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アジアの旋風

第11回それぞれの最終戦、明日の勝利をつかむために

終盤戦の取り組み

2014年もいよいよ最終戦。長いシーズンを締めくくるバレンシアGPを迎えました。ここまでの17戦、IDEMITSU Honda Team Asiaの中上貴晶は、思い通りのリザルトを残せない苦しい戦いが続きました。それでも後半戦から終盤戦に向けて、中上たちは少しずつ成果を積み上げながら、毎レースでトップ15フィニッシュを果たし、着実にポイントを加算してきました。

サンマリノGPでは10位、アラゴンGPは、リア周りの方向性を逆に振ってみる試みで15位。次の日本GPでは、予選で本来の走りを少し取り戻す兆しを見せて2列目6番グリッドを獲得し、決勝は13位フィニッシュ。連戦のオーストラリアGPでは、寒く厳しいコンディションでしたが、トップ10にはわずかに及ばず11位でチェッカー。

3連戦の3週目となった第17戦マレーシアGPでは、さらに上位の結果を目指し、予選で再び2列目6番グリッドを獲得しました。しかし、決勝レースではそれまでに発生したことのない技術的な問題が発生し、転倒リタイアとなってしまいました。
「この原因をしっかりと究明し、ラストチャンスとなる最終戦で悔いのない走りをできるようにチーム一丸となって、バレンシアではいい結果で締めくくりたいと思います」
中上は、ぶつけようのない悔しさをこらえ、強い思いを秘めた冷静な口調で話しました。

そして、最終戦の舞台、バレンシア・サーキットに乗り込みました。ここはシーズン開幕前にテストを行った場所で、その際に中上は3番手タイムを記録しています。もちろん、レースウイークとは季節や温度環境など、さまざまなファクターが異なるために、一概に同列での比較はできません。シーズンを通して強さを増してきた陣営の選手たちと戦うレースウイークは、さらに厳しい条件での戦いとなることは必至です。

中上とアズラン・シャー・カマルザマンの選手両名とスタッフ全員が気を引き締めて臨む今回の最終戦を前に、チーム監督の岡田忠之は、ここまでの自分たちの戦いを振り返り、厳しく自分たちを戒めながら、皆の士気を鼓舞しました。
「今年は辛いレースが続きましたが、ライバルと比べてまだ経験の浅い我々のチームにとって、たくさんの勉強をさせてもらったシーズンでした。この苦しい戦いの中でも、スタッフは全員が非常にがんばってくれています。『各自がそれぞれに与えられた役割だけではなく、状況に応じてさらにどのような仕事をすれば全員がスムーズに助け合えるのか』というチームの和と結束は、厳しい経験を経てきたからこそ、さらに強固になりました。レースウイークの各セッションでの取り組みに関しては、選手両名はそのときどきのマシンの状態に応じてアジャストできるように、がんばってもらいたいと思います。マシンの方でもライダーのがんばりに応えられるセットアップに仕上げ、『いつも目一杯の力で走らなくても、タイムを出せるんだ』という状況にしながら、しかも、レースにより強い、タイヤに負担をかけないマシン作りを狙っていきます」

目指す結果は一年の有終の美を飾る高いリザルト、と岡田監督は話します。
「このコースはタイム差の出にくいサーキットで、しかもMoto2クラスはわずかなタイム差に多くの選手がひしめくので、一筋縄でいかないことは十分に理解しています。それでも予選では可能な限りの上位、できれば2列目までに並ぶことができれば、決勝でもいい戦いを望めると思います……。やるしかないでしょう!」

こうして、2014年の最終戦が幕を開けました。

青山博一の最終戦

今回の第18戦は、日本のレースファンにとってもう一つの大きなニュースがありました。最高峰クラスに参戦する青山博一(DriveM7 Aspar)が、このレースを限りに現役選手としてのMotoGP参戦にひと区切りをつけ、来季はHRCのテストライダーとして活動する、と発表があったのです。

青山がグランプリ参戦を開始したのは2004年。将来のレース界を担う選手を育成するべくHRCが設立した「ホンダレーシング・スカラーシップ」の第1期生として、Telefonica Movistar Honda 250cc Team(当時)に所属しました。当時のチームメートは、現在Repsol Honda Teamに所属するダニ・ペドロサ。互いに切磋琢磨しあってきた2人は、現在に至るまで親友として交流が続いています。ペドロサはこの2004年と2005年に250ccを連覇し、2006年から最高峰クラスへ昇格。青山も、250ccクラス最後の年となった2009年にチャンピオンを獲得。翌年から最高峰のMotoGPへステップアップしました。

今季はオープンカテゴリーのHonda RCV1000Rで参戦。オープン勢のHonda最上位で終えることもたびたびで、一年を通じて着実にマシンセットアップを積み上げていきました。現役選手活動のひと区切りとなる今大会、青山はHondaが2015年のオープンカテゴリー用に開発を進める「RC213V-RS」で参戦することになりました。ニュウマチックバルブエンジンを搭載するこのマシンは、スタンダードギアボックスと共通ECUソフトウェア、というパッケージで、実戦投入は今回が初となります。

「すでに発表もありましたが、来年はHRCのテストライダーをさせていただくことになりました。今回のレースは、新しいマシンで走らせてもらえるので、そのフィードバックも含めていいレースにしてシーズンを締めくくりたいですね」
青山は、そんなふうに最終戦に向けた意気込みを語りました。

「今年のオープンカテゴリー用マシンRCV1000Rと比較して、どれくらいの違いがあるのかは走ってみないと分かりませんが、マシンのポテンシャルはみんなが気にしているところだと思うので、しっかりと仕事をしたいと思います」

