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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.90 Rd.6 鈴鹿プレビュー チャンピオンシップの天王山 ホームコース“鈴鹿”の1000kmレースに挑むNSX CONCEPT-GT

SUPER GTの第6戦はシリーズ最長のレース距離で競われる鈴鹿1000kmとなります。この鈴鹿を舞台にした公式テストが6月27〜28日に行われました。

その結果を簡単に紹介すると、初日は1分49秒282をマークした#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)がトップ。2日目は首位こそレクサスの1台に奪われましたが、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)が彼らと0.6秒差の1分49秒981で2番手につけました。いずれにしても、NSX CONCEPT‐GTが鈴鹿でもトップクラスの速さを持っていることがこれで証明されたと考えています。

なぜ、NSX CONCEPT‐GTは鈴鹿で速いのでしょうか? その理由は、私たちが鈴鹿をホームコースとしてNSX CONCEPT-GTの開発を進めてきたことにあります。さらに言えば、NSX CONCEPT‐GTは「S字コーナーで速い」とか「130Rのコーナリングスピードが高い」とかいうように、コースの一部で速いだけではありません。鈴鹿サーキットのコース全体で、バランスよくタイムを稼いでいるのです。だから「NSX CONCEPT-GTは鈴鹿サーキットと相性がいい」と言い換えてもいいでしょう。

一方、第4戦菅生大会まで私たちを苦しめてきた熱害に関していえば、今回のテストが35℃近い猛暑の中で行われたので、こちらも心配ないと考えています。もっとも、テストはあくまでもテストです。また、第4戦菅生大会と第5戦富士大会はいずれもウエットレースとなり、このため決勝でも気温はあまり上がりませんでした。その意味では、まだ実戦の場で確認ができていないとも言えますが、これまでのデータを見る限り、まず問題は起こらないでしょう。

それよりも心配なのは耐久性です。いえ、マシンのどこかに具体的な不安があるというわけではありません。しかし、NSX CONCEPT-GTを1000km連続で走らせたことは一度もなく、その意味では耐久性に絶対の自信があるとは言いきれません。これは、ライバルの2メーカーにとっても同じことです。それどころか、今年からGT500クラス・マシンはご存じのようにドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)の車両と基本的に同一のコンポーネントを用いて作られていますが、DTM自体はスプリントレースで、1000kmの長丁場を走ったことがありません。つまり、SUPER GTだけでなくDTMにとっても1000kmレースは未体験ゾーンなのです。それだけに、なにが起きるかはだれにも予想できないといえます。

もう一つ、予想が難しいファクターとしてピットストップが挙げられます。今回は決勝レース中に最低4回のピットストップを行うことが義務づけられています。それらのピット作業をすべて完ぺきにこなすとともに、給油やペース配分を含めたレース戦略、そしてタイヤチョイスやその使い方などの面でも常に的確な判断が求められることになります。そういった部分をいかにミスなくこなすかが、最終的な成績に大きく関わってくるでしょう。

一方、コースコンディションなどを総合的に勘案すると、今回のテストでは#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTの速さがやや抜きん出ていました。ただし、このときは100号車のみが現行仕様のエンジンを搭載しており、それ以外は第3戦オートポリスまで用いていたのと同じ旧仕様のエンジンを積んでいたので、この点では100号車に分がありました。裏を返せば、ほかのNSX CONCEPT-GTにも100号車と同等のスピードを手に入れる可能性があるといえます。

では、5台のNSX CONCEPT-GTについて、それぞれ鈴鹿での戦いぶりを予想してみることにしましょう。

公式テストで好タイムをマークした#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTと#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは、レースウイークでも間違いなく速さを発揮してくれるはずです。不測のトラブルに見舞われることなく、レース戦略にもミスがなければ、間違いなく優勝争いに絡んでくるでしょう。まずはこの2台の活躍に注目していただきたいと思います。

第5戦富士大会で優勝した#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)はマシンの仕上がりも順調なので、鈴鹿でも十分優勝が狙えます。唯一心配なのは、彼らがNSX CONCEPT-GTとして最も重い68kgのハンディウェイトを搭載する点にあります。ただし、このうち50kg分は燃料リストリクターのサイズ縮小に振り替えられるので、ハンドリング面に与える影響は実質的に18kg分に留まると考えられます。これは、実際に68kgのウェイトを積むよりも、鈴鹿では有利になる可能性があります。

第5戦富士大会では結果に結びつけられませんでしたが、#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)もマシンの仕上がりは良好です。また、彼らはハンディウェイトが8kgと軽いことも追い風になってくれるでしょう。ARTAは2010年に鈴鹿1000kmを制しているので、4年ぶりの栄冠奪回を期待したいところです。

#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は3位表彰台を獲得した第5戦富士大会に続き、第6戦鈴鹿大会でも上位入賞が望めそうです。これまではどちらかといえば、タイヤとのマッチングにより雨のレースを得意としてきましたが、使用するダンロップ・タイヤのパフォーマンスが急速に向上しているため、ドライでも好成績が期待できるとの感触をつかんでいます。

チャンピオンシップ争いのことを考えると、ここ鈴鹿で高得点を獲得することが非常に重要となります。その意味では、5台のNSX CONCEPT-GTすべてに上位入賞のチャンスがあることは実に心強い状況だといえます。どうか、夏休み最後の週末に鈴鹿サーキットを訪れ、5台のNSX CONCEPT-GTに熱い声援を送ってくださいますよう、心からお願い申し上げます。