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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.91 Rd.6 “1000km”の難しさを痛感 #18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT が3位表彰台を獲得

SUPER GT第6戦は、鈴鹿1000kmの名で知られる伝統の一戦となります。1周5.807kmの鈴鹿サーキットを173周走る長丁場のレースは、「速いクルマ」さえあれば勝てるほど生やさしいレースでないことは十分に理解していましたが、シーズン前半に苦戦を強いられたHondaはチャンピオン争いで追い上げる立場におり、今後の戦いを考えると是非ともここで栄冠を手に入れたいと考えていました。だからこそ、優勝が望める速さのマシンを用意した上で、勝つために必要なレース戦略を練り上げるなど、万全の準備を整えてこの一戦に挑んだのです。ところが、5台のNSX CONCEPT-GTに予期せぬアクシデントやトラブルが次々と襲いかかり、すべて順調に走りきったマシンは1台もないという状況に追い込まれました。

そうした苦境を乗り越えて、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)が3位表彰台を獲得してくれたことはなによりの朗報ですが、それにしても今回は「1000kmは難しい」という感慨を新たにしたレースとなりました。

たとえば、鈴鹿合同テストから好調であった#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)は、こんな週末を過ごしています。土曜日の公式練習を7番手で終えてから臨んだ公式予選では、武藤選手が6番手のタイムを記録してQ1を突破。そして、小暮選手のドライブで挑んだQ2では、途中の区間タイムでトップになること間違いなしの速さを示しておきながら、コース終盤の130Rでコースアウトを喫し、8番グリッドからのスタートを余儀なくされました。

しかし、これだけの速さがあれば、1000kmの長丁場できっとばん回できる。そう思って臨んだ決勝レースでは、なんとオープニングラップで接触事故に巻き込まれてコースアウト。しかも、リアカウルが破損していたためにピットストップを行った結果、レース序盤にして周回遅れとなりました。それにもかかわらず、結果的に6位まで追い上げてフィニッシュ。優勝する力があったという意味では、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)も全く同様です。彼らは予選で2番グリッドを獲得すると、決勝ではライバルの1台と首位争いを演じつつ、再三トップに立っていました。ところが、残念ながら86周目に塚越選手が130Rでコースアウト。幸い塚越選手は無事だったものの、マシンに深刻なダメージを負い、リタイアに追い込まれました。

天性ともいえる速さに加え、最近は抜群の安定感も見せるようになった塚越選手がコースアウトをするとは、全く予想もしなかったことです。いずれにせよ、「こういうところに1000kmの怖さは潜んでいる」と思わずにはいられない出来事でした。

ここのところマシンの仕上がりが順調で、予選で5番手に食い込んだ#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)も十分に表彰台が狙えるレース運びを見せていました。実際、ほとんどの周回で3番手ないし4番手につけており、一時は2番手にも浮上したほどでした。

しかし、彼らも順風満帆だったわけではありません。今回のレースは4ストップ/5スティントで走りきるのがもっとも効率的だと考えられていました。このためには、1回の給油で34〜35周を走行しなければいけないのですが、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTがレース中に記録していた燃費はわずかにこの目標に届かないもので、予定を変更して5ストップ/6スティントでレースを戦わなければならない状況に追い込まれます。しかし、もしも最初から5ストップで戦う計画であれば、スタート時の燃料をやや少なめにしてペースアップを図るでしょうし、これに合わせてドライバーの走り方も変わってきます。けれども、最初は4ストップで走り、途中で5ストップに切り替えるとなると、どうしてもタイムロスが生じてしまいます。それでも、#8 ARTA NSX CONCEPT-GTは引き続き3位表彰台が狙える戦いをしていたのですが、レース後半の117周目にリウッツィ選手がデグナーカーブでコースアウト。すぐに復帰したものの、これで表彰台への望みが絶たれ、4位に終わりました。ベテランのリウッツィ選手らしくないミスでしたが、これも1000kmの怖さというべきでしょう。

ダンロップ・タイヤとのマッチングが急激に進んできた#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は鈴鹿1000kmでの健闘に期待がかかっていましたが、前述した34〜35周を1セットのタイヤで走るとデグラデーションと呼ばれる性能の劣化が進行するため、4ストップ作戦では走りきれないことが判明します。そこでレース前に5ストップ作戦に切り替え、序盤から積極的にペースを上げる戦法で挑みましたが、75周目にピットインしようとしたところ、ライバルの1台に激しく追突されてしまいます。これでマシンにダメージを負ったほか、その8周後にはタイヤがパンク、さらには追突された影響でブレーキ系統にトラブルが発生するなど、まさに御難続きでした。それでも最後まで走りきり、12位完走を果たしたのですから、その粘り強い戦い振りは賞賛されていいでしょう。

今回、Honda勢で最上位となったのは、3位表彰台を得た#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)でした。しかし、彼らも決して順調だったわけではありません。最初のスティントで、スローパンクチャーが発生し、予定外のピットストップをすることになりました。また、予想に反してタイヤにかかる負荷が大きすぎたのか、#32 Epson NSX CONCEPT-GTと同じようにタイヤの状態が厳しく結果的に5回のピットストップを強いられたのです。他のNSX CONCEPT-GTに比べれば、その傷口は浅かったとも言えますが、それにしても、予期せぬ事態となったことは変わりありません。

#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTの3位は立派な成績です。とはいえ、優勝を狙っていた私たちにとってはやや物足りなさの残る結果でした。また、チャンピオン争いではライバルとの差を縮めることを目標としていましたが、今回トップに立ったポイントリーダーにはかえってその差を広げられることとなりました。

とはいえ、残り2レースでトップとの差は13点。決して楽な展開ではありませんが、逆転が不可能な状況でもありません。続く第7戦タイと第8戦もてぎで逆転チャンピオンを勝ち取るべく全力で戦っていきますので、どうか今後も5台のNSX CONCEPT-GTに熱い声援を送ってくださいますよう、お願い申し上げます。