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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.88 Rd.5 富士プレビュー チャンピオン争いに踏みとどまるための正念場 猛暑の戦いに挑む5台のNSX CONCEPT‐GT

2014年SUPER GTの第5戦は富士スピードウェイが舞台となります。これまで富士では春と秋に1戦ずつ開催されてきましたが、今年のカレンダーでは秋の開催が例年より1ヶ月ほど早い8月上旬となりました。私たちは、この第5戦富士大会、そしてシリーズ戦随一のレース距離を誇る第6戦の鈴鹿1000kmの2レースが、今シーズンのチャンピオン争いを考える上で極めて大切な意味を持っていると考えています。その理由を、順にご説明することにしましょう。

Hondaは第4戦菅生大会でNSX CONCEPT-GTの冷却系を強化する改良を実施しました。これまではエンジンルーム内の温度が極端に高くなり、このためエンジンの本来のパフォーマンスを発揮できなかったほか、これらがさまざまなトラブルを引き起こす原因となり、第3戦オートポリス大会までは思うような成績を収めることができませんでした。この結果、ポイントランキングではHonda最上位の#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)でさえトップと33点差の8位となっています。今シーズン、残るは4戦。このため、次の第5戦富士大会と第6戦鈴鹿大会で大量得点を挙げ、ライバル勢とのポイント差を詰めておかなければ、終盤戦での逆転は困難になります。その意味からも、第5戦富士大会と第6戦鈴鹿大会は、Hondaにとって極めて重要なレースであると位置づけています。

もう一つ大切なポイントは、第5戦富士大会の開催時期にあります。言うまでもなく、8月上旬といえば一年で一番暑い時期に当たります。いくら第4戦菅生大会で冷却系の強化を行った結果、熱害に関連するトラブルが出なかったといっても、あのときは雨が降ったために気温は22℃ほどまでしか上がりませんでした。つまり、改良を施したNSX CONCEPT-GTで猛暑のレースを戦ったことはまだないのです。もちろん、シミュレーションを実施し、30℃を超す環境で連続走行をしても問題が起きないことを確認していますが、現実のレースではなにが起こるか分かりません。したがって、NSX CONCEPT-GTに施した熱害対策が本当に有効なのかどうかは、第5戦富士大会を経験するまで分からないのです。

その3週間後の8月30〜31日に開催される鈴鹿1000kmは、レース距離が長いため通常のポイントのほか1〜5点のボーナスポイントが加算されます。つまり、追い上げを図る上では絶好のチャンスとなるのです。とはいえ、繰り返しになりますが、第6戦鈴鹿大会で上位を狙えるかどうかは、第5戦富士大会の結果次第となります。そこで、私たちは今、この戦いに向けて全力を挙げて準備を進めているところです。

では、富士スピードウェイではどのような戦いが繰り広げられるのでしょうか? 昨年までHondaが走らせていたHSV-010 GTは、ダウンフォースが大きめのエアロダイナミクスとしていたために空気抵抗も比較的大きく、富士の長いストレートではスピードが伸びにくいという傾向がありました。これは最終年度の昨年までにかなり改善されましたが、いずれにしても、これらのことがあったので「Hondaは富士が苦手」という先入観を持っている方は少なくないと思います。

しかしながら、これまでのデータを見る限り、NSX CONCEPT-GTが富士のストレートでライバル勢に後れを取ることはないと考えています。確かに、同じ富士スピードウェイで開催された今年の第2戦では惨敗を喫しましたが、あれは熱害によるトラブルの発生や、本来のパフォーマンスを発揮できなかったことが問題であり、NSX CONCEPT-GTのストレートスピードが遅かったことを示すものではありません。

さらに、ポイントランキングのトップ5はハンディウエイトが50kgを超えており、彼らはこのうちの50kg分の燃料リストリクター径が縮小されます。こうなると当然のことながらエンジンパワーが絞られ、ストレートでのスピードの伸びは鈍るはずです。このことは、追い上げる立場にあるHondaにとって有利な状況と言えます。

チームごとの戦闘力に目を向けると、第4戦菅生大会で3位に入った#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GTが好調なことは言うまでもありませんが、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)と#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)も彼らに匹敵するパフォーマンスを有しています。さらに、今年は#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)の仕上がりがいいので、第5戦富士大会でもNSX CONCEPT-GTが表彰台を勝ち取ってくれるものと期待しています。

お盆直前で日本中が混雑する時期ではありますが、どうかご家族やご友人とお誘い合わせの上、富士スピードウェイに足をお運びください。そして、5台のNSX CONCEPT-GTへ、猛暑に負けない熱い声援を送っていただきますよう、心からお願い申し上げます。