アジアの旋風

第3回Rd4〜Rd6・活路を求めて

5月初旬の第3戦スペインGP終了後、IDEMITSU Honda Team Asiaの面々は、スペインのアルメリア・サーキットでテストを実施しました。複数のMoto2チームが参加したこのテストでは、マシンセッティング面での収穫が多く、実際の走行タイムでもほかの陣営に劣らない内容でした。良好な手応えを得たチームは、意気盛んに第4戦フランスGPが開催されるル・マン・サーキットへ向かいました。

5月中旬のフランス・ロワール地方は不安定な天候になることが多く、フランスGPは毎年のように寒さと冷たい雨に悩まされます。今年のレースウイークも、金曜日の初日こそ晴天に恵まれましたが、日を追うにつれて天候と温度条件が悪化していく難しいコンディションになりました。IDEMITSU Honda Team Asiaのライダー高橋裕紀の初日のフリー走行のタイムは、トップから約2.3秒差。外的条件がアルメリアテストから大きく異なってしまったこともあり、マシンフィーリングも振り出しに戻ったような状態になってしまいました。

「突破口を見い出せたと思ったんですけどね……」

と、高橋も渋い表情を隠そうとはしませんでした。大きな課題は二次旋回。コーナリング後半部分の旋回動作から立ち上がりにかけて、十分なトラクションとそれにともなう加速感を得られないことが悩みの種になっているのです。

翌土曜日は朝から空模様がすっきりせず、午後3時からの予選は開始からしばらくすると雨が降り始めました。IDEMITSU Honda Team Asiaのスタッフは、金曜日から大幅にセッティングを変更してみたものの、その変更を確認、検証する十分な時間もないまま路面コンディションが変わってしまい、苦しい状況で決勝日を迎えることになりました。

日曜日の決勝レースは、全26周で争われました。ドライコンディションで始まったレースは、大方の予想通り途中から雨が降り始め、22周目に赤旗中断。転倒車の続出した難しいレースを生き延びた高橋は18位でチェッカー。ポイント獲得こそならなかったものの、現状の課題に対する収穫を得ることができたレースになりました。

不本意な内容ながら、第4戦で得た事柄について、監督の岡田忠之は、

「我々がやろうとしている方向とライダーが求めるものの整合性は確実に取れてきています。今後の問題解決に向けて、いい兆候といえるでしょう」と語ります。

「ここまではリアが低いセッティングで進めてきましたが、今後はもっとリアを高くする方向でセットアップしていき、それで二次旋回を求めることができるようになれば、タイムアップにもつながると思います。次のムジェロ(第5戦イタリアGP)はコースレイアウトの面でも、トラクションの問題解決が非常に重要です。第4戦は結果的に苦しいレースになってしまいましたが、アルメリアテストと今回のレースを経験したことで、今後の方向性について、ライダーもイメージを形成することができたと思います。また、次戦に向けて、ニューフレームも間に合いそうなので、確実に戦闘力をアップしていけそうです」

第5戦イタリアGPでは、予定通りニューフレームを投入。選手とチームが頭を悩ませている二次旋回の問題の原因は、このフレーム投入でさらに明確になりました。

「リア周りの剛性感やグリップは、だいぶんよくなりました。データで見ても、リアは間違いなくしっかりと使えるようになってきましたし、乗っているフィーリングでもグリップが向上している感覚はあります。それでも二次旋回が改善しない……。ということは、『やっぱりフロントに問題がありそうですね』ということが明確になってきたと思います」

金曜日のフリー走行を終えて、高橋はこのように一日のセッションを振り返りました。しかし、一朝一夕で一気に解決できるものでもなく、土曜日の走行でも問題解決のための地道な探求が続きました。日曜日の決勝レースでも苦戦を強いられ、結果は24位。ラップタイムで見ても、トップグループとは周回あたり2秒ほどの違いがある厳しい内容でした。