金曜から土曜のフリープラクティスで新しいマシンのセットアップを少しずつ煮詰めて、土曜午後の予選では18番手を獲得しました。
「スペインはチームの地元でもあるし、僕自身にとっても今回はレースキャリアの区切りになるレースです。レースウイークの短い時間でセットアップを十分に詰めきるところまでは至っていないので、ポイントを獲るのは難しいかもしれませんが、可能な限りいい形で締めくくりたいと思います」

日曜午後2時にスタートしたレースは、序盤と中盤に雨がコースの一部でぱらついて、難しい判断を迫られる展開になりました。その状況を的確に見極めながら、青山は最後まで一定のペースで走り続けました。終盤周回にはHondaファクトリーマシンとも順位争いを展開し、最後は15位でチェッカー。レース前の慎重なコメントとは裏腹に、年間最終戦でしっかりとポイントを獲得し、シーズンを締めくくりました。

ピットへ戻ってきた青山は、限られた時間の中で最善を尽くした、という満足そうな表情でした。
「セットアップの仕上がりは60%ほどで、制御を詰めきれていない分タイヤに厳しくなるかもしれないので、決勝レースはハード側のコンパウンドで臨みました。でも、雨の影響もあってハード側コンパウンドのいいところを生かすことができませんでした。あと2〜3レース走れば、このマシン本来のポテンシャルもさらに引き出せると思います」

2004年南アフリカGPでフル参戦デビューを果たして以来、世界選手権を11年間走ってきた青山博一のレース活動は今回をもってひとまずの終了となります。しかし、HRCテストライダーとしての新たな使命は眼前に控えています。11月末にはマレーシア・セパンサーキットでHRCのプライベートテストをするため、のんびりと感慨にふけっている暇はどうやらまだなさそうな気配です。

「次にするべきことが早速始まるので、今後もしばらくは慌ただしい日が続きそうですね。でも、なにもしないで静かにしているより、それくらいのほうがかえって気が紛れていいと思います」
青山は穏やかな笑みをうかべて現役活動を締めくくり、人生の次のステップとなる活動へ、新たな一歩を踏み出しました。

バレンシアGP決勝

Moto2クラスは、土曜の予選を終えて1秒以内に20名がひしめく大激戦の内容でした。中上貴晶は、ラップタイムではポールポジションからわずか1.064秒の差でしたが、グリッド位置は8列目22番グリッドに沈んでしまいました。

日曜日は、現状を打破して上位陣に食い込むべくセッティングを変更して臨み、車高を変更して決勝の勝負にかけました。
「後方スタートだったので、とにかく一台でも抜いてバトルをし、どんな形でもゴールラインまでマシンを運んでみせる、という思いで27周のレースを走りきりました」

14位でチェッカーフラッグを受けた中上の全身からは、言葉にできない悔しさがにじみ出ていました。
「8位争いの集団も見えていたので、なんとしても追いつきたかったのですが、最後のもうひと踏ん張りがきかずにそのグループに迫ることができませんでした。最後は勝負を仕掛けた結果の14位でしたが、レース中は常に全力でプッシュして27周を走りきりました。厳しいリザルトですが、この結果を受け止め、来季に向けて自分をもっと強くしていきたいと思います。今シーズンは苦しいレースが続きましたが、2015年こそチャンピオン争いができるよう、シーズンオフのテストにしっかりと取り組み、来年に向けた準備を進めます。厳しい戦いの中でも得られるものはたくさんあったので、チームと一丸となり、今まで以上に気を引き締めて来シーズンに挑みます!」

チームメートのアズラン・シャー・カマルザマンは27位で完走を果たしました。今回のレースウイークはフロント周りを最適なセッティングに合わせきれず、苦しい走りを強いられましたが、最後まで我慢の走りを続けてチェッカーフラッグを受けました。

「コーナーでのフロントのフィーリングが十分ではなく、旋回に苦労しました。金曜から少しずつセットアップを改善してきたのですが、高いレベルに至らず、決勝の全レースディスタンスでうまく走りきることができませんでした。来年はもっといいリザルトを得ることができるよう、自分自身のマシンに対する理解をさらに深め、ライディングスタイルの改造にもさらに積極的に取り組んでいくつもりです」

最終戦を終えたIDEMITSU Honda Team Asiaは、12日からヘレス・サーキットへ移動して3日間のテストを行います。そしてその後に、ここバレンシアへ戻ってさらに2日間のテストを実施します。このテストから2015年シーズンに向けた新たな挑戦を開始する、と監督の岡田忠之は強い口調で決意を述べました。

「チーム設立2年目の今年、多くの方々に携わっていただいて、我々はさらに多くの経験を積み重ねることができました。皆さまからの熱い声援と厳しい叱咤には、いつも力付けられ、身が引き締まる思いの連続でした。しかし、期待をしていただいただけの高い結果を残すことができず、チーム監督としての責任を痛感しています。中上とアズランが取り組んできたコース攻略やライディングの努力が、確実なリザルトとして成果に結びつくように、各選手に合ったテストメニューを作成し、充実したテストを実施します。その後のバレンシアテストでも精力的な走り込みとデータ収集を行い、来シーズンのスタートダッシュに向けて万全の準備を整えていきます。今シーズンも一年間、たゆまぬ応援をいただき、本当にありがとうございました。この悔しさをバネに、チームスタッフと選手2名はシーズンオフの間も努力を続け、研鑽を重ねていきます。来シーズン、2015年こそ、我々IDEMITSU Honda Team Asiaは最高の結果を獲得してみせます!!」