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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.97 Rd.1 岡山国際レビュー 決勝で躍進できた本当の理由 NSX CONCEPT‐GTが開幕戦で2位入賞

 2015年シーズンの開幕戦で#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)が2位表彰台を勝ち取りました。#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)も表彰台まであと一歩の4位でフィニッシュしたほか、最終的に6位となった#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ組)は一時#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTとともに1-2体制を築くほどの速さを見せました。

 もっとも、予選が終わった段階でこのような結果を予想できた人は決して多くなかったことでしょう。なにしろ、予選でHonda勢の最高位だったのは#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTの6番手で、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは9番手。#8 ARTA NSX CONCEPT-GTに至っては13番グリッドからスタートしてこの成績を収めたのです。

 なぜ、これほど目覚ましい追い上げを図ることができたのか、順に説明していきましょう。

 岡山国際サーキットで不可解な現象が起きたのは、シーズン開幕前に行われたテストでのことでした。このサーキット随一の高速セクションである第1セクターでNSX CONCEPT‐GTのタイムが伸び悩むようになってしまったのです。とりわけ問題だったのが、長いバックストレートへと続くアトウッドコーナーの立ち上がりで素早くアクセルを踏めなくなったことで、このためコーナーからの脱出が遅くなり、バックストレートでのスピードが伸びきらずにラップタイムを短縮できないという状況に陥っていたのです。岡山国際サーキットでの最高速度が記録されるバックストレートは、直後に大きく減速するヘアピンコーナーが控えていることもあって、このコース最大のオーバーテイクポイントとなっています。そこでのスピードが伸びないということは、単に速いラップタイムを刻めないだけでなく、ここでライバル勢に追い越される可能性が高いことも意味していました。

 2015年モデルのNSX CONCEPT‐GTは、エンジンのパワーアップとエアロダイナミクスの最適化を図った結果、事前のシミュレーションでは明確にラップタイムが向上することが確認されていました。ところがシーズン前のテストでは、コーナーで素早くアクセルペダルを踏めない症状のため、エンジンとエアロダイナミクスで稼いだタイムをコーナー部分ですべて失っていることが明らかになったのです。そこでレースウイークに入ってからは第1セクターの区間タイムを睨みながらセッティングを進めていきました。そうすることで全体のペースを高めようとしたのです。

 この目論見は、半ば成功し、半ば失敗に終わりました。いえ、半ば以上は失敗だったというべきでしょう。なぜなら、狙い通り第1セクターのタイムは短縮できたものの、それまでは決して遅くなかった第3セクターのタイムが鈍るようになり、結果的に1分19秒フラットが狙えると予想していた予選で、Honda勢トップの#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTがQ2で1分19秒841、Q1で敗退して予選9位となった#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは1分19秒986に留まったのです。

 こうした状況にはタイヤチョイスや路面コンディションなどの問題も複雑に絡み合っていましたが、一言でいえばセッティングを失敗したということです。しかし、終わったことをいつまで悔やんでいても仕方ありません。幸い、決勝日は雨になるとの予報だったので、当然レインタイヤを使うことになりますし、セッティングも一から考え直さなければいけません。そこで私たちはチームとともに新たな気持ちでセッティングを組み立てて日曜日を迎えることにしました。

 激しい雨の中で行われた日曜日朝のウォームアップを終えたとき、Hondaのドライバーは誰もが自信に溢れた表情を浮かべていました。決して上位に食い込むほどのタイムではありませんでしたが、よほどマシンの感触がよかったのでしょう。彼らの表情を見たとき、「よし、決勝では追い上げが図れる」と私は確信しました。

 雨は上がっていたものの、まだ路面がぐっしょりと濡れていたレース序盤こそNSX CONCEPT‐GTのペースは好調とはいえませんでした。また、予選11位に終わった#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)は、万に一つの可能性に賭け、スリックタイヤでスタートを切りましたが、前述のようなコンディションではコースに留まっているのが精一杯で、早々にレインタイヤに交換するためにピットに駆け込み、大きく遅れることとなりました。

 けれども、NSX CONCEPT-GTが上位陣に食い込むようになるまでには、それほど長い時間は必要としませんでした。10周を過ぎたあたりから徐々に路面が乾き始めると、残る4台のNSX CONCEPT-GTはじわじわと順位を上げ、82周のレースの20周目には#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTが3番手、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTが4番手といずれも表彰台に手が届くポジションまで追い上げていたのです。残念ながら#64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)はその直前にホイールが外れてリタイアを喫していましたが、13番グリッドからスタートした#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)も9番手まで駒を進めています。したがって、この段階ではすべてが順調のように思えたのです。

 その後、24周目に首位に立った#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTは、34周目に#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTにそのポジションを譲るまでトップを守り続けたほか、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTも37周目にピットストップを行うまで首位を堅持。後半戦に期待が持てる内容でレースの折り返し地点を迎えることになりました。

 けれども、SUPER GT初参戦の#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTはピットストップでミスを犯しておよそ10秒のロス。#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTのピット作業も完璧とはいえず、一時的にライバルの先行を許したものの、49周目にこれを攻略すると再びトップに浮上したのです。ここから実に70周目まで#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは首位の座を守り続けましたが、その少し前から再び雨が降り始めます。このためハードコンパウンドのレインタイヤを装着していた#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは苦戦を強いられ、一時は10秒ほどもあったリードを失って首位から脱落してしまいます。同様にハードコンパウンドを選んでいた#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTもずるずると順位を落としていく展開となりました。

 一方、ミディアムコンパウンドを装着していた#8 ARTA NSX CONCEPT-GTは雨の中で順位を上げていき、一時は表彰台をうかがえるポジションにまで浮上しましたが、GT500クラスは今回が初挑戦となった野尻選手が1コーナーで軽くコースアウトするミスを犯し、最終的に4位でフィニッシュしました。

 つまり、雨絡みのレースとなったため、コンディションによってペースが大きく変わる展開となったわけですが、そのような難しい状況の中でも着実に挽回できたことは大きな成果だったと捉えています。

 いずれにしても、長いシーズンはまだ始まったばかり。今後も着実にポイントを積み重ねてタイトルの奪還を図りますので、引き続きのご声援をどうぞよろしくお願い申し上げます。