「高橋には、本当に申し訳ないレースになってしまいました」

このような結果では、監督の岡田も難しい表情にならざるをえません。

「コーナーでリアを滑らせずにグリップさせながら進入していくのが高橋の好む乗り方ですが、どちらかというと今の主流は正反対のスタイルなので、開発はそちらの方向を目指していくべきなのかもしれません。それにともない、ライディングポジションも、もう少し前にしていくなど、細かいところの見直しも必要ですが、それよりもなによりも、リアのグリップを生み出せない根本的なところを早急に解決していかなければなりません。レースウイークのセッティングでいくら極端な方向に振ってみても、データ上ではなにも変わらないような状態だと、現場対応にも限界があります。組織としての対応面を含めてしっかりと見直し、問題解決の糸口を見つけるべく、迅速な開発を進めていきたいと思います」

第6戦のカタルニアGPは、ちょうどシーズンの3分の1を迎える節目のレースです。IDEMITSU Honda Team Asiaは、この機に大きなパーツ投入を試みました。新しい仕様での高橋の初日のフリー走行は25番手。順位面ではこれまでのレースと大差がないようにも見えますが、トップとのタイム差は着実に縮まり、変更に対する変化が数字として表れるようになりました。土曜日の予選でも高橋は22番手。ポールポジションを獲得した選手が図抜けたタイムを記録したため、差は約1.5秒でしたが、2番手の選手とのギャップは1秒を切るところまで迫るようになってきました。高橋の口調にも、明るさが戻ってきた感があります。

「順位を大きく上げることができなかったのは結果的に悔しいですが、マシンがこのスペックになってから4回のセッションしか走っていないにもかかわらず、着実にタイム差は縮まってきました。マシンのどこをどう変えればどういう変化が出るかということを確実に分かった上でセットアップを変更できていますので、今はすべてがポジティブですね。明日の決勝は、いきなりいい成績というわけにはいかないかもしれませんが、前進は絶対にできるはずです」

6月16日(日)の決勝レースは、今シーズン一番の暑さになりました。気温が高く、路面温度も51℃まで上昇。多くの選手が転倒リタイアを喫する難しいコンディションのレースでしたが、高橋は20位でフィニッシュ。オープニングラップでは、目の前で転倒した他車を避けて順位を大きく下げてしまいましたが、そこから少しずつポジションを上げ、前の集団に追いついて、その中でバトルを繰り広げました。本来の高橋たちのポテンシャルを考えれば、まだまだ低い場所とはいえ、過去5戦の苦労と比べれば着実な進歩があったといえるでしょう。

「今、自分たちが抱えている問題を解決すればどれくらいタイムが上がって、どれくらいタイムが上がれば前のグループと一緒に走れるかということを実感できましたので、今回も結果を出せなかったのは悔しいですが、次戦に向けてポジティブな内容だったと思います。昨日の予選を終えて、今朝のウォームアップ走行でトレール量を変える変更も試みたのですが、その際にどういう問題が出るかが同時に明確になりました。決勝レースでギャンブルのような状態で挑むよりも、確実に一歩一歩進んでいこうとチームと話し合い、この問題の対応は次戦の宿題にして、今回のレースでは昨日の予選のセッティングで挑むことにしました。今は、走れば走るほどよくなっていく。そんな状況です」

ただし、勝利を目指してレースをしている以上、20位という結果は決して満足できるものではありません。

「終わってみれば、いつもと同じ位置。問題を明確にしてそれを解決していかない限り、同じ状態が続きます」と話す岡田の表情と口調にも、リザルトに対する不本意な気持ちがはっきりと表れていました。

「ただ、セッティング面での進むべき方向は明確になってきました。ライダーのコメントと、そのコメントに基づいたセッティングの振り方も、今まで以上に皆の見解が共有できて、さらに整合性が取れるようになってきました。次のアッセン(オランダGP)は、気温などの条件が今回とはかなり違ってきますが、今回のレース後のコメントや結果をもとに考えると、もうちょっとこっちの方向に進めればいいのかな、ということも明らかになりつつあると思います」

チーム結成初年度のIDEMITSU Honda Team Asiaにとって、2013年シーズン前半の戦いは足元の地場を固めるレースが続きました。大きな変更を試みた第6戦で着実な手応えをつかみ、いよいよこれから中盤戦を迎えます。岡田監督率いるチームは一戦ごとに結束力を高め、光の差す方向に向けて、しっかりとした足取りで着実に一歩ずつ前へ踏み出していきます。

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