モータースポーツ > SUPER GT > GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート > vol.98

GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.98 Rd.2 富士プレビュー テストでストレートスピードの速さを証明 昨年の第5戦富士大会に続く2連勝を目指す

 シーズン第2戦は、年2回開催される唯一のサーキットである富士スピードウェイが舞台となります。ただし、5月の第2戦は伝統の500kmとなるのに対し、9月の第5戦は通常どおりの300kmとレース距離は大きく異なります。では、500kmの長丁場となる第2戦富士大会がどのような戦いになるのかをここで占ってみましょう。

 初代NSX-GT、そしてHSV-010 GTと、Hondaの歴代GTマシンはダウンフォースが大きなエアロダイナミクスを特徴としており、このため空気抵抗が大きめでストレートスピードが伸びにくく、メインストレートが全長1.5kmもある富士スピードウェイでは苦戦を強いられることが少なくありませんでした。ただし、昨年デビューしたNSX CONCEPT-GTは一定のダウンフォースを確保しつつも空気抵抗を大きく削減したのが特徴で、このため富士のストレートでもライバルと肩を並べるか、ときにはライバルを凌駕する速さを示しています。この結果、昨年の第5戦では#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)がライバル勢を抑えきって優勝を果たしたことは、皆さんもご存知の通りです。つまり、私たちはもはや富士スピードウェイを苦手とはしていないのです。

 こうした傾向は、今年の3月23(月)〜24日(火)に行われた富士テストの結果から、改めて確認することができました。ラップタイムでトップに立つことはありませんでしたが、2日間を通じて少なくとも1台がトップに迫るタイムを記録したほか、ストレートスピードでいえば#64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)がトップクラスの速さを示したのです。つまり、富士でも引き続き大きなチャンスがあるといえるでしょう。

 一方で、ラップタイムの点でトップに届かなかったのは、セクター3での区間タイムが思ったほど伸びなかったことに理由があります。コーナーが連続するセクター3では、足回りの点でも空力の点でも前後バランスが極めて重要になります。第3セクターの区間タイムがテストの際に伸び悩んだのは、足回りのバランスに改善の余地があったからだというのが私たちの見解です。従って、この点は事前に解析を行い、レースウイークまでに問題点を解消しなければいけないと考えています。

 また、シーズンオフ中にクリアしなければならない課題の一つと位置づけてきた“跳ね”の問題も、完全には解決できていないことがテストを通じて判明しました。ストレートエンドのブレーキングなどでマシンのフロントが周期的に上下動を繰り返す“跳ね”の症状は、タイヤのグリップレベルが安定しないことから制動距離が長めになるほか、ドライバーにとってはマシンが落ち着かないためコントロールが困難になることがあります。

 ただし、“跳ね”の問題は路面のうねりやマシンのエアロダイナミクス、サスペンションのセッティングなどが複雑に絡み合って発生するものであり、その根本的な解決は容易ではありません。また、DTM(ドイツツーリングカー選手権)と共通化された現行レギュレーションではエアロダイナミクスの開発が制限されているので、空力面を大幅に改修することは実質的に不可能です。このため、足回りのバランスを見直すなどして、この症状を少しでも軽減することが、現時点での課題となっています。

 では、5台のNSX CONCEPT-GTの中では、どのチームが特に有望でしょうか?

 言うまでもないことですが、ハンディウエイトをあまり積んでいないチームがまずは有利となります。その点からいえば、開幕戦を不本意な結果で終えた#64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)と#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)の2台に期待がかかります。とりわけ第2戦富士大会は500kmの長丁場のため、ハンディウエイトの影響もそれだけ長く続くことになります。また、通常2回のピットストップを行う500kmレースはしばしば戦略で成績が左右されるため、タイヤの摩耗を慎重にコントロールすることが必要となりますが、その点でもハンディウエイトが少ないマシンが有利といえます。というわけで、まずは#64 Epson NSX CONCEPT-GTと#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTの活躍に期待したいところです。

 また、今シーズンから参戦している#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ組)にとっては、当然のことながら先の開幕戦がデビュー戦となりましたが、そこではレース前半に首位に立ちながら、ピットストップに手間取って順位を落としてしまいました。この点は、誕生間もないチームの弱点があらわになったとも言えます。けれども、1度実戦を経験したことで、チームとして成長したことでしょう。やはりSUPER GTはデビュー戦となったターベイ選手も、全般的にはすばらしい働きをしてくれましたが、実戦で走り始めた直後はやや戸惑っているようにも見えましたので、その経験を踏まえた第2戦では、さらなる活躍を見せてくれるものと期待しています。

 マシンのセッティングが決まってきた#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)も岡山大会では健闘してくれました。開幕戦がGT500クラスのデビュー戦となった野尻選手は、ターベイ選手同様、速さはありながらも完ぺきなレース運びとはいえない部分も見受けられましたが、第2戦では力強い走りを披露してくれるはずです。

 もともと実力のある#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)については何の心配もしていません。開幕戦では9番グリッドから追い上げてトップにまで浮上したことが、彼らの強さをなによりも明確に示しています。開幕戦を2位で終えた#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは30kgのウエイトを積んで富士大会に臨むことになりますが、そうしたハンディを跳ね返すような快走を期待したいところです。

 いずれにしても、第2戦富士大会には、開幕戦で取り損ねた優勝を目指して挑みます。レースは例年通りゴールデンウイーク中の開催となりますので、どうか友人やご家族と連れだって富士スピードウェイにお越しいただき、5台のNSX CONCEPT-GTに熱い声援をお送りください。どうぞよろしくお願いいたします。