モータースポーツ > ロードレース世界選手権(MotoGP) > バレンシア テストレポート

2010 ニュース
ダニ・ペドロサ

2010年11月10日(水)

バレンシア テストレポート

ダニ・ペドロサ アンドレア・ドヴィツィオーゾ アンドレア・ドヴィツィオーゾ マルコ・シモンチェリ 青山博一 青山博一 トニー・エリアス

数々のドラマや波瀾万丈の出来事を生んだ2010年シーズンも最終戦バレンシアGPで幕を閉じた。MotoGPを戦う各陣営各チームはひと息つく間もなく、レースが明けた翌々日の11月9日(火)から早速、リカルド・トルモサーキットに居残って2011年に向けた新体制でのテストを開始した。

2010年シーズン中は来年に向けた大型移籍が相次ぎ、ファンや関係者から多くの注目を集めた。Honda勢では、ワークスチームのRepsol Honda Teamにケーシー・ストーナーが加わり、ダニ・ペドロサ、アンドレア・ドヴィツィオーゾと並ぶ3台体制で新たなシーズンに臨む。ストーナーは、2006年にHonda LCRから最高峰クラスへのデビューを果たしており、今回のHonda陣営への移籍で満を持してワークスチームの一員となる。

そのLCR Honda MotoGPへは、2010年にGresini Racing Moto2でクラス初代王者に輝いたトニー・エリアスが移籍してきた。エリアスは一昨年までTeam San Carlo Honda Gresiniに在籍しており、HondaのマシンRC212Vについての経験も豊富な選手だ。そして、Team San Carlo Honda Gresiniには、唯一の日本人選手、青山博一が加わった。最高峰クラスデビューを果たした2010年シーズンはInterwetten Honda MotoGPからの参戦だったが、チームが125ccクラスとMoto2クラスに資源を集約することにともない、今回の移籍劇となった。

以上、これら3チーム6名体制で挑む2011年シーズンのHonda陣営だが、事後テスト初日の午前はあいにくの雨。今回のテストは、欧州はすでに冬時間で日没時間が早くなっていることもあって、午前10時から午後5時というスケジュールになっているが、コースインを許可するグリーンシグナルが灯る数十分前に、サーキット一帯が突然の驟雨(しゅうう)に見舞われた。雨はすぐにやんで上空には虹が架かったものの、路面はフルウエット状態。11月上旬の早朝は、比較的温暖なスペイン・バレンシア地方といえども気温が10℃を下回る状態で、さらにはひっきりなしに強風が吹き荒れ、テスト初日の午前はどのチームも走行を見合わせた。

やがて、時間の経過とともに路面が少しずつ乾き始め、固く閉ざされていたピットボックスのシャッターが上がって選手たちが三々五々コースインし始めるころには、すでに正午を回り午後1時にさしかかっていた。

今回のテストでは、Honda陣営は2011年仕様のマシンづくりに備えて、その方向性を見極めるためのさまざまなパーツを投入し、選手たちも積極的にその評価に取り組んだ。フレーム、スイングアーム、エンジンパーツ、電子制御などなど、トライした項目は多岐にわたる。

実は火曜からのテストに先立ち、月曜夕刻にHRC副社長の中本修平がこの取材のために居残った各国報道陣に向けて、2011年のワークスチーム体制や翌日からのテスト内容を報告するブリーフィングを行った。中本は、2011年はRepsol Honda Teamの3名とTeam San Carlo Honda Gresiniのマルコ・シモンチェリがワークスマシン体制になることや、今回の事後テストで彼ら4名がテストするパーツ類について明らかにした。また、テスト内容について次々と投げかけられる鋭い質問に対しては、「ピット前で皆さんがつぶさに観察しても、おそらくはどのマシンに新パーツが投入されているのかお分りにならないだろうと思います。私自身が、新旧パーツを目の前に並べられてもどちらがどちらかわからないほどですから」とジョーク混じりに返答して、詰めかけた報道陣を和ませた。

テスト1日目の9日(火)は、ストーナーがすばらしい速さを披露した。990cc時代の2006年にはRC211Vで参戦していたものの、排気量800ccのRC212Vはこれが初体験。白地のベースに赤いカンガルーをデザインしたカウルの2010年仕様でコースインしたストーナーは、マシンの感触をつかむとさっそく順応性の高さを発揮した。44周を走行したこの日の自己ベスト1分32秒775は、全体の中でも2番手という好タイム。

