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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.104 Rd.5 鈴鹿プレビュー シーズン中盤の天王山、鈴鹿1000kmに挑む レース戦略が勝敗の鍵を握る

8月30日(日)に迎える第5戦は、鈴鹿サーキットを舞台とする伝統の一戦、鈴鹿1000kmです。このレースはHondaにとっても、またシーズン終盤の展開を考えても、非常に重要な戦いとなります。まずはその理由をご説明しましょう。

ご存じの通り、低速コーナーから中高速コーナーまでがリズミカルに続く鈴鹿サーキットでは、なによりもマシンのコーナリング性能が大きくものを言います。その点では、高いコーナリング性能を有しているNSX CONCEPT-GTはライバル勢よりも有利で、鈴鹿ではいつも以上の好成績が収められると期待しています。これが先の理由の第1です。

また、なんといっても鈴鹿サーキットはHondaのホームコースです。観客の皆さまも、きっとそういった期待を抱き、NSX CONCEPT-GTにとりわけ熱心な声援を送ってくださることでしょう。そのようなファンの皆さまの気持ちにお応えするためにも、ここでは是が非でも好成績を収めたいところです。

もう一つ重要なのが、第5戦鈴鹿でのポイント配分です。SUPER GTでは、通常1位から10位までの入賞者に20〜1点が配分されますが、鈴鹿1000kmはレース距離が長いため、これに加えて1位から5位までに5〜1点のボーナスポイントが与えられます。つまり、大量ポイントを獲得する大きなチャンスであり、この点からも第5戦鈴鹿は重要であると位置づけられるのです。

続いて、Hondaとして、今年の鈴鹿1000kmをどう戦っていくかについてご説明しましょう。

前回の現場レポートでもお知らせした通り、第4戦富士大会では通算獲得ポイントを25点以上とし、ハンディウエイトが50kgを上回るようにすることが1つの目標でした。より多くのポイントを獲得しようとするのはいつも変わらない当然の姿勢ですが、ハンディウエイトを50kg以上とすることには、特に大きな意味があったからです。

こちらも前回ご説明した通り、SUPER GTのGT500クラスではハンディウエイトが50kgを超えると、安全上の理由から50kg分が燃料リストリクターの絞り込みに置き換えられ、本来のハンディウエイトからこの50kg分を差し引くという規則が設けられています。つまり、供給する燃料の量を絞り込んでエンジンのパワーを低下させることで、50kg分のハンディウエイトを積むのと同等の効果を得ようとしているのです。

これは安全性の面からいって非常に好ましい規則ですが、ハンディウエイトを50kg積むのと燃料リストリクターを絞り込むのとでは、当然のことながらその効果の現れ方に違いがでてきます。例えば、獲得ポイントが24点で48kgのハンディウエイトを積むチームと、26点で52kg(実際には燃料リストリクターの絞り込み+2kg)のチームがあったとしましょう。1台で1周だけ走るのであれば、ラップタイムはどちらも同じ程度になると考えられます。しかし、決勝レースに目を向ければ、48kgのハンディウエイトを積んでいるチームは、もう一方のチームより46kgも重い状態で走り続けることになり、タイヤやブレーキの摩耗は格段に早く進行することが予想されます。しかも、ハンディウエイトを2kgしか積んでいないチームは燃料リストリクターが絞り込まれているために燃費が良好(その分、エンジンパワーは殺されているのですが……)となり、ピットストップ時の給油時間を短縮することが可能となります。

繰り返しになりますが、燃料リストリクターを絞り込めばエンジンパワーは低下し、加速やストレートスピードが伸び悩むことになります。しかし、GT500クラスの車両はGT300クラスを追い越しながら周回を重ねるので、パフォーマンスを常に最大限発揮できるとは限りません。もちろん、燃料リストリクターを絞られていなければGT300クラスを素早く追い抜けるというメリットはありますが、タイヤの摩耗や燃費のことなどを総合的に考えると、燃料リストリクターを絞り、実際に搭載するハンディウエイトを減らしたほうが有利とも考えられるのです。第4戦富士大会で25点以上を獲得したかったと申し上げた最大の理由は、ここにありました。

ところが、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)は22、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)は21と、ある意味でワーストケースに近い状態で第5戦に臨むことになりました。では、どう戦えばいいのでしょうか?

当初の目論見が外れたわけですから、これはもう気持ちを切り替えて自分たちの強みがどこにあるかを見つめ、戦略を立て直す以外に方法はありません。具体的に申し上げれば、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTと#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTはハンディウエイトが重くてもエンジンパワーは比較的大きいので、このパワー面でのアドバンテージを最大限活かす戦略でレースに臨むことになります。

鈴鹿1000kmは3ストップ4スティントで走りきるのが、ピットストップにともなうロスタイムを短くできるので、最も効率的な戦い方であるというのが定石です。しかし、そのためには燃費やタイヤの消耗をセーブさせなければいけません。言い換えれば、レース中のペースはやや遅めとなるわけです。

反対に、ハンディウエイトが重くて燃料リストリクターを絞り込まれていない私たちは、レース中のペースを高めに設定したほうが有利になるかもしれません。この結果、タイヤの消耗や燃料の消費が速まり、3ストップ=4スティントで1000kmを走りきれない可能性も考えられますが、その場合は発想を転換し、4ストップ=5スティントとしてライバルたちより速いラップタイムを刻み、これに伴うロスタイムを取り返す戦略でレースに挑むべきでしょう。

いずれにしても、ペースを抑えて4スティントで戦うか、ペースを上げて5スティントで戦うかは、レースウイークのプラクティスや予選の結果を分析した上で判断することになります。その意味から、決勝前の準備がいつも以上に重要な一戦となります。

第5戦鈴鹿で大量得点を獲得し、終盤戦に向けて弾みをつけるつもりです。レースが行われる8月29(土)〜30日(日)は夏休み最後の週末でもあるので、ご家族やお友達と連れ添って鈴鹿サーキットにお越しいただき、5台のNSX CONCEPT-GTに熱いご声援をお送りください。どうぞよろしくお願い申し上げます。