2007年3月発表 2011年3月終了モデル
この情報は2011年3月現在のものです。
あえて困難な壁を打ち立てて挑む。
そこに、今までにないよろこびが生まれる。
今回のシビック TYPE Rは、当初、到底無理と思われた
目標を 達成して創り上げられた。
技術者達は、いかにして技術を生み出し、
どのようなテイストに鍛え上げたのか。
このクルマを創り上げたエンジニアが、その想いを語る。
つくづくHondaは「走り好き」の会社だと思います。
開発を進めていくうち皆、熱くなってくるんです。「TYPE Rはやっぱり速くなければダメだ」とか「エンジンはもっとパワーを絞り出せるだろ?」などと。「では目標は」となった時、「歴代のFF TYPE Rで最速」ということになったんです。
正直言えば「これは大変なことになった」と思いましたが、FF TYPE R史上最速なら「筑波サーキットで1秒のタイムアップ」と高い目標を掲げました。ライバルはインテグラTYPE R(※)。比較すると、シビックはボディサイズが大きくなっている分、重量的に不利なうえに、ホイールベースも長い。そのうえエンジンは同じ2リッターDOHC i-VTECで、大幅な出力向上は望めない。常識では1秒のタイムアップなどできないんです。
でも、その壁に挑むのがHondaです。創業して間もなくマン島TTレースやF1に参戦した会社ですから。やればできるんだ。そんな思いでチームがまとまりました。単に速いだけではなく、ベースとして選択した4ドアシビックの高いボディ剛性・サスペンション剛性を最大限に活かせれば、高いスタビリティーを武器に今までのTYPE Rにないコントロール性が実現できるのではと思いました。
壁に挑むには、チームのメンバーの必死の開発が不可欠ですが、皆、全力を尽くしてくれました。シャシー設定には時間がかかると思っていましたから、エンジンとボディをまずやり切ろうと。エンジンは吸排気効率の向上と圧縮比のアップなどで、最高出力を5馬力、6,000rpm付近では約10馬力も絞り出してくれました。ボディはベースとなった4ドアボディの高剛性を活かして、パフォーマンスロッドなどを足す従来手法ではなく、既存の部材の板厚アップなどにより重量を大幅に増やすことなくFF TYPE R史上最強の高剛性ボディを創り上げました。
それらをもとに可能な限りの軽量化とギアレシオの最適化を行い加速テストを実施しました。するとウェイトハンディをカバーできる加速性能が実現できたんです。
テストをするとなると、かつてNSXや初代のインテグラ TYPE Rを鍛え上げたHondaの“名手”といわれ、プライベートでもレースを実践している研究所のメンバーも顔を見せてテスト走行を行ってくれました。
首脳陣も試験車を乗り終えると、チームが考えているより過激な示唆を与えて去っていくんです。「とにかく思い切った開発を行え」と。おかげで今までのTYPE Rの手法を上回る開発がやりやすくなりました。やはり、これがHondaの強みだと思います。走ることが心から好きな人達が積極的に集まって、テストで一生懸命に走り込み、苦しみ、楽しみ、熱意をもって技術を生み、創り上げる。TYPE Rは幸せなクルマだと思いましたね。シビックTYPE RはHondaの情熱の粋を結集して開発されたといっても過言ではないと思います。
シートやメーター(i-VTEC REVインジケーター)も手塩にかけて開発して、最高のものをめざしました。まさしくFF TYPE R最高の出来だと自負しています。日常の道、ワインディングなどでもとにかく走らせて楽しいクルマであり、操る深さを実感できます。持つ歓びにも溢れています。ぜひ一度乗っていただきたい。できればサーキットでも。日常での使い勝手のよさ、熱い非日常性の両方を求める方の夢を叶えられる一台だと考えています。
※ 2001年〜2006年生産型。
Photo:ツインリンクもてぎで行われたテスト車両による社内テストの模様。現行モデルとは一部仕様が異なります。
数値はすべてテスト車両による開発中におけるHonda測定値。