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Daijiro Kato
 
 
加藤大治郎選手事故調査委員会の報告を受けて
(2003年11月28日)

 2003年4月6日に三重県の鈴鹿サーキットにおいて発生した加藤大治郎選手の事故について、公正・中立の立場から客観的な事故原因の究明を目的とする第三者機関である「加藤大治郎選手事故調査委員会」の報告会が本日開催されました。Hondaは、その報告を厳粛かつ真摯に受け止めております。

 具体的な取り組みといたしましては、Hondaが所属しております業界団体であるMSMA(Motorcycle Sports Manufacturers’ Association)の中で、マシンも含めより一層レース全体の安全性を高めることを目的に、レギュレーションの見直しを検討しております。また、Honda関連のサーキットにおいては、関連諸団体との調整を通じ、改修も含めた対応策の検討を進めてまいります。

 加藤選手は1992年、16歳でデビュー以来11年間一貫してHondaのマシンでレースに参戦し、2001年にはWGP250ccクラスのチャンピオン、2002年には文部科学大臣より「スポーツ功労者」として顕彰されるなど、モータースポーツに多大なる貢献を果たしました。加藤選手が与えてくれた数多くの夢と感動を、そしてその功績をファンの皆様と回顧するとともに、改めてここに加藤選手に哀悼の意を表します。




加藤大治郎選手事故調査委員会調査結果報告(抜粋)

 加藤大治郎選手事故調査委員会は、5名の多方面の専門家により構成され、第三者機関として公平・中立の立場から科学的に事故原因を解明することを目的に活動してまいりました。通常、事故は単一原因ではなく色々な要素が複雑に絡み合って引き起こされる場合がほとんどです。我々は、検証に関する基本方針を、「責任追求型」ではなく「原因究明型」の結論を導くこととし、何が事故の引き金となったか、そしてなぜ重大事故に至ったかの二つの側面から検討を行いました。

 本委員会は、サーキット、警察、病院への訪問聞き取り調査、事故車両と装備品等の現物確認、車載計測データと映像の解析等、関係各位にご協力いただきながら可能な限り情報を収集し、まず本事故の全容を解明することに多くの時間を費やしました。そして、事故に至る経緯について各分野の専門家が可能性の高い推論を行い、委員会で審議を重ねてきました。

 その結果、事故原因についての本委員会の見解を以下のとおり示し、本日を持って事故調査委員会を解散致します。

(1)事故車両に関する検証結果
 事故車両に関して、事故車両および加藤選手の車載計測データをもとに解析を行った結果、エンジン本体機能、前後サスペンション、駆動系、ブレーキ、タイヤに関する動作異常は認められず、車両各部における機能面の問題はなかったと判断した。

 特に、フロントブレーキディスクの破損については、ディスク破断面の解析により、衝突後に発生したものと判断した。

(2)車両運動面からの検証結果
 車両運動力学の見地から車載計測データおよび映像を解析した結果、事故時の車両の挙動について次のとおり推定した。

 各ライダーは、事故現場手前のコーナー(通称130R)出口では、マシンがバンクした状態でリアタイヤが浮き上がるレベルまでフルブレーキングを行い、さらに切り返しを行っている。リアタイヤの接地力が弱まっているこのような状況下で、車体慣性力により車体後方が突発的に横振れし始めた。

 この挙動を止めるためにフロントブレーキを弱めたが、これによりリアタイヤの接地荷重が増し、ハイサイド(※1)が発生した。このハイサイドをきっかけにウィーブモード(※2)が発生し、コントロールを失ったマシンは激しく振られながら左へコースアウトした。

 本委員会は今後、ライダーの操縦動作を含め様々な状況下における二輪車固有の振動現象の要因解明が重要であると考える。

(3)コースに対する検証結果(タイヤバリアとスポンジバリアの状態)
 加藤選手が衝突した場所の防護体は、コースに沿ってタイヤバリアに続き間隔をおいてスポンジバリアが設置されていた。加藤選手は、タイヤバリアに衝突したのち、タイヤバリアをなぞって進み隣接のスポンジバリアへ衝突、この際に頚椎に損傷を受けた。

 なお、本レース開催直前に事故現場前後の改修が行われたが、コース改修以前に今回の事故現場において重大事故は発生しておらず、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)とIRTA(国際レーシングチーム協会)による改修後の確認および各チームの練習走行会においても事故現場の危険性の指摘はなかった。FIMによるコース公認証が発行され、レース開催において全て最終確認が完了していた。

 本委員会からの提言として
1. 予見不可能な衝突の際にも衝撃を少しでも軽減するためには、防護体の効果を向上させることが有効である。現在のところ、防護体についてはFIMに統一的な安全設置基準がないのが実情であるが、今後は少しでもリスクを軽減できるよう、FIMは防護体の安全性に関する研究開発をさらに進め、これを規格化することが望まれる。
2. 通常は頸部の自由な運動性が確保され、且つ転倒などで身体に異常な衝撃が加わった場合には頭部と躯幹部を瞬間的に強く固定できるような安全装置の開発が望まれる。

(4)法医学面からの検証結果
 事故発生直後から病院に搬送されるまでの応急救護措置、および病院での治療は、日本における応急救護、救急搬送、医療の体制から考え得る適切な対応が施されていたと判断した。



 WGPは、世界のトップライダーたちが、その個人の持つテクニックでマシンを操り、限界ぎりぎりの状況で、また、超高速でし烈な争いを展開する、世界最高峰の二輪車レースです。ライダーたちは、常に極限の状態でマシンをコントロールしています。各ライダーの技量により、リアタイヤのスライドやリアタイヤの浮き上がり、軽度のハイサイド等は彼らのコントロール下にあります。

 しかし、人間の対応できる反応速度には限界があり、どんな人間であってもその反応時間を縮めることはできません。極限の反応速度を持っているライダーでも、その極限状態において、ライダーたちの予想を上回る挙動が発生した場合、これらの危険を回避することはできません。

 今回の事故は、このような状況下で発生したものであり、卓越した技量を持った加藤選手は、この極限の状況下で優勝を目指すべく車体挙動の収束に対して最後まで諦めることなく果敢に闘ったものと考えます。


※1:ハイサイドとは、高く横へ飛ばされる現象で、通常、車両がバンクしている時に起こるリアタイヤのスリップに起因し、リアタイヤがバンクしている反対側へ滑り出した直後、リアタイヤが急激にグリップを回復することにより発生する。進行方向に対してヨー角がついていることから、タイヤグリップが回復することでリアサスペンションが一気に沈み、そのバネの反発で直進する慣性の方向へライダーが高く跳ね上げられ、大きな転倒につながる危険な現象である。
  ※2:ウィーブモードとは、走行中の二輪車固有の振動現象の一つで、横方向運動、ヨー運動、ロール運動が練成した複雑な運動を特徴とする。比較的減衰比の小さい振動現象が起こり、低速域および高速域において不安定化する(発散しやすくなる)ことがある。振動数は1〜4Hzで速度依存性を示し、車速の増加に伴い振動数も増加傾向を示す。ある環境下において、レース用車両に限らず自転車から大型二輪車まで全てのタイプの二輪車に発生する可能性がある。


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