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裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.2 中上貴晶・開幕戦の悔しさを今後の糧に

2012年開幕戦カタールGPは、中上貴晶にとって3年ぶりとなる世界選手権の決勝レースでした。2008年から2年間、125ccクラスに参戦した中上は、2010年に全日本選手権に復帰。Moto2クラスでのグランプリ復帰を視野に入れて11年にはJ-GP2クラスにエントリーし、全日本チャンピオンを獲得しました。そして、今年からItaltrans Racing Teamからのグランプリ参戦が決定。スペインのバレンシアやヘレスで行われたプレシーズンテストでも好タイムをマークした中上は、Moto2クラスの有力選手としてその存在感を大いにアピールしました。

3月19日から21日まで行われたヘレステスト後はイタリアに戻り、連日、精力的にトレーニングに取り組んできました。

「テストから戻った翌日から出国する直前の日曜まで一日も休まず、しっかりトレーニングができました。ジム中心のメニューでしたが、一日だけチームメートのコルティやトレーナーと一緒にマウンテンバイクでも走ってきました。筋肉がついて脂肪も落ちて、体力アップも果たせました。フィジカル面については、完ぺきな状態に持ち込めたと思います。あとは力を出しきってレースを楽しむだけですね」

開幕戦はナイトレースとして行われるため、各クラスとも木曜から走行がスタートします。Moto2クラスはフリープラクティス1回目と2回目が行われ、グランプリ復帰初年度からチャンピオン争いに加わるべく意気揚々とカタールへ乗り込んだ中上のタイムは、トップと0.863秒差の9番手。初日としては合格、と中上は穏やかな口調で語りました。

「トップとの差は思っていた以上に開いていないし、ユーズドタイヤで連続周回した際のアベレージタイムも、自己ベストと遜色ないタイムで走行できたので、まずまずの内容でしたね。まだ時間はあるけれど、決勝を見据えて初日からいろいろと試し、データを取ることができました。いいところと悪いところをハッキリつかめたことは、明日以降に向けて前向きな材料です。

ロサイルサーキットは、125cc時代に経験はあるけれどもMoto2では今回が初めてです。データがないのでゼロからのスタートですが、リラックスして走れたし、徐々にペースを上げていい方向に行きました。明日以降は周囲の選手たちもタイムアップしてくると思うので、その流れについていき、集中して冷静に対処をしたいです。『絶対にトップを狙う!』という気持ちはあるけど、あまり意識しすぎると逆にからまわりしちゃいそうなので、金土日の3日間でタイムを上げていって、決勝で表彰台を争えれば一番いいですね」

2日目のMoto2クラスは、フリープラクティス3回目の1セッションのみ。この日の中上のタイムは全33選手中、トップから1.076秒差の11番手でした。

「セッション終盤まで7、8番手にいたのですが、最後に少し順位を落として11番手になってしまいました。(タイム計測4区間のうち)セクター2とセクター3はトップとのタイム差もほとんどない状態で走れているのですが、セクター4とセクター1がちょっと遅れています。とくにセクター4は乗っていても遅いことが自分でもわかるので、この区間を改善できればトップとのタイム差もかなり詰まってくると思います」

土曜日の予選では、3列目9番手を獲得しました。ただし、翌日の決勝に向けてまだバイクを改善する余地がある、と中上は慎重な姿勢を崩しません。

「セッティングが思った以上にいいフィーリングではなくて、予選の最後はなんとか気合でタイムを出したのですが、レースペースを考えるともう少し走りやすいバイクにしたいところです」

その口調からは、まだまだ不満足、といった様子がありありとうかがえました。

「フロントの安心感や安定感が増せば、バトルになっても戦えると思います。決勝レースは混戦になると思うので、うまくスタートを決め、初戦から自信を持って表彰台を争う戦いをしたいですね」

決勝レースは、日曜日の午後8時20分にスタートしました。全20周の戦いで、中上は1周目で少し順位を落とし12番手。以後、セカンドグループの中で激しく争いますが、思うようにタイプアップを図ることができずに集団から離れてしまい、数周は単独での走行を強いられました。それでもレース終盤には前へ追いつき、数名をオーバーテイクして14番手に浮上。当初の想定よりは低い順位でのフィニッシュとなってしまいましたが、2ポイントを獲得してチェッカーを受けました。クールダウンラップを終えてピットボックスへ戻ってきた中上は、がっくりと肩を落とし、無言で椅子に腰を下ろしました。顔に流れる汗を何度もペーパータオルでぬぐい、ようやく語り始めた口調からは悔しさがにじみ出ていました。

「……情けないですね。期待してくれていたチームのみんなに申し訳ないし、自分自身にもがっかりです……」

決勝レースで思うようなリザルトを得られなかった原因は、予想外のチャタリングにあったといいます。昨日までの走行からは予想しなかった激しさで、その対応に思った以上の時間を取られてしまった、と残念そうに振り返りました。

「身体が振り落とされそうになるくらいの振動で、いろいろ試しながら走ってもなかなか思うようにペースを上げることができませんでした。ラスト5〜6周で少し力を抜いて走りを大きく変えてみたらようやくタイムが上がったのですが、対処するのが遅すぎました……。本当に情けないですね。考えることはいろいろあるのですが、このバイクの現状にうまく合わせられなかったのはライダーの責任。今後もこういうレースになることはあると思うので、そういうときに即座に対処できるよう、次のヘレスでは今回の経験をしっかり生かしていきたいと思います」

心底口惜しそうな表情で語る中上にとって、今回の屈辱感はさらに自分自身をたくましくする材料になったに違いありません。これだけの悔しい思いを味わうのは、頂点をしっかりと見据えているからにほかならないのです。

「次のヘレスは事前テストでもいい内容だったので、自信を持って臨みたいなと思います。今回のような悔しい結果にならないよう、次こそ笑顔で終われるように、なによりヘレスは大好きなコースだから、絶対に表彰台争いをしたいですね」

きっぱりとした口調でそう語る中上の気持ちは、すでに次戦の舞台、スペインの地へと向かっています。


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