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伝統と未来を、
つなぐデザイン

CRF1000Lアフリカツインのカラー&グラフィックを担当した桂川碧が対話をするのは、ドラフトのアートディレクター川上恵莉子さん。ともに手掛ける媒体は大きく違えども、2人は同じ“デザイナー”です。デザインの力で、どのように伝統を継承し、新しい価値観を提示できるのでしょうか。これまでの仕事を通じて感じた想いとともに、語っていきます。
デザインの本質を掴み、表現する
桂川 碧

Midori Katsuragawa桂川 碧

本田技術研究所 二輪R&Dセンター
カラー&グラフィックデザイナー

1982年神奈川県生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻。2006年入社。これまでに、VFR1200X、VFR800F/X、初代NCシリーズなどのカラーリングを担当。「色で第一印象が決まる」と言われるほどに影響力のある色の力に惹かれ、カラーグラフィックを専門に。デザインをするうえで最も意識しているのは、そのものの本質をつかみ表現すること。

コンセプトからなる自然な表現
川上 恵莉子

Eriko Kawakami川上 恵莉子

ドラフト
アートディレクター

1982年東京都生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、株式会社ドラフト入社。主な仕事に、丸松製茶場「san grams」のブランディング、がまぐち専門店「ぽっちり」のグラフィック、自社プロダクトメーカー「D-BROS」など。JAGDA賞、ADC賞、JAGDA新人賞受賞。2016年6月より、銀座クリエイションギャラリーG8にてJAGDA新人賞展を開催。趣味は日本の古い建築や印刷物を見ること。
http://draft.jp/
http://www.erikokawakami.com/

丸松製茶場 san grams
http://www.san-grams.jp/

同い年の2人がそれぞれ進んだデザインの道

桂川:私たち、同じ1982年生まれですよね。対談なんて緊張してしまうので、同じ年齢でなんだか安心しました。

川上:そうですよね、私もほっとしています(笑)。大学のとき、桂川さんは何を専攻されていたんですか?

桂川:テキスタイルデザインです。父が織物作家ですので、幼い頃から素材や色が身近にあり、テキスタイルを学ぶことは自然な流れだったんですね。

川上:テキスタイルからグラフィックの道に進まれるって、めずらしいですね。

桂川:二輪だとめずらしいかもしれませんね(笑)。車だとインテリアにテキスタイルを使用するのでカラーデザイナーがいるのですが、バイクには私が入ったときはいなかったんです。でも就職活動中に本田技術研究所でカラー&グラフィックデザイナーの募集があって、「色とバイクが好きだからやってみたいな」と思い入社をしました。とはいえグラフィックは苦手でしたので、いまも四苦八苦しながらやっています(笑)。川上さんは大学では何を?

川上:私は東京藝術大学でデザインを専攻していました。専攻が細かく分かれていなかったので、卒業後も、広告、作家、映像、ファッション、プロダクトなど、みんないろんな職業についています。私自身、グラフィックのみ、というよりプロジェクトに応じてアウトプットの形を変えているので、プロダクトをつくることもあれば、布をデザインしたり、空間のイメージをだしたりすることもあります。現在の仕事でもお店のコンセプトをたて、インテリアデザイナーと内装を決めたりしています。

デザインするものの“本質”を見出す

桂川:丸松製茶場の「san grams(以下サングラム)」のカフェの内装も川上さんが担当されたんですか?

川上:いえ、「san grams green tea & garden cafe(以下サングラムカフェ)」の設計や内装は建築家の小川博央さんが手掛けられて、私はサングラムのコンセプト、商品開発、売り方に関わり、ロゴ・パッケージ・ポスター・WEBなどのデザインを行いました。

桂川:サングラムカフェの内装やサングラムのWEBを拝見して、緑茶がもつ清涼なイメージを表現されているなと感じました。

川上:ありがとうございます。丸松製茶場は静岡県で100年以上の歴史をもつお茶の老舗なんです。お茶離れが進んでいる中でブランディングをするにあたり、まず着手したのは、お茶を徹底的に知るということ。今の時代に合った、魅力的なパッケージやフレーバーティーをつくることもひとつの手かもしれません。ただ最も大切なのは、お茶本来の美味しさを正しく伝えることだと考えました。

桂川:本来の美味しさとは?

