モータースポーツ > SUPER GT > GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート > vol.85

GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.85 Rd.3 オートポリス・レビュー 着実な進歩を果たす 酷暑のなか、3台のNSX CONCEPT‐GTがポイントを獲得

第3戦オートポリス大会では、#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)の6位がHonda勢の最上位となったほか、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/ジャン・カール・ベルネ組)は7位でこれに続き、さらに#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)も10位に入って今季初のポイントを獲得しました。まだまだ決して満足のいく成績ではありませんが、入賞は10位の#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTだけだった第2戦富士大会に比べれば、この結果は私たちが着実に進歩していることを証明するものといえます。

前回もお知らせした通り、今年から導入された車両規則ではシーズン中の開発が厳しく制限されているため、私たちの現在の状況を直ちに改めるのは容易なことではありません。そうした中、第2戦富士大会で起こったトラブルの対策として冷却性能を強化したり、第3戦に先立って菅生で行われたテストの結果を踏まえてセッティングを煮つめるなどしてパフォーマンスの向上に努めました。その成果が、前述した結果となって表れたのです。

ところで、第3戦オートポリス大会は、第2戦富士大会までとはまた違った戦いとなりました。そのひとつは、オートポリスというコース自体の特性にあります。

最近、SUPER GTではピックアップと呼ばれる現象がよく話題に上ります。これは、コース上に落ちているゴムの塊がタイヤに付着し、この影響でタイヤ本来のグリップ力を発揮できなくなるというもの。この現象が起きるとラップタイムが2秒、3秒と落ちるだけでなく、ゴムの塊がタイヤ表面に付着したまま何周走行してもはがれないケースがあるため、ときには勝敗を分けることもあるほど重大な問題になります。

実は、その詳しいメカニズムがまだよく分かっていませんが、オートポリスは比較的このピックアップの問題が起こりやすいことで知られています。では、どうやってピックアップを回避すればいいのかといえば、ゴムの塊が多く落ちているのは走行ラインを外した部分なので、なるべくラインから外れないというのが一つの対処方法となります。もっとも、GT300クラスの車両をかき分けながら走るGT500クラスが全くラインを外さずに走行するのは不可能に近いため、路面状況やレース展開などを見極めながらコース上のどの部分を走るかを瞬時に判断することがドライバーには求められます。

今回もこの点を周知徹底してからレースに挑みましたが、レース序盤にGT300クラスの車両をオーバーテイクしようとしたベルネ選手が走行ラインを外した途端にコントロールを失い、コースアウトを喫しました。これも根本的にはピックアップと同種の問題といえるでしょう。

ただし、今回は一度タイヤ表面にゴムの塊がついても比較的すぐにはがれ落ちる傾向があったようです。実は、タイヤ表面に付着したゴムの塊は、路面温度が高いほうがはがれやすくなることが経験的に分かっています。今回もレース中に強い日差しが照りつけ、路面温度が40℃前後まで上がったため、幸いにしてピックアップが深刻な問題に発展することはありませんでした。ここ数年、SUPER GTのオートポリス戦といえば9月下旬から10月中旬にかけての涼しい時期に開催されることが多く、このため、ことさらピックアップが大きく注目されましたが、今年の決勝は6月上旬に行われ、しかも好天に恵まれたことが、少なくともピックアップに関してはいい方向に働いたようです。

一方で、この気温の高さ、路面温度の高さは別の問題も引き起こしました。

今年デビューした新型車両はダウンフォースが非常に大きく、このためコーナリングスピードが格段に向上しています。ワンメイクタイヤを使用することでタイヤのグリップ力が極端に上がらない仕組みを作ったドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)であれば、ダウンフォースが大きなマシンでもそれほどコーナリングスピードは高くなりませんが、ご存じの通りSUPER GTのGT500クラスではブリヂストン、ミシュラン、ダンロップ、ヨコハマなどが激しいタイヤ開発競争を繰り広げており、このためDTMで使用されているタイヤよりもかなりグリップ力は高くなっています。ここに、前述した大きなダウンフォースが加わるわけですから、コーナリングスピードはDTMを大きく超えるレベルに到達します。さすがにこの領域になると、もともと高い安全性が確保されている日本のサーキットでもランオフエリアのスペースが不足する可能性が生まれ、コースアウトした車両が十分に減速されないままガードレールやタイヤバリアなどに激突し、ドライバーが負傷するリスクが高まります。こうした状況を鑑み、SUPER GTを運営するGTアソシエイションは、第3戦オートポリスと第4戦SUGOでも富士スピードウェイと同じローダウンフォース仕様の使用を義務づけました。ダウンフォースを下げることでコーナリングスピードを落とし、日本のサーキットが本来的に備えている高い安全性を取り戻そうとしたのです。

この判断は間違っていませんでしたが、指定された空力セッティングを用いると特にフロントのダウンフォースが不足気味となり、ステアリングを切ったときの反応が鈍くなる、つまりアンダーステアになる傾向が出てきます。これはフロントタイヤに大きな負荷がかかるもので、このためフロントタイヤの摩耗が早く進行してピットストップを早めに行わなければならないチームもありました。幸い、Honda勢はいずれもこの影響を受けませんでしたが、これもレースの結果を左右する一つの要因となりました。

さて、こういう状況の中でレースに挑んだ5台のNSX CONCEPT‐GTになにが起きたのか、順に見ていくことにしましょう。

6位に入った#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTは、スタートの順位を守り、大きなトラブルを起こすことなく最後まで走りきりました。その意味では、第2戦富士大会後に実施したクーリング性能の強化などの対策が効果を発揮したといえるでしょう。また、レースだけでなくテストでも走り込むことにより、セッティングがより煮詰められ、ドライバーにとって操りやすいマシンに進化したことも6位に入る原動力になったといえます。

#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTにも目立ったトラブルはありませんでしたが、前述したレース序盤のコースアウトで大きく遅れたことが7位に留まる要因となりました。また、酷暑の中で行われたレースだった影響で中盤以降、ブレーキペダルの踏み応えが若干スポンジーになったようです。この点は原因を究明し、今後の対策に結びつけたいと思います。

#32 Epson NSX CONCEPT-GTにも大きなトラブルはありませんでした。ただし、今回のような暑いコンディションの下では、タイヤのパフォーマンスをフルに引き出すことが難しかったようです。それでも貴重な1ポイントを獲得できました。この1ポイントが、きっとシーズン終盤に大きな意味を持ってくるでしょう。

#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)はハンドリングの仕上がりが良好だったので、もしも最後まで順調に走りきっていたら#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GTを上回るポジションでフィニッシュしていたかもしれません。ただし、ブレーキ系統にトラブルが発生したために38周を走行したところでコースアウトを喫し、リタイアに終わりました。非常に残念な結果でしたが、彼らにとっては今後につながるレースになったと思います。

#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)にはエンジンの補機類に関係するトラブルが発生。ステアリングを握っていた塚越選手のとっさの判断でコースサイドにマシンを止め、リタイアに終わりました。彼らも非常に実力のあるチームだけに、リタイアに終わったことは残念でした。

冒頭でも申し上げた通り、今回の成績は全く満足できるものではありません。ただし、開発がほとんど認められない現状の中で、私たちが少しずつ前進していることは証明できました。次戦SUGO大会に向けてはさらに大きな一歩を踏み出せる見通しですが、これについては次回「第4戦菅生プレビュー篇」でお話しすることにしましょう。引き続き5台のNSX CONCEPT‐GTに大きなご声援をお送りくださいますよう、心からお願い申し上げます。