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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.83 rd.2 富士レビュー 言い訳のできない惨敗 開発計画を見直し、一歩ずつ着実な追い上げを目指す

第2戦富士大会は、文字通りの惨敗に終わりました。GT500クラスの全15台が出走した予選では、5台のNSX CONCEPT‐GTが11位から15位までを占めたほか、決勝では5台中4台がリタイアし、残る1台もトップから15周遅れでようやくフィニッシュしたのですから、もはやなにも言い訳はできません。もちろん、このような事態にならないよう、現状でできる最大限の努力をしてからレースウイークに臨みましたが、本当に無念としか言いようのない結果に終わってしまいました。応援してくださったファンの皆さんにはお詫びするしかありません。本当に申し訳ありませんでした。

惨敗を喫した理由はいくつか挙げることができます。まず、ミッドシップレイアウトとハイブリッドシステムを採用するNSX CONCEPT‐GTにのみ課せられた70kgの性能調整が重くのしかかったこと。これは以前にもご説明した通り、ミッドシップはライバル陣営が採用するフロント・エンジン・レイアウトよりもパフォーマンス面で有利と考えられていること、そしてハイブリッドシステムも同様にHondaのみが採用していることからウェイトハンディの対象とされました。とはいえ、フロント・エンジンのレイアウトを前提に開発された標準モノコックを用いながら、ミッドシップ本来のパフォーマンスを100%引き出すのは至難の技です。とりわけ、ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)と共通化された新しい車両規則に従うと必然的にダウンフォースが大きくなり、このためマシンの特性としてはどうしてもコーナリング性能重視となります。ところが、70kgものウェイトを積んでいるとコーナリング・スピードを高めるのは非常に困難になることは、皆さんもご想像の通りです。

もっとも、これも以前お話しした通り、NSX CONCEPT‐GTに70kgの性能調整を課すことはHondaも同意して決まったことなので、いまさら言い訳がましいことを申し上げるのはフェアではありません。それでも、敢えてここでこの件を取り上げたのは、現在Hondaが苦戦している理由をご説明申し上げたかったからです。いずれにしても、私たちはその克服に向けて今も最大限の努力を続けているところです。

私たちが現在、苦しんでいるもうひとつの理由として、足回りや前後重量バランスの配分などに代表される、いわゆるセッティングが十分煮詰められていない点が挙げられます。Hondaは、ライバル陣営がシーズン前に行ったマレーシア・セパンでのテストにも参加することなく、ギリギリまで設計と開発に取り組んできました。これは、新しい車両規則では一度完成させたマシンに改良を施すことが基本的に認められていないことを踏まえて判断されたものです。しかし、結果的にテストに費やせる期間が短くなり、セッティングを十分に煮詰めることができないまま開幕戦を迎えることとなりました。今後はシーズン中に行われるテストの機会を活用しながら、足回りなどの熟成を図っていくことになります。

苦戦したもうひとつの理由は、ミッドシップレイアウトに起因する冷却の難しさにあります。エンジンをキャビンの後方に搭載するミッドシップは、エンジンルームの直前に大きな居住空間が設けられているため、冷却気を車両の前方から取り込むには不利なレイアウトといえます。もちろん、量産車であれば過酷な条件下でもオーバーヒートを起こさないように大きな開口部を用意して十分な冷却気が取り込めるようにデザインしますが、開口部を大きくすれば必然的に空気抵抗が増大するため、レーシングカーでは極力開口部を小さくしようとします。また、レギュレーションによってはラジエーターやインタークーラーのレイアウトに制約を設けているケースもあります。このような難しい条件のため、第2戦富士大会ではNSX CONCEPT‐GTの冷却能力が不足していることが明らかになり、トラブルを引き起こしてしまいました。具体的には、エンジンルーム内の温度が想定以上まで上がったためにセーフティー機構が作動し、これがスロットル系の動作を妨げる形になりました。したがって、しばらく停止すると温度が下がってセーフティー機構も解除され、短い距離であれば走行することができるようになります。一度コースサイドに停止したNSX CONCEPT‐GTが、しばらくすると再び動き出し、ピットまでゆっくりと戻ってこられたのは、このためです。

このトラブルが、#8 ARTA NSX CONCEPT-GT(ヴィタントニオ・リウッツィ/松浦孝亮組)、#18 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GT(山本尚貴/ジャン・カール・ベルネ組)、#32 Epson NSX CONCEPT-GT(中嶋大祐/ベルトラン・バゲット組)、そして#100 RAYBRIG NSX CONCEPT-GT(小暮卓史/武藤英紀組)の4台に襲いかかりました。ただし、#18 ウイダー モデューロ NSXについてはトラブル発生のタイミングが比較的遅く、しかも規定周回数を走りきれば10位入賞となって1ポイントを獲得できることがわかっていたため、何度かピットインを繰り返しながらフィニッシュを目指すことにしました。一方、2周を終えたところでリタイアした#17 KEIHIN NSX CONCEPT-GT(塚越広大/金石年弘組)だけは状況が異なり、電装系のトラブルが原因でした。

繰り返しになりますが、応援してくださったファンの皆さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。心からお詫び申し上げます。とはいえ、レギュレーションによる規制もあって、直ちに大改造を実施することはできず、当面は前述したセッティングの煮詰めによってパフォーマンスの向上を図ることになります。このため、ライバル陣営と互角に戦えるようになるまでには、少なくとも数戦の期間が必要になると想定しています。とはいえ、皆さんには一刻も早くNSX CONCEPT‐GTが優勝するシーンをご披露したいと願っていますので、引き続き全力で開発に取り組むつもりです。引き続き5台のNSX CONCEPT‐GTに熱い声援をお送りくださいますよう、心からお願い申し上げます。