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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.107 Rd.6 SUGO レビュー #100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTが今季初優勝! 山本選手と伊沢選手はランキング2番手に浮上

 第6戦菅生大会で#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)が念願の今季初優勝を果たしました。予選を2番手で終えた彼らは、ポールポジションからスタートしたライバルを追走する形で前半戦を終えると、ピットストップ後に一段とペースを上げてライバルを攻略。以降は1度も首位の座を譲ることなく81周のレースを走りきって1位の座を手に入れました。

 今回の勝因は、第5戦鈴鹿大会で5位に入ったことで#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの獲得ポイントが29点となり、第6戦菅生大会でのハンディウエイトが58kgとなったことと深い関係があります。この結果、ルールにしたがって50kg分は燃料リストリクターを絞ることに置き換えられ、実質的には8kgのハンディウエイトを搭載するのみでスポーツランドSUGOでの一戦に臨むことができたのです。つまり、マシンに積まれたハンディウエイトのみに着目すれば、それまでの42kgから8kgへと、実に34kgも軽くなったことになります。もちろん、その分エンジンパワーは絞られたわけですが、これまでライバルたちより57kg重い状態で戦ってきたNSX CONCEPT-GTにとっては、極めて大きな効果があったといえるでしょう。

 一方、今回から新エンジンを投入したことも#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの優勝を後押しする形となりました。SUPER GTでは1チームあたり年間3基のエンジンまで使用することが許されています。#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは、エンジン・ローテーションの都合上、新開発のエンジンを搭載して菅生大会に挑みました。このエンジンは従来型を上回るパフォーマンスを発揮するもので、これが燃料リストリクターによるパワーダウンを補い、今回の優勝に貢献したものと考えています。

 前述のとおり、ピットストップ後にペースアップを果たし、ライバルを追い抜いてトップに立ったわけですが、ここではピットストップの際に装着したハードコンパウンドのタイヤが効果を発揮してくれました。前日の予選は気温が26℃までしか上がらなかったためにミディアムコンパウンドで挑み、決勝でも規定に従って同じタイヤでスタートを切りましたが、この日はコース上のゴムかすがタイヤの表面に付着するピックアップという症状が発生。これが原因でレース前半を受け持った山本選手はグリップ不足に苦しめられることになりました。

山本選手から無線を通じてこの情報がもたらされていたため、チームはピットストップに際してハードコンパウンドを用意。これを装着したところ、伊沢選手に交代してからはピックアップの症状に悩まされることもなく首位に立つと、そのままトップでチェッカーを受けることができたのです。

今回、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTはマシンの仕上がりもよく、またチームも2人のドライバーもいっさいミスなく300kmのレースを走りきってくれました。特に、レース前半のセーフティカーランに伴ってピットレーンが大混乱に陥ったときも、彼らが冷静に対処してくれたことで勝利をたぐり寄せることができたといえるでしょう。

この混乱は、26周目にGT500車両の1台がバックストレートでアクシデントに遇い、大きくダメージを負ったままコースのほぼ中央に停まったことをきっかけに起きました。この状況を受けて審査委員会は即座にセーフティカーを送り出すと、それまでの順位に応じて各マシンを整列し直す手続きを実施しました。しかし、この間はピットレーンが閉鎖され、ピットストップはいっさいできなくなります。

整列作業が完了して30周目にピットレーンがオープンになっても、まだアクシデントを起こしたマシンの回収作業が完了していなかったため、セーフティカーランは継続されました。このため、ここでルーチンのピット作業を行えばタイムロスを最小限に食い止められることになります。そこでピットレーンがオープンになった直後、1台の例外を除いたGT500車両の全車とGT300車両の大半がピットストップを敢行しました。しかし、スポーツランドSUGOのピットレーンには残念ながらこれだけ多くの車両が十分な間隔を持って一度に作業できるだけのスペースはありません。ピットストップでの停止時間がそのままコース上での順位を決めることになるため、各チームのメカニックは折り重なるように必死の形相で作業を行いました。この結果、ピットストップ中の作業違反やピットレーンの通行に関する規則に抵触するチームが続出、これがレース後にも尾を引き、レース結果が何度も改訂される事態となりました。

 Honda陣営でも、#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ)がピットレーンの流れを妨げたとして37秒のタイム加算を受け、6番手でチェッカーを受けたものの7位となりました。また、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)はセーフティカーラン中に追い越しをしたとして同じく37秒のタイムが加算されましたが、結果的に順位の変動はなく、フィニッシュした際の順位と同じ8位とされました。

 一方、予選で3番グリッドを得た#64 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は、スタート直後に#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTと競り合っている際、勢いよくグリーン上に飛び出し、この影響でサスペンションにダメージを負ってリタイアに終わりました。

 シーズン中盤に向けて徐々に戦闘力を高めてきた#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)は、10番グリッドからスタートした後、エンジン補機類のトラブルによりリタイアに追い込まれました。

 この結果、チャンピオン争いのドライバー部門では山本選手と伊沢選手がトップに2点差と迫る2番手に浮上。残り2連戦でタイトル奪還に挑みます。タイトル奪還に向けての戦略については、次回のオートポリス・プレビュー篇で述べることにします。今後とも5台のNSX CONCEPT-GTに熱い声援をお送りください。