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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.86 Rd.4 菅生 プレビュー 今シーズン最大の進化を目指す 目標はNSX CONCEPT‐GT初の表彰台

第3戦オートポリス大会からおよそ2ヶ月のインターバルを挟み、7月19〜20日には宮城県村田町のスポーツランドSUGOでSUPER GT第4戦が開催されます。

緑豊かな丘陵地帯に作られたスポーツランドSUGOのインターナショナルレーシングコースは、全長3.704kmと比較的コンパクトなサーキットですが、高低差を生かしたダイナミックなコースレイアウトや、ラップタイムに大きな影響を与える超高速の最終コーナーなどを特徴としています。つまり、全長は短くても攻めがいのあるサーキットと言えるでしょう。しかも、ここは小さく曲がり込むコーナーも少なくないので、コーナリングスピードでいえば低速から高速まで多岐にわたっているほか、メインストレートとバックストレッチという2本の長い直線があるためにストレートスピードの伸びもおろそかにできません。いわば、マシンの総合力が試されるサーキットがスポーツランドSUGOなのです。

今年の第4戦菅生大会を戦う上で、いくつかポイントになることがあります。ひとつは、前戦オートポリス大会に続いてローダウンフォース・セッティングが義務づけられること。これが安全性の向上を目的としていることは前回もご説明しましたが、本来、富士スピードウェイを戦うために開発されたローダウンフォース・セッティングで、本質的にはハイダウンフォースが必要となるスポーツランドSUGOを戦うことには、当然のことながらさまざまな困難がつきまといます。

実は、ローダウンフォース・セッティングといっても、通常のセッティングとのダウンフォースの違いは10%程度しかありません。けれども、ダウンフォースが10%少ない状態で走行すれば高速コーナーにおける微妙なマシンのスライドが増え、タイヤの負担は確実に増えます。そうでなくとも、7月下旬の開催となれば、いくら東北でも気温が上がり、強い日差しは路面温度の上昇を促します。つまり、タイヤにとっては厳しい条件がそろっているのです。まずは、こうした難しい状況にいかに対処するかが、上位進出を狙う上で一つのポイントとなります。

ハンドリング面からいうと、菅生大会で義務づけられるローダウンフォース・セッティングはバランス的にフロントのダウンフォース不足を招き、この結果アンダーステアとなります。一方、ラップタイムを短縮する上で大きなポイントとなる最終コーナーは、緩いながらも上り勾配となっているため、フロントの荷重が抜けやすく、そうでなくともアンダーステア傾向を示します。つまり、最終コーナーにおけるアンダーステアを克服し、できるだけ高いスピードを保ったままメインストレートに進入することが、スポーツランドSUGOで好タイムを記録する上では特に重要となるのです。

菅生大会の“暑さ”は、タイヤだけでなくマシンのさまざまなメカニズムにも大きな負担となってのしかかります。そして、そうした熱負荷が思わぬトラブルを招き、マシンをリタイアに追い込むケースも決して少なくないと考えられます。幸い、これまで私たちは冷却系の強化や信頼性の向上に取り組んでおり、第4戦菅生大会に向けては冷却系のさらなる強化を実施する予定です。こうした改善によって高い信頼性を実現し、NSX CONCEPT-GTの上位進出を図ることが、いまの私たちには大きな目標となっています。

それでは、第4戦菅生大会で5台のNSX CONCEPT-GTにどのような戦いが期待されるのか、順に紹介していくことにしましょう。

例年に比べると#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/ジャン・カール・ベルネ組)はセッティングの煮つめが十分とはいえませんが、それでも第1戦岡山国際大会で5位、第3戦オートポリス大会で7位と、着実に入賞を繰り返しています。また、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTが履くミシュラン・タイヤはスポーツランドSUGOを得意としているほか、路面温度が上がったときにはとりわけ強みを発揮するので、Honda勢の中でも上位入賞が特に期待できる一台だと思います。

#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)と#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)にも、もちろん上位入賞の期待がかかっています。先ほど、暑くなればミシュランが有利と申し上げましたが、そのライバルであるブリヂストンは従来の弱点を克服しようと懸命の開発を続けており、ミシュランとの差はごくわずかになっています。あとは、両チームが持ち前の強さを発揮してくれれば、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTにも負けない好成績を挙げられるはずです。表彰台を目標に、全力で戦ってくれることを期待しています。

今シーズンの#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)はマシンの仕上がりが順調で、第3戦オートポリス大会ではブレーキトラブルさえなければHondaの最上位に入っていたはずです。また、ARTAはHSV-010 GTで臨んだ昨年の菅生大会で栄冠を勝ち取り、このとき松浦選手はGT500クラスでの初優勝を果たしています。さらに、元F1ドライバーのリウッツィ選手も急速に日本のレース環境に馴染んできているので、是非、上位進出を果たしてほしいものです。

#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)は、残念ながら暑いコンディションが得意とは言えません。ただし、前戦オートポリス大会で入賞を果たし、勢いに乗っているのは事実です。また、彼らが履いているダンロップタイヤはウェットコンディションで抜群のパフォーマンスを誇ります。第4戦菅生大会では、そうした彼らの“よさ”が存分に発揮されることを期待しています。

7月19〜20日といえば、小中学校が夏休みに入っている地方もあるのではないでしょうか? 是非とも皆さまおそろいでスポーツランドSUGOを訪れ、5台のNSX CONCEPT-GTに熱い声援を送ってくださいますよう、心からお願い申し上げます。