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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.93 Rd.7 タイ・レビュー 初開催サーキットゆえの試練 #18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTが5位入賞を果たす

チャーン・インターナショナル・サーキットで開催されたSUPER GT 第7戦タイ大会では、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)が5位入賞を果たして最終戦にタイトル獲得の望みをつないだほか、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)も8位に滑り込んで3点を手に入れました。したがって、最低限の課題はクリアできたと考えていますが、現在の心持ちは“満足”という言葉とは正反対のところにあります。

その最大の理由は、予選で上位グリッドを獲得した2台のNSXに次々と不運が襲いかかり、2台そろってリタイヤに追い込まれた点にあります。

たとえば、4番グリッドからスタートした#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)は、このときランキングトップだったライバルと丁々発止のバトルを繰り返した末にこれを攻略、レースの折り返し地点を迎えたときには2番手に浮上していました。ところが、間もなくピットストップというときになってタイヤがバーストしてリアカウルが破損し、これが原因でリタイアに追い込まれたのです。

タイヤがバーストというと、タイヤそのものになんらかの不具合があったように聞こえるかもしれませんが、実際にはそうではなく、アクシデントにあったマシンの破片がコース上に落ちており、この破片を踏んでしまったことでタイヤがパンク。これで空気圧が低下したためにタイヤの構造が壊れてしまったものです。ただし、タイヤが壊れる過程でその破片がものすごい勢いで飛び散ると、この衝撃でボディカウルを破損させてしまうことがあります。今回、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTに起きたのはまさにこれでした。しかも、タイヤのバーストが原因の場合はカウルが広範囲にわたってダメージを受けるために修復が難しく、リタイアを余儀なくされるケースが少なくありません。第6戦鈴鹿大会で#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)に起きたのと同じ状態と申し上げれば、理解していただけることでしょう。

#8 ARTA NSX CONCEPT-GTに続く5番グリッドを手に入れた#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は、レース序盤にして直後を走っていたライバルと接触。このときタイヤの一部が激しく摩耗するフラットスポットという現象が起きたため、タイヤの偏摩耗が加速し、これが引き金となって#8 ARTA NSX CONCEPT-GTと同じタイヤバーストが発生してしまいます。これで同じくボディカウルが破損した結果、#32 Epson NSX CONCEPT-GTもリタイアを余儀なくされました。

#32 Epson NSX CONCEPT-GTが装着するダンロップ・タイヤは今シーズンに入ってから開発が順調に進行しており、第4戦菅生大会以降は予選で上位に食い込むようになってきましたが、決勝レースでは不運に見舞われることが多く、第5戦富士大会で3位表彰台に上ったのを除けば目立った戦績を挙げていません。その意味からも、今回は残念な結果だったといえるでしょう。

一方、Honda勢で最上位となった#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTは、予選と決勝を通じて不運に見舞われることはありませんでしたが、走り出しの段階で想定外の事態に直面していました。

前回の現場レポートでもお伝えした通り、初めてのサーキットを走行する際には必ずタイヤメーカーが事前に現地を視察し、路面コンディションなどを確認。そこで手に入れたデータをもとに、レースウイークに使用するタイヤを準備することになります。初開催となったチャーン・インターナショナル・サーキットでも当然、この手順を踏み、タイヤメーカーよりもたらされたデータから事前のシミュレーションなどを行いましたが、彼らが視察したときと実際のレースウイークでは路面コンディションが大きく異なっており、おかげでサーキットに持ち込んだセッティングを大幅に変更しなくてはいけなくなったのです。

なぜ、このようなことが起きたかといえば、タイヤメーカーの視察後にサーキット側が路面の凹凸をフラットにする作業を行なったことが原因でした。正式な説明を受けていないので詳細は不明ですが、完成した直後の路面は表面がまるで紙やすりのようにギザギザな状態で、これがタイヤのグリップ力を高めると予想されました。つまり、路面の摩擦係数を示すμ(ミュー)は高いと考えられていたのです。ところが、サーキット側は何らかの事情により、路面にローラーをかけることでこのギザギザを平滑にしたのです。おかげで路面のμが低下してコーナリングスピードが伸び悩み、これを補うためにダウンフォースを増やす方向にセッティングを見直すこととなりました。

これが遠因となり、サーキットのストレート区間での速度が低下し、かわってコーナーが連続するインフィールド区間のタイムが当初の想定よりも大きなウェイトを占めることが判明しました。先ほど「#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTは不運に見舞われなかった」と申し上げましたが、その一方で、レースウイークを迎えてからセッティングの方向性を大きく見直す必要に迫られていたのです。これは#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)にとっても同じことで、このため新たなセッティングをいち早く見つけられたチームは上位に浮上し、そうでないチームは下位に沈み込む結果となりました。

こうして#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTは5位、そして#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは8位でチェッカードフラッグを受けることとなったのです。なお、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTは決勝中にブレーキフルード漏れが発生し、これを修復してからコースに復帰したため、残念ながら今回は12位に終わりました。

この結果、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTの山本選手はチャンピオン争いのドライバー部門でトップと14点差の6番手となり、最終戦での逆転タイトル獲得に望みをつないでいます。もちろん、決して楽な展開ではありませんが、最終戦となるもてぎ大会には、タイトル奪還とHondaとしての今シーズン2勝目を最大の目標として挑むつもりです。引き続き5台のNSX CONCEPT-GTに熱い声援をお送りくださいますよう、心からお願い申し上げます。