ダニ・ペドロサは、肩の負傷が完全に癒えていない状態ながら、精力的にテストメニューに取り組んだ。周回数こそ35周にとどまったが、2日前のレースで使用した2010年マシンと、2011年用シャシーを交互に乗り比べて4番手タイムを記録した。

ドヴィツィオーゾは3名の中でも一番多い50周を走行。エンジンブレーキの新しいセットアップにトライしたあと、2011年用のシャシーに加え、スイングアームのテストも行った。

そして、シモンチェリがこの2人の間に割って入り、全体で見ても5番手タイムという好走を披露した。この日のシモンチェリは新型シャシーと、オーリンズ社のニューサスペンションをテスト。雨上がりの強風という悪条件下にもかかわらず、それぞれについて好感触を得た。

青山は、新しい環境への適応に一日を費やした。日曜のレースで使用したマシンに新チームの外装という組合せで、メカニックとのコミュニケーションや新チームのセットアップを積み上げる方法論になじみながら、まずは走り込みに徹した。

エリアスも、MotoGPとRC212Vの感触を取りもどすための順応に時間を割き、チームとの対話をじっくり行いながら一日を過ごした。

翌10日(水)は、朝から好天に恵まれた。相変わらず強い風が吹き、気温も季節なりの低さではあったが、昨日と比べればはるかにテストメニューを実施しやすいコンディションとなった。レース人気の高いお国柄だけに、この日は昨日以上にテスト見物に訪れるファンの姿が増えた。昨日よりも好条件となったこともあって、この日は午前10時にコースインが許可されると、各チームは続々とピットのシャッターを上げてテストを開始。選手たちは午前中から精力的にテストメニューを消化した。

テスト2日目の総合トップタイムにつけたのは、ストーナー。来年用のシャシーも試しながら63周を走り込み、自己ベスト1分32秒066と昨日のタイムを0.7秒も更新した。マシンやチームへの順応度が高まる来年2月のセパンテストでは、さらにいい走りを披露するだろう。

ペドロサも昨日のタイムを0.4秒更新した。負傷部位をいたわるためにロングランは見合わて、前日同様に2010年マシンと2011年用プロトタイプの比較、タイヤテストなどに徹した。テストが終了してバルセロナへ戻ったら、医師のもとを訪れて負傷した肩の一刻も早い完全な回復に集中する予定だ。

ドヴィツィオーゾは、この日の朝から熱っぽさを訴えて万全な体調ではなかったが、車体テストやサスペンション、電子制御などのメニューに積極的に取り組んだ。完全とはいえない体調にもかかわらず、精力的にテスト項目を消化しながら走り込んだ68周という数字は、来年へ向けたドヴィツィオーゾのモチベーションと決意をなによりも雄弁に物語っている。

シモンチェリはHonda勢2番手、全体でも4番手につける走りで、昨日の自己ベストタイムをさらに0.5秒更新した。この日も精力的な取り組みを続け、前日の内容に加えて新しいリアサスペンションの組合せにもトライした。

青山は83周を走行。チームとのコミュニケーションをさらに深め、その結果、第18戦の予選タイム(1分33秒343)を上回る1分33秒105に到達した。この日はタイヤテストも実施、良好な手応えをつかんで自信を深め、ポジティブな雰囲気で一年を締めくくった。

エリアスは青山よりも3周多い86周。ステップバイステップでベストセッティングを探求しながら、ゆっくりと、しかし確実に2年ぶり2009年シーズン以来となるRC212Vの感触を取り戻していった。

2日間のテストを終えた選手とチームは、来年のマレーシア・セパンサーキットで行われるプレシーズンテストまで、つかの間の休養期間に入る。

その一方、Honda開発陣は今回のテストで得られたデータを日本に持ち帰り、来年こそ悲願のチャンピオンを奪還すべく、決意も新たに2011年に向けた準備を開始する。

一年間におよぶ長いシーズンが終わったのではない。戦いは、今まさに始まったばかりなのだ。