川上:普段飲まれているお茶って、毎年同じ味を提供するためにいくつかの生産家さんの茶葉をブレンドして販売しているんです。でもそうすると、各メーカーで味が似てきてしまうんです。そこが選びにくさの理由のひとつであると考えて、サングラムでは、ひとつの生産家さんの茶葉、いわゆる単一農園で摘み取られた茶葉のみを販売していこうと決めました。

桂川:ブレンドしているものとしていないのものでは、そんなに味が違うんですか?

川上:シングルの方がブレンドしているものより茶葉の個性を感じます。淹れ方によって味も大きく変わってくるので、パッケージにはおいしいお茶の淹れ方をデザインに取り入れ、お店では淹れ方を伝える試飲スペースをつくり、お茶の教室を開いたりと、おいしいお茶を伝える場をいろいろつくりました。また、おいしくお茶を飲んでもらうために、お茶に合うひとくち菓子を京都の職人さんとつくったりもしました。小さなパッケージに入るお菓子の型やネーミングの考案など、やることは山ほどあり大変ではありましたが、初めて知ることも多く、とても勉強になりました。

往年の人気車種・アフリカツインの復活

桂川:お菓子のパッケージもすごく素敵ですね! 私の場合、やはり色や素材に目がいってしまいます。普段は塗装や金属加工処理などでのカラーリングが主なので、違う媒体が使われる素材の色や質感の豊富さがうらやましく感じます。

川上:バイクのカラーリングだと、どんなことが考えられるのですか?

桂川:例えばスポーティーなタイプだったら力強いソリッドレッドが似合うかなとか。もちろんデザイナーの好みではなくコンセプトを表現する色というものを考えます。工業製品としての耐候性、耐久性などの物性を満足させられるものでなければならないので、けっこう制約も多いんです。

川上:でもバイクというしっかりしたカタチになるのは楽しそうです。なんというか、立体物として出来上がると、質感や物の実感があるじゃないですか。

桂川:そうですね。2015年10月にホンダモーターヨーロッパ・リミテッドから発表された「CRF1000L Africa Twin」の車体色は4種類あるのですが、中でも「CRF RALLY カラー」と「トリコロール」はアフリカツインブランド再興の象徴でもあるんです。

川上:ブランドの再興というと?

桂川:アフリカツインは、パリ・ダカールラリーで1986年から1989年まで4連勝を飾ったNXR750のレプリカモデルとして1988年に生まれました。それが「XRV650 Africa Twin」なんですね。走破性が高くどこへでも行けるオフロードバイクで、世界中のお客様に受け入れられていたのですが、2003年に生産を終了。ですがアフリカツインを求める声は高く、今回の復活に至ったという経緯があるんです。CRF RALLY カラーは2013年にダカールラリーに復活参戦した「CRF450 RALLY」をイメージするカラー。そしてトリコロールは初代アフリカツインのイメージを継承しているものなんです。さらにCRF RALLYカラーでは今回初めてシートにもラインのグラフィックを施したんですよ。シートは柔らかいので大変高度な技術が必要なのですが、ラリーレーサーとしての勢いを表現するためにどうしても譲れない部分で、試行錯誤をくり返しました。その他にもラインの勢いを強調するために車体のストライプをカウルの裏側まで巻き込んで貼ってもらったりもしていて、工場の方に「難しいよこれ。できるか分からないよ」って何度も言われながら、完成にこぎつけました。アフリカツインは私にとっても幼い頃からの憧れのバイクでしたので、そのアフリカツインを担当させてもらえて、すごく嬉しかったです。

プロジェクトごとに最適なチームをつくる

川上:プロジェクトごとにスケジュールに差はありますが、サングラムでは1年から1年半かけてコンセプトを決めて、約半年でデザイン。毎年「D-BROSS」でだしているカレンダーの場合は、6月の展示会に向けて2月からつくりはじめています。バイクの場合はいかがですか?

