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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.99 Rd.2 富士レビュー 予想外の苦戦を強いられた富士大会 生かし切れなかったNSX CONCEPT-GTのポテンシャル

 優勝を目指して臨んだ第2戦富士大会でしたが、Honda勢のトップは#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)の4位で、これに#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ組)が8位で続く結果に終わりました。また、#64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は7番手を走行中にタイヤがパンクして12位フィニッシュ、#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)はアクシデントの影響でパーツの一部がタイヤに接触するトラブルが起きて13位でチェッカーフラッグを受けたほか、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)はターボチャージャーにトラブルが発生して29周でリタイアに追い込まれました。非常にフラストレーションのたまる結果だったと言わざるを得ません。

 開幕前の3月に行われた富士のテストでNSX CONCEPT-GTはトップクラスのストレートスピードを発揮したほか、ライバルと肩を並べるラップタイムを記録していました。つまり、マシンのポテンシャルは高かったのです。けれども、今回のレースではマシンのポテンシャルを成績に結びつけることができませんでした。その理由のひとつは、第3セクターで空力の前後バランスをとれなかったことにあります。

 よく「このマシンはダウンフォースが大きい」とか「ダウンフォースが不足している」などの言い方をしますが、ポイントとなるのはダウンフォースの絶対量だけでなく、前後バランスも極めて重要となります。たとえば、リアのダウンフォースばかり大きくてフロントが足りなければ、ハンドリング特性としてはアンダーステアとなり、思うようにクルマの向きを変えられなくなります。反対にリアのダウンフォースが足りなければオーバーステアとなって、コーナーからの脱出で素早く加速できないマシンとなってしまいます。ですから、たとえリアのダウンフォースをもっと大きくできる状態でも、それに見合ったフロントのダウンフォースを確保できなければ、リアのダウンフォースをフロントのレベルに揃えて前後バランスの確保を優先するという事態も起きうるわけです。

 今回、私たちも前後バランスを優先したダウンフォースの設定とせざるを得ませんでした。このためトータルのダウンフォースはやや不足気味で、これがターン3の区間タイムが伸び悩む一因となりました。シーズン中の開発が実質的に認められていない現行レギュレーションのもとでは、この問題の解消は容易ではありませんが、これまで得たデータをじっくり解析して今後の開発に生かしていきたいと考えています。

 これにくわえて、富士ではコースの特性上、ラップタイムに対する重量感度が高いことも私たちには不利に作用しました。

 重量感度とは、車重の変化がラップタイムに与える影響の大小を示すものです。たとえば、基準の車重から10kg重くしたときのラップタイムの落ち込みは、コースに関わらず一定とはいえず、より大きく落ち込むコースもあればあまり影響を受けないコースもあります。この点、富士は重量感度が高く、少し重くなるだけでラップタイムははっきりと落ち込む傾向が見られました。

 なぜ、こうした状況がHondaに不利に作用したのでしょう? 答えは簡単で、NSX CONCEPT-GTの車重がライバル2車種より重いからです。

 ご存知のとおり、SUPER GTではハンディウェイト制を導入しており、このためシリーズポイントを多く獲得すればするほど車重は重くなっていきます。ただし、シーズン序盤の現段階では獲得ポイント数がまだ多くないためにハンディウェイトもさほど重くなく、基本的にはどのマシンも車重には大きな違いがないと思われがちです。

ところが、NSX CONCEPT-GTはミッドシップ・レイアウトとハイブリッドシステムを採用している関係で、フロント・エンジンを採用するライバル2モデルよりも57kg重い最低重量が科せられています。しかも、この車重を支えるタイヤは、フロント・エンジンでもミッドシップでも変わらないので、最低重量の差はマシンのパフォーマンスにダイレクトに関わってくることになります。

とはいえ、SUPER GTで定められている最低重量はGT500クラスに参戦する3メーカーが合意して決めたものであり、その内容にいまさら異論を唱えるつもりはありません。けれども、重量感度がサーキットによって異なる以上、最低重量の差がパフォーマンスに与える影響もコースによって異なることはやむを得ません。このため、重量感度の高い富士では、ほかのサーキット以上にNSX CONCEPT-GTは苦しい立場に追い込まれることとなったのです。

 くわえて、第2戦富士大会ではいくつかのトラブルやアクシデントが発生し、これが私たちの足を引っ張る形になりました。前述のとおり、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTはターボチャージャーのトラブルでリタイアに追い込まれましたが、同様のトラブルは土曜日に行われた公式練習でも起こり、公式予選で11位に終わる大きな要因となりました。また、#64 Epson NSX CONCEPT-GTに起きたタイヤ・トラルブルも信頼性の問題に分類されるものでしょう。これに比べると、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTがタイヤにトラブルを抱えたのはあくまでもその直前のアクシデントでボディにダメージを負ったことが原因で、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTや#64 Epson NSX CONCEPT-GTに起きたことと同列に語るわけにはいきませんが、それでも予想外の事態により苦戦を強いられたことには変わりありません。これはこれまでも心がけてきたことですが、不測の事態を招かないようにする努力を、今後はさらに徹底させていかなければいけないと思いを新たにしているところです。

 いずれにせよ、今回はNSX CONCEPT-GTのポテンシャルを十分に引き出すことができませんでした。しかし、8月8〜9日には第4戦が再び富士スピードウェイで開催されるため、それまでには今回起きたことを詳細に分析し、できるだけの対策を実施することが重要となります。その点、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTがミスなく走りきって貴重なデータを収集してくれたことは、Honda勢の巻き返しを図るうえで大きな意味を持っているといえるでしょう。今後も現状の把握に努力し、一歩ずつ確実に進化を図っていくつもりなので、引き続きのご声援をどうぞよろしくお願い申し上げます。