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GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポートvol.80 rd.1 岡山国際プレビュー 間近に迫ったNSX CONCEPT-GTのデビュー戦 鍵を握るのはチームとドライバーの総合力

4月5〜6日に開催される第1戦岡山国際大会を目前に控え、3月15〜16日に同じ岡山国際サーキットで今シーズン最初の合同テストが行われました。Hondaとしては開幕前にあと1度、富士スピードウェイでテストを実施する予定ですが、こちらは第2戦富士大会に向けて行うものなので、第1戦岡山国際大会を想定したテストはこれで完了したことになります。

では、どのような開幕戦になるか見通しが立ったのかと問われると、いささか返答に困ります。なぜなら、今回のテストでは3メーカーともレースシミュレーションを中心に行っており、テストの際に記録されたラップタイムだけでは、どのチームが速くてどのチームが遅いかは判断できないのです。

そうしたなか、Hondaはレースウイークを通じて新型NSX CONCEPT-GTの速さを100%引き出すためのさまざまなトライを今回の合同テストで行い、マシンの扱い方を学びました。その具体的な内容をご説明する前に、2014年から導入される新しい車両規則の特徴について簡単に説明させていただきます。

ご存じの通り、新レギュレーションは幅広い部分でドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)との共通化が図られています。この結果、DTMで設定されている多くの標準パーツの使用が義務づけられたほか、エアロダイナミクスや足回りに関する規制が強化されたため、これまでのようにコースに合わせて車両を自由にセッティングすることが困難になりました。ひと言でいえば、セッティングの幅が狭くなったとなります。

これにより、従来のテストでは最適なセッティングを探し出すことに多くの時間を費やしていましたが、今シーズンからは車両側で調整できる範囲が狭まったため、ドライバーもチームもマシンの“扱い方”の部分で工夫を行い、その速さを最大限引き出すように務めなければならなくなりました。

シーズンオフのテストが始まって以来、Hondaは常にこの問題と向き合ってきました。その結果、分かったこともたくさんありましたが、まだ完全に見通せたと言いきれない部分も残っています。冒頭で、第1戦岡山国際大会がどんな戦いになるか予想がつかないと申し上げたのも、こういった側面があったからです。

そうしたさまざまな要素のなかで、まだ扱い方が掴みきれていない領域のひとつが、新たに採用されることになったカーボンブレーキです。これまでSUPER GTで採用されてきたスチールブレーキと異なり、カーボンブレーキは一般的に言ってその温度によって制動力が敏感に変化する傾向があります。また、今回SUPER GTで導入されたカーボンブレーキは温まるまでにやや長い時間を要する傾向があり、このため昨年までと同じように1周だけのフォーメーションラップでスタートを切るとブレーキの温度が十分上がらず、このため1コーナーで必要な制動力が得られずに接触やコースアウトが頻発するという事態を引き起こしかねません。そこでチームやドライバーはブレーキをできるだけ素早くウォームアップする手法を見つけ出すため、さまざまなことを試しているところです。それでもどうしても安全が確保されない場合には、ウォーミングアップを2周に延長するなど競技規則を一部修正する必要が出てくるかもしれませんが、これはまだひとつの仮定に過ぎないので、ここで議論するのは時期尚早かもしれません。

一方、クルマの扱いに慣れが必要という部分では、セッティングも全く同様です。前述の通り、これまでに比べてエアロダイナミクスで調整できる範囲はきわめて狭くなっており、基本的にはリアウイングの角度を多少変更する程度のことしかできません。そこで車高やコーナーウェイトなどを駆使してハンドリングをドライバーの好みに合わせようとするのですが、これでできることにも限界があります。あとは、どうしてもドライバーの側で柔軟に対応してもらうという部分も出てきます。この辺も、従来のSUPER GTとは大きく異なる点といえます。

一方、マシンの信頼性についていえば、NSX CONCEPT-GTが一戦を戦うのに十分な信頼性を有していることは確認済みです。ただし、一部パーツに関しては3レース、4レースと継続して使うことが義務づけられているので、これらがどのような耐久性を備えているかについては今後さらに確認していく必要があります。

では、Hondaはどのような姿勢で第1戦岡山国際大会に挑むのでしょうか? 基本的には、一ラップの速さを追い求めるのではなく、レース全体を通じて速さを発揮できるよう、エンジンやシャシーのセットアップを行い、信頼性を確保できるように努力していく戦い方となります。言い換えればチーム、タイヤ、ドライバーなどの総合力が問われる戦いになると思います。もちろん、HondaはNSX CONCEPT-GTのデビュー戦を白星で飾るべく全力を投じるので、これまでと変わらない熱い声援をお送りいただけますよう、心よりお願い申し上げます。