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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.89 Rd.5 富士レビュー NSX CONCEPT-GTが雨の富士で圧倒的なスピードを見せつける 勝敗を分けたタイヤと路面コンディションの関係

第5戦富士大会で待望のNSX CONCEPT-GT初優勝をようやく果たすことができました。ここまでNSX CONCEPT-GTのパフォーマンス向上に尽くしてくれたチーム関係者、ドライバー、タイヤメーカー、マシンの開発と製作に関わったすべてのスタッフ、そしてなによりも声援を送り続けてくださったファンの皆さんに心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。

前半の4戦を振り返ってみると、開幕戦岡山国際大会では#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTが5位に入ったものの、第3戦オートポリス大会まではこのときの5位がHondaにとっての最上位という屈辱的な状況が続きました。しかし、第4戦菅生大会で熱害対策を実施した途端に#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)が3位に入り、今季初の表彰台を獲得します。そして本大会では、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)が優勝しただけでなく、#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)も3位入賞を果たし、Honda陣営の2チームを表彰台圏内に送り込むことができました。さらに、予選では#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTがポールポジションを勝ち取っています。これだけを見ても、NSX CONCEPT-GTがライバルをしのぐスピードを手に入れたことがわかっていただけると思います。

ところで、今回#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTがポールポジションを獲得できたのは、予選を戦うチームの戦略によるところが大きかったといえます。予選2回目のQ2では全車がスリックタイヤを装着して走行を開始しました。ところが、セッションが始まると、それまで小降りだった雨が次第に雨脚を強めてきたため、ほとんどのチームはマシンをピットインさせてレインタイヤに交換、再度タイムアタックを開始したのです。この結果、彼らはいずれもスリックタイヤで記録したタイムを更新することに成功したのですが、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTだけはスリックタイヤを履いたままコース上に留まり、コンディションの改善を待っていました。そしてセッション終了間際にわずかに雨が小降りになった瞬間を見逃さず、塚越選手は最後のアタックを敢行。これが、レインタイヤでマークしたライバル勢のタイムを上回っていたため、ポールポジションを獲得することができたのです。金石勝智監督の作戦勝ちだったといえるでしょう。

ただし、#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTだけでなく#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTや#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)にも条件さえそろっていればポールポジション獲得のチャンスは十分にありました。ただ、タイミングが彼らに味方しなかっただけと言っても過言ではありません。

決勝日は、台風11号の接近に伴って時折り強い雨が降るあいにくの天候となりました。このため全車がウエットタイヤを装着し、セーフティカーに先導されてスタートを切りましたが、2周を終えたところでセーフティカーは退去し、本格的な競技がスタートします。

#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTを駆る金石選手は順当にトップを守って周回を重ねていきましたが、やがてライバルの1台に、続いて#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTに攻略されてしまいます。#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTがブリヂストン・タイヤを装着する一方で、これを追い抜いた2台がミシュラン・タイヤを履いていたことは偶然ではなかったと思います。これは、どちらのタイヤが優れていたかの話ではありません。このときの路面コンディションでは、ブリヂストンよりミシュランに分があったというだけのことです。事実、前戦の菅生ではブリヂストンのウエットタイヤがミシュランをしのぐパフォーマンスを発揮しました。つまり、どちらが優位に立つかはコンディション次第と言えるのです。

いずれにせよ、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTに乗る山本選手は間もなくトップを走るライバルの攻略にも成功し、首位に浮上します。私は、決勝レースが始まる前、各チームに対して「今日のレースは激しい雨のためにいつレースが中止になってもおかしくない。だから、なるべく早めにポジションを上げていくように」とアドバイスしていました。山本選手はこの言葉をしっかり守ってくれたのだと思います。

結果的にレースは途中の中断を挟みながら予定していた66周を走りきって幕を閉じました。そして序盤でトップに立った#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTが最後まで逃げきって栄冠をつかみ取りました。ただし、2人のドライバーは無闇にペースを上げることなく、ウエットタイヤに無用のダメージを与えないよう、細心の注意を払いながら周回を重ねました。これは、万一レース中に雨が本降りになったときに備え、タイヤを温存すべきという判断を2人のドライバーが忠実に守ってくれたことを示すものです。山本選手とマコヴィッキィ選手は、ミス一つなく、本当にすばらしい戦い振りをみせてくれたと思います。まさに会心の勝利と言えるでしょう。

一方、11番グリッドからスタートした#32 Epson NSX CONCEPT-GTは、当初装着していた深溝のウエットタイヤがコンディションにマッチせず、次第にポジションを落としていたことから早めにピットストップを行い、中嶋選手からバゲット選手への交代、給油、そして浅溝のウエットタイヤへの交換を済ませ、残り40周以上を一気に走りきる作戦を採りました。結果的にこの戦略は大成功で、バゲット選手は途中ファステストラップを記録しながら追い上げていき、ついには3位表彰台を獲得したのです。

これまで#32 Epson NSX CONCEPT-GTは装着するダンロップ・タイヤを路面コンディションとうまくマッチさせることができず、苦戦が続いていましたが、ここにきてダンロップ・タイヤの開発が急激に進み、ウエット、ドライを問わず、ライバルメーカーに優るとも劣らない戦いができるようになってきました。また、今回のように40周を走ってもパフォーマンスの低下がほとんど見られない優れた耐久性がダンロップ・タイヤの強みでもあります。これをうまく活用できれば、1000kmで競われる次戦鈴鹿大会でも上位入賞が期待できるでしょう。

一方、ブリヂストン・タイヤを装着する#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTは、彼らとは対照的に路面コンディションとタイヤがマッチせず、ポールポジションのスタートながら4位でフィニッシュすることになりました。とはいえ、これはブリヂストン・ユーザーとしての最高位にあたります。このことは、とりもなおさずNSX CONCEPT-GTの優秀性を示すものといえるでしょう。

#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは小暮選手が担当する前半のスティントを長めにする戦略が裏目に出て7位に終わりました。タイヤのパフォーマンスが低下する前の、もう少し早めのタイミングでピットストップを行っていたら、さらに上位が狙えたかもしれません。この点はとても残念でした。

予選で3番グリッドを勝ち取った#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)は、レースがスタートして8周目前後までは上位に踏みとどまっていましたが、その後、ずるずるとポジションを落とす展開になりました。さらにピットストップでは発進に手間取るなどして10位に終わりました。こちらも残念な結果だったというしかありません。

とはいえ、NSX CONCEPT-GTがようやく優勝争いに食い込めるようになったことには深い満足感を覚えています。長い冬が明けて、ようやく春が訪れたような心持ちといえばいいでしょうか。もちろん、この結果に甘んずることなく、残る3戦にも全力で挑んでいきますので、引き続き5台のNSX CONCEPT-GTに熱いご声援をお送りくださいますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。