裕紀・貴晶・謙汰 頂点を目指せ!

Vol.1 もうすぐ開幕戦!

2012年のMotoGPがいよいよ開幕します。日本人選手は、Moto2クラスに2名、Moto3クラスに1名という陣容です。今年で3年目となるMoto2クラスには高橋裕紀(NGM Mobile Forward Racing)と中上貴晶(Italtrans Racing Team)の2名。そして、今年から新たに始まるMoto3クラスには藤井謙汰(Technomag-CIP-TSR)が参戦します。2012年シーズンの全17戦(※7月のアメリカGPではMoto2クラスとMoto3クラスが行われないため、MotoGPよりも開催レース数が一戦少ない)、ロードレースの世界最高峰で頂点を目指す彼らの戦いを今後レポートしていくにあたり、第1回となる今回は彼ら3選手の横顔をまずは簡単に紹介します。

CBR600RR用エンジンをベースとした4ストローク600ccマシンで争われるMoto2クラスは、2010年に始まり今年で3年目を迎えます。初年度から参戦してきた高橋裕紀も、今年で同クラス3年目。「もうベテランの部類ですね」と笑みをうかべました。

Moto2クラスでは、エンジンはHondaが全員に同じものを提供するワンメイクですが、シャシーに関してはプロトタイプであることが必要です。さまざまなシャシーコンストラクターが参加し、独自の車両を製作設計しています。高橋は、2010年にTech3、2011年はモリワキ製のシャシーを使用するマシンで戦ってきましたが、今年所属するチームNGM Mobile Forward Racingはスッター製シャシーを採用しています。過去2年間でさまざまな車体特性のマシンを操りレースを戦ってきた高橋の経験は、本人にはもちろん、チームにとっても貴重で有用な蓄積となるでしょう。

高橋は、昨年の最終戦終了後の11月末にスペイン・ヘレスで実施したテストで、このスッター製シャシーのマシンに初トライしました。年が明けた2012年2月にはスペイン・バレンシアとヘレスでそれぞれテストが行われました。そして、開幕前直前テストとなる3月19日から21日の3日間、ふたたびヘレスで最終調整のテストを行いました。このテストでは、年初から使用してきたシャシーを2日目に別仕様へ変更すると、それまでに感じていた違和感が一気に解消。3日間のテストを終えて、「ようやく、充実した手応えをつかむことができるようになってきましたね。2日目と3日目は内容の濃いテストで、ベースセットアップの方向を確実に積み上げていくことができました」と話しました。

今年の高橋は、チームが変わっただけではなく、生活環境を大幅に変更して新たな決意で一年を迎えています。日本では、故郷の埼玉から鈴鹿へ転居。イタリアの生活拠点も、住み慣れたミザノ近郊のカットリカから、ミラノ北西部の街バレーゼへと移しました。

「身の回りの生活を変えて挑んでいるので、今年には賭けています。もちろん優勝することが目標ですが、まずは現状の状況でベストを尽くし、目標に近づいていきたいと思います。Moto2は3年目なので、開幕戦はベテランらしい走りを披露したいですね」

テストを終えた高橋は、2012年の緒戦を最高のコンディションで迎えるために、この瞬間もバレーゼでトレーニングを続けています。

Moto2クラスの選手たちの中でも、もっとも熱い注目を集めているひとりが中上貴晶です。2006年に史上最年少記録を更新して全日本ロードレース選手権GP125クラスのチャンピオンを獲得した中上は、2年間のMotoGPアカデミーを経て2008年からMotoGP 125ccクラスに参戦しました。しかし、思いどおりの結果を残すことができず、2010年に全日本ロードレース選手権へ復帰。グランプリへの捲土重来を期してST600クラスに参戦しました。2011年にはST600とMoto2の橋渡し的カテゴリーであるJ-GP2クラスへ参戦、5勝を挙げてチャンピオンを獲得しました。

世界最高峰の舞台へ復帰を果たす今季は、2月のテストでもトップタイムをマークする好調さを披露して、一気にその存在感を高めています。3月のヘレステストでも安定した高水準の走りで、開幕に照準を合わせたセットアップを着実に積み上げていきました。

「開幕戦のカタールに行ったら今と違う状況になるだろうし、第2戦でヘレスに戻ってきたときのことも考えつつ、大事な開幕戦を冷静に対処していきたいと思います」

中上は今年の2月に20歳になったばかりですが、その言葉の端々からは年齢以上の落ち着きのようなものもうかがえます。グランプリ125ccクラスでの早すぎる挫折を経て日本で自分自身を見つめ直した2年間が、人間的にもひとまわり大きく成長させたのでしょう。

「全日本では、ライダーとしてのスキルはもちろん、メンタルの部分でもたくさん勉強をさせてもらいました。それをこれからしっかりと生かし、レースの結果で自分の強さを証明したいと思います。チームも自分も、もちろん上位フィニッシュを狙っているし、できるとも思っています。開幕戦で自分自身をしっかりとアピールして、何か光った走りができれば結果もおのずとついてくるはず。大事な開幕戦に向けて、今、いい状況になってきているので、この流れをキープしていきたいですね」

そしてもうひとり、今年から新たに始まるMoto3クラスに参戦するのが高校生ライダー、藤井謙汰です。この4月4日に18歳の誕生日を迎え、高校三年生へ進級する藤井ですが、その若さにもかかわらず、2010年には全日本GP-MONOクラスチャンピオン、2011年にはMoto3と同じマシンのHonda NSF250RでJ-GP3クラスに参戦してチャンピオン獲得、という実績を持っています。

Moto3クラスは、昨年までの125ccクラスに代わるクラスとして今年から新たに開始されるカテゴリーです。4ストローク250cc単気筒エンジンを搭載したマシンで争われ、タイヤはMoto2同様にダンロップのワンメイク。バイクはHonda以外にも複数のメーカーが参戦しており、メーカー同士の戦いという面でも目が離せません。

NSF250Rベースのオリジナルマシン・TSR3を駆る藤井の所属チームは、Technomag-CIP-TSR。これらの名称からもわかるとおり、Moto2クラスでアラン・ブロネク監督率いるTechnomag-CIPが日本のTSRと手を携えて戦っていく体制です。藤井は、昨年終盤にスペイン選手権にスポット参戦し、その後のウインターテストでも精力的に走り込みを続けて世界の舞台へ順応する準備を整えてきました。

開幕直前のヘレステストでは「今の自分はどこがよくない、どこを治せばいい、というポイントを発見して終わることができました。次回……、といったらもうレースですが、改善すべき点が見えてきたのでいいテストだったと思います」と話し、「もっと早いうちに気付きたかったですね」と少し残念そうに付け加えました。世界の頂点を目指す若者たちがしのぎを削るクラスだけに、これからの一年は決して容易な戦いではないでしょう。しかし、その厳しい争いの中を走り抜くことで必ずや大きなものが得られるはずです。

「開幕戦のカタールはもちろん、これからは走ったことのないサーキットばかりでレースをしていくことになるので、とにかくいつも全力を出しながら、いい選手の走りを学習し、戦っていきたいと思います」

はつらつとした声で語る藤井は、グランプリ開幕戦の前に全日本ロードレース選手権開幕戦のもてぎに特別参戦しました。ヘレス-もてぎ-カタール、と連続する肉体的にも厳しいスケジュールですが、それも藤井の若さにはかえって糧になるはずです。

2012年第1戦カタールGPは、4月8日、ロサイルインターナショナルサーキットで戦いの火蓋が切って落とされます。


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