましたが、ハイパフォーマンスな「プレミアムホットハッチ」のオーナーのみなさんは、ボディにリアドアの“線”がたった1本入っているだけで生活臭い、粋でないと感じるようです。したがって、あえて3ドアのボディを新設計しTYPE Rをつくったのです。
欧州では、TYPE Rと言えども日常で使い、長距離の移動にも使います。ベースモデルは、外観は非常にコンパクトに凝縮されていますが、中はすごく広く使い勝手がいいパッケージなので、その面でも最適でした。いい意味で予想を裏切るというか。走りの性能以外にも、そういった要素は不可欠なんです。
ただ、もともとスポーティなベースモデルをTYPE Rとしてさらにスポーティにするにはどうしたらいいか、とても悩みましたね。これまで常套手段であった大きなスポイラーをつけるなどすれば簡単なのですが、今回そういうことはしたくありませんでしたので。

TYPE Rのデザインのなかで特にこだわったのは、表情づくりですね。顔まわりだけでなく、リアまわりの表情にも気を遣いました。
欧州にリサーチに行ったとき、移動のためにアウトバーンを走ったのですが、その際周囲に併走するクルマの見え方を非常に意識して乗っていたんです。そうすると、追い越し車線を加速して前のクルマに追いつき存在感を示し、そのクルマが道を譲るとさらに加速して抜き去っていくクルマを多く見かけました。その時にあらためて実感したんです。「あぁ、これが欧州の道なんだ」と。
バックミラー越しに見える表情や、抜き去られたときのリアの表情って非常に大事なんです。TYPE Rですから、「赤いバッジの速いクルマが来たぞ」というフロントの印象や、「かっこいい、迫力のあるクルマだな」というリアの印象を強くつけたいと考えました。
具体的には、表情のなかに黒い部分(空気をたくさん取り込む機能としてのアイコン)が多いと非常にハイパフォーマンスな印象に見えるということに気づき、なるべく黒の要素を入れています。グリルを黒くしたり、下回りの開口部をより大きく取ってブラックアウトするなどです。
リア回りでいうと、テールランプのセンターガーニッシュを黒くして赤バッジを目立たせたり、下部に黒メッシュ風のガーニッシュをつけたりだとか、とにかく黒い要素をいっぱい入れて、空気をたくさん吸って俊敏に走るクルマであることをデザインで表現しています。
そのうえで、ベースモデルと同じように、TYPE Rにも日本的なイメージを盛り込んでいます。フロントマスク開口部の形状については、口角が少し下がったような形状になっていますが、これは戦国武将の鎧甲冑の面頬部分をイメージし、見る者をグッとにらみつけるような凄みを表現しています。またフロントノーズのメッシュは忍装束の鎖帷子にも見えるのではないでしょうか。




ベースモデルの話に戻りますが、表情づくりのひとつとして、ヘッドライトをとにかく細く仕上げることに徹底してこだわりました。もともとのスケッチがハイテク・精緻感を表現すべくかなり細いヘッドライトを描いていたので、それをそのまま形にするとヘッドライトとしての明るさの性能が出ない。そこで、クレイモデルに何回もテーピングをして1ミリ単位でチューニングしていきました。ヘッドライトの性能は内部メカの構造設計で決まりますから、設計担当者と打ち合わせをするたびに「細くしたい」と言い続けたんです。しつこいくらいにデザイン意図とこだわりを伝え続けることで、何とか設計的な工夫を重ねてもらい、イメージ通りのデザインに仕上げることができました。
やはり想いを実現するのは熱意なんです。こんなものかと思って諦めてしまえばそれ以上には絶対になりません。熱意で話し続ければ壁を超えることができる。すべて「人」の力で生みだされるのですから。
今回、シビックTYPE R EUROのデザイン開発にベースモデルから関わったことで、あらためてHondaのものづくりの精神を強く心に刻むことができました。強い想いと徹底したこだわりで生まれたこのクルマを、みなさんにもお楽しみいただけたら幸いです。
