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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.96 Rd.1 岡山国際プレビュー 目標としていた開発プログラムを完遂 進化した2015年仕様NSX CONCEPT‐GTの活躍に期待

 昨年の最終戦から数えておよそ5ヶ月のインターバルを経て、SUPER GTの2015年シーズンが4月4〜5日に岡山国際サーキットで開幕します。この間、Hondaは鈴鹿、セパン、富士、もてぎ、岡山国際などで合計6回のテストを実施し、NSX CONCEPT‐GTの熟成に努めてきました。開幕戦までにあと1度だけ富士でテストを行いますが、ここでは5月に開催される第2戦富士大会に向けたセッティングやデータ取りを実施する予定で、岡山国際大会に向けた準備を行うわけではありません。その意味では、開幕戦の展開を予想するのに必要な材料はすでに出揃っているといえます。

 その岡山国際で行ったテストについてお話する前に、2015年仕様の開発コンセプトについてご説明しましょう。DTMとの車両規則が共通化された2014年、Hondaは環境に優しい2L直噴ターボのダウンサイジング・エンジンを搭載したNSX CONCEPT‐GTを新たに開発し、SUPER GTに投入しました。しかし、もともとフロントエンジンを前提に制定されたDTMレギュレーションにはミッドシップに関する詳細な規定がなく、またGT500クラスにハイブリッドシステムを投入するのはHondaが初めてだったこともあり、具体的な車両開発に着手するタイミングは予定よりも遅れ、これがさまざまな形で2014年シーズン前半の戦いに影響しました。その後、後半戦に向けてNSX CONCEPT‐GTは尻上がりに調子を伸ばしていきましたが、タイトルには手が届かずにシーズンを終えたことは皆さんもご存じの通りです。

 そこで2015年シーズンに向けては、なによりも開発に早く取りかかるように努力しました。領域によっては、2014年シーズンが終わらないうちに今年の開発プログラムを立ち上げたものもあります。その詳細についてはSUPER GTホームページの「2015年シーズンに向けた意気込み」でも紹介していますが、結果的に今年は十分に時間をかけて開発に取り組むことができました。これは、2014年シーズンとは大きく異なるポイントです。

 もうひとつの開発コンセプトとしては、セッティングの幅が広く、実戦の場で扱いやすいマシンに仕上げることが挙げられます。たとえばエアロダイナミクスやエンジンに関していえば、特定の領域だけの性能を磨き上げることでピークパフォーマンスをさらに引き上げることもできます。けれども、現実にはこのピークパフォーマンスだけを使ってレースを戦えるわけではなく、それ以外の領域も必ず使うことになります。すると、優れたピークパフォーマンスを生かしきれずに総合的な戦闘力が低下し、結果的にライバルに勝てないという事態を招きかねません。また、どんなにピークパフォーマンスが高くても、その性能を引き出せるセッティングに合わせ込むことができなければ、優れた性能を活用できません。つまり、セッティングのスイートスポットがあまりに小さいと、実戦の場で本来の実力を出せず、優れたピークパフォーマンスを生かしきれないことになってしまうのです。

 そこで2015年シーズンに向けては、セッティングが出しやすく扱いやすく、加えて特性がピーキーではないマイルドな性格のマシン作りを心がけてきました。

 結果から申し上げれば、2015年仕様のNSX CONCEPT‐GTは狙い通りのマイルドな性格に仕上がりました。ただし、これが本当に理想的な特性かどうかは、実戦を戦ってみるまで分かりません。一例を挙げましょう。たとえば、ハンドリングのレスポンスが極めて鋭敏で、どちらかといえばオーバーステア傾向のマシンがあったとします。こうしたキャラクターは、条件がぴたりとはまれば非常に速くコーナーを駆け抜けられるでしょうが、その速さをいつでも十分に発揮できるとは限りません。そこで、若干アンダーステア方向に味付けし直せば、より扱いやすいマシンになることは間違いありませんが、扱いやすさを追求したばかりに、平均的なパフォーマンスが低くなり、結果的に十分な速さを獲得できないというケースも考えられます。

 いわば鋭さと汎用性のバランスが重要ということです。料理にたとえれば、塩辛さと甘さのバランスといったところでしょうか。もちろん私たちはさまざまな状況を考慮に入れてこの“味付け”を決めてきましたが、最終的なことは実戦が始まってみるまでは分かりません。その部分が、いまひとつはっきり見通せないというのが正直なところです。

 とはいえ、これまで行ってきたテストの結果を見る限り、昨シーズンの序盤戦のように私たちがライバル2メーカーに大きく遅れてしまう展開にはならないと断言できます。まずは3メーカーが拮抗した戦いを繰り広げられる。そのうえで、Hondaがリードできるポジションにいるかどうかは、フタを開けてみるまでは分かりません。

 冒頭にも申し上げた通り、開幕戦は4月4〜5日に岡山国際サーキットで開催されます。4月に入ったとはいえ、まだまだ天候は不安定でしょう。過去には、平年よりひどく寒かったり、反対に思いがけず暖かいこともありました。このようなコンディションの変化もレース結果を左右するファクターとなります。いずれにしても、私たちは創業当時からの原点であるチャレンジングスピリットに立ち返り、タイトルの獲得を最大の目標としてシリーズに挑みます。今年も5台のNSX CONCEPT‐GTに変わらぬご声援をお送りくださいますよう、心からお願い申し上げます。