桂川:開発内容によって異なりますが、グラフィックだけを変える場合だと約1年。アフリカツインの場合は、私が関わってから2~3年です。デザイナー、設計、テストなど、機能区ごとの担当者がいるんですね。カラーリングデザインの担当者は私ですが、所属するカラーリングチームのメンバーと意見を交換したり、ほかのチームとスケッチを描きあったり。いろいろな意見を入れるということで、海外の研究所のデザイナーと日本のデザイナーがコンペをすることもよくあります。

川上:いろんなやり方があるんですね。サングラムはクリエイティブディレクターの下に、アートディレクターとして私、その他にデザイナー、プロデューサー、建築家、ガーデンデザイナーが入っていて、コピーライターが加わることもあります。カレンダーは、打ち合わせ段階では、クリエイティブディレクター、営業、デザイン面での作業は私ひとりです。

桂川:サングラムのロゴも川上さんのデザインですよね。ロゴってすごく難しいじゃないですか。アフリカツインは、初代からのロゴが持つ勢い、エネルギッシュさを現代に合わせて進化させるということで車体についているロゴになったんですね。ロゴデザインで意識されていることってあります?

川上:サングラムの場合だと、単一農園の茶葉を販売する前提を踏まえて、各生産家がもつ屋号をラベルに入れたんです。丸松製茶場もひとつの生産家と考えて、まずロゴに屋号の要素を入れることにしました。サングラムのネーミングは、おいしくお茶を淹れるためのお茶一杯の茶葉の分量3gからつけました。その「3」を「山(さん)」と読ませて、静岡県にある富士山のモチーフと「g」を組み合わせ、屋号のようにデザインしたんです。

冒険心とデザインの力で未来を切り拓く

桂川:歴史あるものをデザインするって、表層だけではだめなんでしょうね。「CRF1000L Africa Twin」のトリコロールも、“初代と同じ色合わせで”と短略的に考えてはいけない部分でした。アフリカツインは世界中のお客様が乗ってくださり、愛してくださったプロダクト。そんなお客様方に敬意を払い、そしてアフリカツインをつくってきた先輩たちの熱い気持ちも受け取り、それらの想いを「CRF1000L Africa Twin」に込めて、いま生きている方々や未来に向け、魅力的な製品としてこれから先もずっと愛されるようなモデルにしていかなければならない役目があると感じたんです。伝統の継承とはそういうことなのかなと。

川上:デザインする媒体が違っても、桂川さんと同じ気持ちです。デザイナーって、求められることが装飾や表現力に偏りがちというか。でも実はそこに至るまでがデザインの多くで、対象の引き出さなければならない要素を探すことが、重要だと思うんです。

桂川:周りにある無駄なものをそぎ落とし、本質をつかまなければ伝わらないんですよね。

川上:伝統的なものをデザインする時も、私の年代の視点を通しているので自ずと現代的になっていく。

桂川:分かります。バイクも機能性の向上からくるスタイリングになっているので、カラーリングとしてもそこを一番表現できるようなグラフィックを目指す。単純に新しさを念頭に置くのではなく、コンセプトを捉えたうえで我々の年代の感覚でデザインするとこうなんだという感じですね。川上さんはデザインにどんな可能性を感じますか?

川上:デザインには環境を変える力があると思うんです。以前ベビーカーの仕事をしていたのですが、その中でなぜ日本のベビーカーは軽くて、コンパクトなベビーカーなのかという話があり、逆にヨーロッパのベビーカーは、重くて大きいのですが。日本だと、ベビーカーが肩身の狭い環境にあったり、お母さんの大変さを考えた結果そうなっていますが、ヨーロッパでは、赤ちゃんの安全や、安定性、乗り心地を考えた結果、その形になっていると聞きました。もちろん、お母さんが少しでも楽になることは大切なポイントだと思うのですが、ベビーカーの本質は、赤ちゃんが安全に乗れるというところだなと思うんです。たとえば電車へ乗るときや、階段など、大変な場面では周囲の人が手伝ってあげればいい。この識見を広めていくことは、デザインでもできます。デザインっていい環境をつくる手助けもできるんだなと感じました。桂川さんはいかがですか?

桂川:そうですね。アフリカツインは、旅先で見上げる満点の星空や荒地の先にある美しい景色といった感動に出会うことができるための相棒だと思うんです。それを体験されたお客様が、たとえば「この綺麗な地球を大切にしよう」と感じてくださったり、解き放たれた心によって隣の人に少しでも優しくできたり、そのきっかけとなることができるものだと自信をもっています。ですからデザインの力が最終的にはそういった大きな視野のところまで到達できたらいいなと思っています。