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※2009年11月時点の情報です。
シビックTYPE R EURO(欧州においてはシビック TYPE R)は、欧州で、走りだけでなくデザイン面でも高い評価をいただいています。欧州の雑誌で“No.1ホットハッチ”に選ばれたこともあり、それはTYPE Rとしての評価ですが、そもそも、ベースモデルである欧州シビック(5ドア)のデザインが独創的だったからこそ得られた評価だと思っています。
ベースモデルである5ドアは、「これまでのHondaへの先入観を変える」、「日本発のクルマが欧州で闘い、勝つ」という志のもと、「他のすべての車が一世代前のものに見えるデザイン」という強烈なミッションを受け、チームが一丸となって生みだしたクルマです。
実は、開発の途中段階まで、今とはまったく別のデザインで進んでいました。社内評価も順調に通過し、いざ「これでつくるぞ」という段階になったとき、ベースモデルのLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー=開発責任者)だった松本が、「ちょっと待った」とストップをかけたのです。「納得がいかない、もう1回やらせてくれ」と。
「今のデザインもいいが、欧州で存在感を出すにはもの足りないんじゃないか」というのがLPLの意見でした。
結局、LPLの強烈な意志が通り、デザインは振り出しに戻ってしまったんです。そのときは大変なことになったと思いましたが、今思えば、その「待った」がなければ、このデザインは生まれていなかったわけです。



デザインのやり直しに十分な時間はありません。しかし、納得できないものはつくれない。そんな切羽詰まった状況で、当時ベースモデルのデザインPLであった奥本がイタリアに送り出されました。「いいデザインができるまで帰ってくるな」と。
イタリアの芸術的な雰囲気に満ちた街で、最初のころ奥本はいきなりペンを取ることはせず、まずは各地を巡り、シーンハントをすることで欧州の文化というものを肌で感じ取っていたそうです。そこで、イタリアの芸術に触れれば触れるほど、逆に“日本の美意識”を再発見することとなり、デザイン上のおおまかな目標が定まりました。なかでも、単純な形の布を縫い上げてつくられる着物の折れ線やねじれ、面の張りが持つ美しさや、いわゆる“ジャパニメーション”に描かれる繊細な美しさは日本独特であると感じたようです。
そんな中から生まれた一枚のスケッチ。それが、今みなさんが目にしているシビックTYPE R EUROのベースモデルそのものです。実に独創的で魅力的なデザインでした。LPLはもちろん、開発チームのメンバー全員がそのスケッチに込められた想いを感じ取り、惚れ込みました。
このスケッチこそがみんなの心を動かす起爆剤となって、全員一致で「この絵をそのままカタチにするぞ」ということになり、滞っていた開発が動き出しました。一枚のスケッチがチームを救ったわけです。
通常、デザイナーが描いたスケッチから設計段階を経て完成車に至る過程で、さまざまな要件や都合から“控えめ”な造形になってしまうことが往々にしてあります。しかし、このクルマに限っては、それがありませんでした。これまで積み上げてきたデザインを覆すほどのLPLの強烈なこだわりと、それに応えたデザイナー陣、設計陣の情熱が融合して奇跡的に実現できたのだと、今でも信じられないような思いです。
その要因のひとつが「コスト云々も大事だが、そんなことよりも、とにかくこのデザインを実現させて、欧州でのHondaのイメージを高めたいんだ」というスタンスをLPLが貫いたことだと思います。たとえばドアハンドルや給油口については、このクルマの個性をさらに強調したいという思いから、付加コストをかけてまでこの独創的なデザインを採用してもらいました。通常、クルマの開発では商品コストや収益を厳しく言われるものですが、その逆のことを言われるのはなかなかない経験でした。とにかく、ほとんどすべてがデザイン優先で進められていったのです。
さらにTYPE Rでは、ベースモデルのフィニッシャーをそのまま共用するとエアロガーニッシュまわりの造形含め、TYPE Rらしい“低く身構えた感じ”が出なかったんです。そこで私は、「専用でつくらせて欲しい」と提案したところ、これもすんなり採用されました。ほぼ同じ形ですが、似て非なるものを“低さ”へのこだわりだけで専用設計させてくれたんです。これでデザイナーとして燃えないわけがありません。
前述の通り、ベースモデルである5ドアのデザインは、デザイナーが日本から離れ、欧州の環境でスケッチを描くことによって、かえって日本文化の素晴らしさを再意識できたことがよかったのだと思います。欧州の良さを認識する以上に、「やはり日本っていい美意識を持っているな」ということにあらためて思い至り、その魂がスケッチに注ぎ込まれました。
エクステリアで言うと、Hondaらしさというのはもちろんですが、「欧州に打って出る、日本のクルマが欧州というハッチバックの激戦区で闘い、選ばれる」という気持ちが非常に強かったものですから、日本発のデザインというのを意識し、ディティールに織り込んでいます。
たとえば、細長いヘッドライトやテールランプは精巧かつ切れ味鋭い日本刀をイメージし、ボディの面構成については、前述のとおり着物の合わせとか皺を意識してデザインしています。ショルダーのキャラクターラインは着物のパリッとした折り目にも見えるのではないでしょうか。日本の着物などの伝統的な美しさというか、ヨーロッパの石造りの文化とはまた違う良さを再認識して入れたつもりです。繊細な表現というのは日本ならではだと思っています。
それから、日本の勝ち技とも言えるハイテク感や未来感、ジャパニメーションの持つ繊細さなんかも研究してデザインを行いました。具体的にどの部分というよりも、全体としてそういうイメージを持たせることを意識しました。
