モータースポーツ > ロードレース世界選手権 > 開発ファクトリー潜入【MotoGPマシン RC-Vシリーズ】 > エンジン
本題に入る前に、普段はカウルの奥に隠れてしまっている「エンジン」をご覧に入れよう。
2007年から2011年までのレギュレーションに則った800ccの排気量を持った、水冷・DOHC・V型4気筒エンジン。
220馬力オーバーの最高出力を絞り出し、コースによっては最高速が350km/hにも達する。
Hondaがこれまでに参戦してきた他のカテゴリーからの積極的な技術的フィードバックも行われており、圧縮した空気の力でバルブを閉じるニュウマチック・バルブや、変速時のシフトショックをほぼなくすことのできるHonda独創の「シームレス・トランスミッション」などを採用している。
まさに、勝利のためにHondaの持てる全てを注ぎ込まれたこのエンジンは、金属のかたまりでありながら、どこか「勝利への執念」が立ち上って来るかのようではないだろうか。「男子のハート」がときめくような、美しい造形である。
バルブを開くための「カム」が備え付けられたシャフトを「カムシャフト」と呼ぶ。クランクシャフトから、ギアを介して動かされる。一本一本、鉄の棒から削りだしてつくられている。通常は材料のムクの状態でズッシリと手ごたえの有る重さを感じるが、徹底的な肉抜き加工で、圧倒的な軽さであった。エンジン上部で高速回転しているだけに、見えない部分での徹底的な軽量といったところだろう。
続いて、おそらく世界初公開となるエンジン内部のパーツをご覧いただきたい。
カムシャフト、バルブ、ピストン、クランクシャフト……それらは全てあなたがお乗りのバイクのエンジンにも用いられている部品だが、極限の世界で最高のパフォーマンスを発揮できるよう、ありとあらゆる工夫が施されている。
カムシャフトとクランクシャフトは素材こそ市販車と同じ「鉄」だが、鋳型に流し込んだ鉄からつくるのではなく、より高い密度で金属を成形し、軽さと強度を両立できるよう、鍛造した鉄のかたまりから削りだしてつくられている。
ピストンは、軽量な鍛造アルミ製だ。これも軽さと頑丈さを両立させられるよう、アルミのインゴットから削りだしてつくられている。
正直な感想を一言で述べるならば「非常にお金のかかったパーツたち」である。
ピストンの往復運動を、回転運動に変えるためのパーツだ。カムシャフトと同じく、鉄の塊から一本ずつ削りだしてつくる。円形状やおむすび型など色々なクランクウエイトの形が存在するが、RC-Vでは円形状が選ばれ、適切な重量設定がされているようだ。もちろん、高速回転でのダイナミックバランシングで、超高回転での振動低減を行っているという。
燃焼室で爆発した混合気の力を受け止め、それによって上下動をする。できるだけ軽く、そして頑丈につくるため、アルミのかたまりから削りだしてつくられる。