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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.103 Rd.4 富士レビュー なぜ#8 ARTA NSX CONCEPT-GTはフロントローを獲得できたのか?3台のNSX CONCEPT‐GTが入賞した第4戦富士大会の成果と今後の課題

 第4戦富士大会の予選で#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(松浦孝亮/野尻智紀組)が2番手となり、フロントローから決勝レースに臨みました。ここのところ上位入賞から遠ざかっていた彼らが、いかにしてここまでばん回できたかについて、今回はまずご説明しましょう。

 本大会に先立ち、SUPER GTの公式テストがスポーツランドSUGOで実施されました。もちろん5台のNSX CONCEPT-GTはそろって参加しましたが、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTのペースがなかなか上がりません。いろいろとセッティングを変更してもその効果がないため、一度は走行を打ち切ることを考えたほどでした。

 このあまりに予想外の事態に、マシンをすべて分解し、各パーツに問題がないかどうかチェックすることにしました。とても手間のかかる作業ですが、このままでは状況の改善が見込めないことから下した、苦渋の決断です。

 しかし、結果的にこれが大きな進歩をもたらすことになります。徹底的にパーツを調査した結果、ギアボックスなどボディ剛性を左右するコンポーネンツの一部にダメージが及んでいることが明らかになったのです。早速、これらの補修を行った上でマシンを組み直し、富士大会に臨みました。すると、セッティングの変更に対して、これまでとは見違えるほど的確な反応を示すようになったのです。これが、富士大会で彼らが躍進する大きな原動力となりました。

 さらに、前回のプレビューでご紹介した富士スピードウェイに焦点をあてたシミュレーションも大きな成果を挙げていました。5月に行われた第2戦富士大会の際、NSX CONCEPT-GTはストレートで速かったもののコーナーが続く第3セクターでは思うようにペースを上げられず、これがHonda勢の不振の一因となったことはすでにご説明した通りです。しかし、ストレートスピードと第3セクターにおけるパフォーマンスのバランスを最適化するシミュレーションを繰り返し行った結果、ストレートスピードをほとんど損なうことなく第3セクターの区間タイムを短縮するセッティングを見つけ出すことができたのです。

 マシンが本来の実力を発揮すれば、松浦孝亮選手と野尻智紀選手の2人がトップクラスの速さを示してくれることも、今回得られた大きな成果の一つだったといえます。もちろん、ハンディウエイトが16kgと比較的軽かったことが#8 ARTA NSX CONCEPT-GTの躍進を助けたのは事実ですが、それを差し引いても予選2番手は立派な成績です。私たちは決勝レースでの上位入賞に大きな期待をかけて、この日サーキットを後にしました。

 けれども、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTは予選での速さを決勝レースでの結果に結びつけることができませんでした。反省点はいくつかあります。彼らは、トップを走行中の32周目にピットストップを行います。その3.9秒後方には、このレースで優勝することになるライバル勢の1台がつけていました。ところが、ピット作業を終えてコースに復帰した33周目におけるポジションは12番手。一方、前述のライバルは7番手で33周目を走り終えています。彼らがコースに復帰したのがライバルが密集して走行している場所で、わずかなタイム差が大きな順位の違いとなって表れたことは事実でしょうが、だからこそ、わずか数秒もおろそかにすることができないとも言えます。事実、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTのピット作業はライバル勢に比べて2〜3秒ほど遅かったほか、ピットストップ直後にあたるアウトラップのペースが思いのほか伸び悩んだことが、後退を招く要因となりました。詳細についてはさらに分析を行う必要がありますが、こうした小さなことの積み重ねが極めて重要であることを、今回のレースは改めて教えてくれたように思います。

 12番手でレースを再開した#8 ARTA NSX CONCEPT-GTは、44周目を走行中に左リアタイヤがパンクしてスローダウンを強いられ、結果的にピットに戻れないままコース脇でリタイアに終わりました。原因はGT300クラス車両との接触で、ダメージはサスペンションにも及んでいました。実は、レース前半の19周目にもGT300クラス車両と接触していました。複数のマシンがレーシングスピードで走行していれば時にはアクシデントも起こるでしょうし、相手があって初めて起きる接触事故の責任を、一方だけに求めるのは無理がある場合もあります。けれども、勝利を目指してレースに挑む私たちにとってアクシデントは禁物です。実際、このレースを制したライバルのマシンは、あれほどの激戦を走り抜いたにもかかわらず、実にきれいな状態のままフィニッシュしています。今回のレースでは、こうした細心の注意が、栄冠を勝ち取る上で極めて重要であることも再認識することになりました。

 #8 ARTA NSX CONCEPT-GTがリタイアに終わったのは残念でしたが、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/伊沢拓也組)は5位、#15 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/オリバー・ターベイ組)は6位、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/武藤英紀組)は8位でフィニッシュした結果、3台のNSX CONCEPT-GTが入賞を果たすことになりました。今シーズンはレース中にアクシデントに見舞われる事態が頻発し、開幕戦を除けば3台が入賞することはこれまでありませんでした。しかし、自分たちがポイントを獲得しなければ、そこで取り損なったポイントは当然ライバル勢のものとなり、チャンピオン争い上は自分たちが不利な立場に追い込まれます。その意味からも、3台が入賞できた今回のレースは一定の成果があったといえます。

 もっとも、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTと#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの2台についていえば、今回のレースではさらに多くのポイントを獲得することでハンディウエイトの軽減を狙っていました。これは、ハンディウエイトが50kgを超えた場合、安全上の理由から50kg分を燃料リストリクターの絞り込みに置き換え、本来のハンディウエイトからこの50kg分を差し引くことができるという規則に基づくものです。ところが、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTと#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの第4戦富士大会終了時点での獲得ポイントは22点と21点。このため第5戦鈴鹿大会には44kgと42kgのハンディウエイトで臨むことになります。これがどうして不利に作用するかという理由については、次回の鈴鹿プレビュー篇でご説明します。